目次
エリコの誘惑の山~キリストと悪魔の宿命の対決の舞台!僧侶上田隆弘の世界一周記―イスラエル編⑦
さて、エリコ観光の大きな目的の一つである城壁跡の散策を終えたぼくが次に向かうのは誘惑の山と呼ばれる場所だ。
ここはイエス・キリストが40日間の断食修行をしていた時に悪魔から3つの誘惑を受け、それを見事に跳ね返したという『新約聖書』の記述に基づいた場所である。
先ほどの城壁の遺跡のすぐそこからロープウェーに乗ってその山まで向かう。
写真に写っている正面の山が誘惑の山だ。
かなりの断崖絶壁だ。
ロープウェーはあっと間にこの急勾配を上っていく。
着いたと思ったら今度は山肌に沿って作られた階段状の道をひたすら上っていく。
なかなかに骨が折れる。
下を向けば目がくらんでしまいそうだ。
ぼくは軽い高所恐怖症なのだ。
ようやく登りきると、修道院の入り口が出迎えてくれる。
さあ、中に入ってみよう。
ここは現在でも使われている修道院で、この一つ一つの扉の先には小部屋があり、修道士が住んでいたり、短期滞在の際に使われているのだそうだ。
ようやく目的地の誘惑の山を見渡せる部屋までたどり着く。
この部屋のバルコニーが誘惑の山を見るのにも、エリコの町を一望するのにもベストらしい。
では、その景色をご覧いただこう。
お先にエリコの全景。この町が緑豊かな土地であることが写真でも伝わることと思う。
エリコは砂漠の中にあるオアシスの町なのだ。だからこそ、ここでいち早く農耕が始まったのだ。
ちなみに、この写真の左側に注目していただきたい。
隣の部屋のバルコニーが映り込んでいる。
そう。今ぼくが立っているバルコニーも同じように崖から突き出ているのだ。
高所恐怖症の人間にとって、これがどれほどのことか想像していただければ幸いである。
さて、では本命の誘惑の山をご覧いただこう。
山肌の中に穴が開いているのが確認できるだろうか。
その穴は洞窟状になっている。この洞窟内でイエスは断食修行をし、神への祈りを捧げたと言われている。
そしてそこで悪魔からの誘惑を受けるのである。
その悪魔の誘惑というのはどのような顛末だったのだろうか。
『新約聖書』の記述をぼくなりに要約してみると次のようになる。
イエスはある時荒れ野に向かい、そこで40日間、昼も夜も断食された後、空腹を覚えられた。
すると悪魔が現れイエスにこう言った。
「神の子なら、そこらにある石がパンになるように命じたらどうだ」
イエスはこう答えられた。
「『人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる』と旧約聖書に書かれている」
次に悪魔はイエスを都に連れていき神殿の屋根の端に立たせてこう言った。
「神の子なら飛び降りたらどうだ。神が命じるなら天使があなたを支えるから死ぬことはないだろう」
イエスはこう答えられた。
「『あなたの神である主を試してはならない』とも旧約聖書に書かれている」
さらに悪魔は非常に高い山に連れていき世のすべての国々の繁栄ぶりを見せてこう言った。
「もしひれ伏して私を拝むなら、これらの国々をすべてお前に与えよう」
するとイエスはこう言われた。
「退けサタン。『あなたの神である主を拝み、ただ主に仕えよ』と旧約聖書に書いてある。」
イエスのこのような回答で、悪魔は離れ去っていった。
以上がこの地で起きた物語の要約だ。
ここからはキリスト教の専門家ではないのでぼくの個人的な見解であり、キリスト教の公式の教義に基づいたものではないことを先にお断りさせていただくが、
仏教にもお釈迦様が修行中に悪魔に誘惑されるという話が出てくる。
その時もあらゆる煩悩の化身であるマーラという悪魔とそれをはねのけるお釈迦様という構図が現れる。
偉大な宗教家の修行には悪魔との戦いが欠かせないということなのだろうか。
そしてぼくが特に興味深いと感じたのは2番目の誘惑だ。
「神の子なら飛び降りてみよ」という誘惑が、なかなか思いつかないような誘惑なように思えたからだ。
この誘惑は何を意図しているのだろうか。
イエスの勇気を試してるのだろうか?
だがイエスの答えは「神を試してはならない」の一言だ。
さあ、これは何を意味しているのだろうか。
きっと複雑で深い意味がきっとあるのだろう。今のぼくにはなんともわからない問いだ。
だが、この誘惑を興味深いと感じたということは、きっとぼくにとってなにかしら縁がある問題だということなのだろう。
これからじっくりと考えていこう。
このあとは、エリコからさらに西に向かい、イエスが洗礼を受けた場所であるヨルダン川へと向かう。
続く
※2020年9月4日追記
実はこの場所こそドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の最重要シーン「大審問官の章」に説かれる悪魔の誘惑の舞台となった場所。キリスト教教義における最重要問題のひとつがここで語られています。それについては以下の記事で解説していますのでぜひご覧ください。
次の記事はこちら
前の記事はこちら
イスラエル編記事一覧はこちら
関連記事
コメント