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O.A.ウェスタッド『冷戦 ワールドヒストリー』あらすじと感想~冷戦時代の世界を網羅したおすすめ通史

目次

O.A.ウェスタッド『冷戦 ワールドヒストリー』概要と感想~冷戦時代を学ぶのにおすすめな参考書

今回ご紹介するのは2020年に岩波書店より発行されたO.A.ウェスタッド著、益田実監訳・山本健・小川浩之訳の『冷戦 ワールドヒストリー』です。

早速この本について見ていきましょう。

資本主義と社会主義に世界を二分し、国家や人々の生活を翻弄した冷戦。それはイデオロギー対立であると同時に、一つの国際システムであった。その起源から展開、終焉までの一〇〇年の歩みを、冷戦史研究の第一人者が描き切った迫力の通史。米ソや欧州のみならず、アジア、アフリカ、ラテンアメリカなど全世界を包含した「世界史」としての冷戦を浮かび上がらせる。

上巻は一九世紀末からニつの大戦を経て、キューバ危機までの冷戦が本格化する時代を扱う。

下巻はヴェトナム戦争後の展開を追い、東欧革命とソ連解体による冷戦の終焉までを扱う。

Amazon商品紹介ページより

この本のすごいところは冷戦構造を単なる米ソの対立と描くのではなく、世界規模から見るべき問題として取り上げ、しかも第二次世界大戦のはるか前から遡って語っていくところにあります。

監訳者あとがきではこの本について次のように述べられています。

これまでの冷戦史研究の蓄積のなかで、本書はどのような価値を持つのだろうか。最大の価値は、なんといっても本書の視野の広さとその一貫性にある。

本書は、時間的には冷戦の始まりから終わりまでを一〇〇年という最大限の範囲に拡張するかたちで視野に収め、空間的にも冷戦がなんらかの影響をおよぼしたあらゆる領域を視野に入れ、冒頭から結末までそのすべてを一人の人間が執筆し、広く一般の読者に届けられた稀有の成果である。まさに大きな歴史である。これがどれだけ大きな営みであるか、すでに本書を手にとって紐解かれた読者は十分におわかりではあろうが、その意義はあらためて認識されなくてはならない。(中略)

冷戦は歴史的な事象として見れば、地理的にも空間的にも桁外れに広い範囲におよび、人間生活の極めて広い領域にまで浸透したできごとであり、本書で著者が提示する冷戦の枠組みは、これに加えてさらに時間的にも一八九〇年代にまでさかのぼるものである。

既存の研究成果を広く活用して最大限の範囲に筆をおよぼしつつ、同時に一人の人間の手になる一貫した歴史記述として、特定の細部を拡大するよりもむしろ多様な歴史的変化にまんべんなく目配りし、それら相互のつながりを途切れることなくたどりながら、その過程で冷戦が起こした変化、冷戦に生じた変化を明らかにし、そしてそれを読者が手にとって読んで消化可能な一冊の書物とする、この作業が現実になされたという点が本書の最大の意義であろう。
※一部改行しました

岩波書店、O.A.ウェスタッド、益田実監訳・山本健・小川浩之訳『冷戦 ワールドヒストリー』下巻P455-457

この本を読んでいて驚いたのは冷戦が本格的に始まる第二次世界大戦後からソ連の崩壊に至るまで、それこそ世界のどこかで絶え間なく争いが起きているということでした。しかもその争いというのもいつ全面戦争になってもおかしくないほど危険なものだったということです。

冷戦といえばキューバ危機を思い浮かべていた私にとって、この事件の他にも全面戦争の危機が何度も何度もあったというのは本当に驚きでした。

第二次世界大戦の後は戦争が終わり、世界は平和だったと日本では考えがちですがまったくそんなことはなく、たまたま日本が戦場になっていないというだけの話で、世界中危険な空気があったということを思い知らされました。

そしてこの本の「日本語版への序文」で興味深い言葉がありましたのでそちらをご紹介します。

グローバルな現象としての冷戦は日本にとって決定的に重要であり、冷戦にとって日本は決定的に重要だった。

イギリスの日本史家であるアントニー・べストが述べているように、「実際のところ、日本人の生活のあらゆる側面ー政治、戦略、経済、そして文化ーがその〔冷戦の〕イデオロギー的な対立によってある程度までは影響を受けた」のである。(中略)

これは一九四五年から一九五二年にかけてのアメリカによる占領時代についてだけではなく一九九〇年代初頭にいたるまでの全期間に当てはまることであり、今日でもなお、その重要な名残をいくつか目にすることができる。

私は、おそらくべストが評価する以上に冷戦は日本にとって重要な意義を持っていたと考えており、アメリカとソ連という二つの超大国を除けば、日本以上に冷戦が重要な役割を果たした国は考えられないと主張したい。

冷戦対立は今日にいたるまで日本の国際関係にとっての限界を定めただけではない。それはまた日本の国内政治と社会組織にとっての決定要因の多くも定めた。手短に言えば、冷戦が日本にどのような影響をおよぼしたかを理解することなしに今日の日本を理解するのは不可能なのである。

しかしそれと同様に、冷戦がグローバルに拡張する過程で、そしてその最終的な帰結において日本は大きな役割を果たした。

日本は冷戦の緊張をもっぱら消極的に受け止めていただけであるという考えはほぼ完全に間違っている。アメリカとの同盟を通じて、そして自らの巨大な経済力と対外的な影響力を通じて、日本は独自の目的のために冷戦のなかで積極的な役割を果たした。

この日本が果たした役割は、冷戦が一九七〇年代から一九八〇年代へといたって初めて、より重要なものになったと論じることもできるだろう。日本はとりわけ世界経済に関して、グローバルな情勢を大きく動かす国となっていた。この日本の地位がまったく反映されることなく、冷戦というグローバルな対立があの時期にあのようなかたちで終わったと想像するのは困難である。
※一部改行しました

岩波書店、O.A.ウェスタッド、益田実監訳・山本健・小川浩之訳『冷戦 ワールドヒストリー』上巻Pⅶ~ⅷ

日本という国は冷戦と密接な関係がある。そして日本はこの冷戦構造においてアメリカの世界戦略に大きな役割を果たした。

もしこれを言い換えるならば日本の戦後の発展は冷戦構造の賜物、より直接的に言えばアメリカによる恩恵であるということになります。

朝鮮戦争によって日本の経済が特需を迎え復興が進んだという話はよく聞きますが、その後も冷戦構造があるからこそ日本の経済成長があったというのは私にとって驚きでした。アメリカのおかげで経済成長があったというのはよく言われることですが、さらに言えばこれは冷戦があったからこそアメリカは日本が経済成長しやすいように動いたということになります。もし冷戦がなければどうなっていたか、おそらく今とはかなり違ったものとなっていたのではないでしょうか。(歴史に「もし」はナンセンスですが)

そしてこの箇所を読んでいてふと思ったのが日本のバブルが崩壊し、それから今に至るまでの不況も冷戦の終結と連動しているのではないかということでした。バブル崩壊と東側陣営の崩壊が奇妙なほど時期が一致し、その後日本が回復できていないのももしかしたら日本はもはやその役割を終えたからなのではないかとすら思えてしまいます。これは私の個人的な感想、印象ですので根拠はありませんがこの本を読んでいてそんな恐怖心を抱いたのでした。

私は1990年生まれということで冷戦時代を経験していません。なかなか冷戦時の世界を学ぶ機会もなく、ほとんど冷戦のことを知らなかったというのが正直なところでした。

ですがこの本はそんな私でもすらすら読め、そして驚くような事実をたくさん教えてくれます。世界の歴史の流れをとてもわかりやすく、刺激的に教えてくれます。米ソ冷戦を軸にヨーロッパやアジア、中南米、アフリカまで世界中の歴史を学ぶことができるスケールの大きい歴史書となっています。

歴史書というと固い読み物のようなイメージがあるかもしれませんが、まるで物語を読んでいるかのように入り込むことができます。これはとてもおすすめな1冊となっています。ぜひ手に取って頂きたい本です。

以上、「 O.A.ウェスタッド 『冷戦 ワールドヒストリー』冷戦時代の世界を網羅したおすすめ通史」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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