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ガンジス上流の聖地ハリドワールへ~ヒンドゥー教巡礼の聖地は想像以上にディープな世界だった

ハリドワール
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(2)ガンジス上流の聖地ハリドワールへ~ヒンドゥー教巡礼の聖地は想像以上にディープな世界だった

インド

羽田空港からデリー空港に到着した私はいきなり驚くことになった。空港内の巨大な手のモニュメントにも面食らったのは事実だが、何より、インドの匂いがしないのである。これは完全に私の偏見なのだが、インドに来ればスパイスの匂いがすると思い込んでいたのである。しかしどうだろう、この空港にはそんな匂いはない。無臭である。開発が進むインドにはもはやスパイス臭は存在しないのだろうか。それともそもそもそんな匂いなど存在しないのだろうか。だが、答えを知るにはまだ早い。まだ入国して数時間も経っていないのである。じっくり確かめていこうではないか。

雨季のインドといえど毎日雨が降っているわけではない。私が到着した日は晴れ間が広がっていた。

しかし湿度はかなり高く、明らかに蒸している。暑い。これがインドの雨季か。ただ、これくらいであれば東京の梅雨の方がよっぽど暑くじめじめしているように感じる。

何はともあれここから私のインドは始まるのだ。

空港付近の宿に一泊した私は翌朝ガンジス川上流のヒンドゥー教の聖地ハリドワールへ向かった。

ガンジス川の聖地といえば、ほとんどの人がイメージするのがヴァーラーナシーではないだろうか。

ヴァーラーナシー Wikipediaより

しかしインドは広い。ガンジス川の聖地と言っても、インドにはいくつもあるのである。

私が向かったのはガンジス川上流のハリドワールという聖地だ。ここはデリー空港から北に250キロ弱ほどの距離にあり、車で行くならば6時間半ほどの道のりである。ちなみに、ヴァーラーナシーはガンジス川の中流域にあたる。

ヴァーラーナシーの汚さに関してはすでに日本人も皆何らかの媒体で耳にしたことがあるはずだ。指をつけただけで体調を崩すとか、沐浴したら数週間入院したとかの逸話にも事欠かない。

それもそのはず、ガンジス川中流域ともなると様々な街の生活排水が流れ込んできている。さらにここヴァーラーナシーの下水設備も壊滅的で汚水がそもそも垂れ流し状態である。そしてその川で皆洗濯し、さらにはその他諸々の必要なこと(ここではあえて書かない)をするのである。無菌消臭に慣れ切った日本人がこんな所に浸かり、少しでもその水が体内に入り込もうものならどうなるかは想像するも恐ろしい。

ただ、最近は政府肝入りの事業として下水処理の整備が行われていて、そこに日本企業も関わっているそう。つまり、あまりの汚染ぶりにインド人も最近はお腹を壊しているらしいのである。ガイドさんもそう言っていた。

とまあこういうわけでヴァーラーナシーのガンジスの汚さについてはここまでにしておいて、そのはるか上流、ヒマラヤの麓のガンジスはどうかというと、これがものすごくきれいだというのである。川の底が見えるほどのきれいさだとのこと。このきれいさもあって、近年はインド人がヴァーラーナシーよりもハリドワールに行きたがるという話もあるという。

ふむ、そうであるならば私もまずはこちらから行ってみるのもありではないか。いきなりどぎついインドを見るよりもきれいなガンジスを見た方が精神的にも安心なのではないかと私は考えたのである。(それが実に甘い考えだったことをこの後すぐに私は知ることになる)

デリー空港周辺は猛烈な勢いで道路建設が進んでいる。そしてハリドワールへの道もかつてと比べて大幅に道がよくなり、随分と移動が楽になったそう。これは現モディ政権の肝入りの政策であるインド国内の道路インフラ整備に起因している。まさに今インドは列島改造ならぬ大陸改造中なのだ。どこに行っても道路工事や巨大なインフラ工事が行われている。インドの勢いをまざまざと感じさせる光景がそこかしこに繰り広げられていた。

さて、ハリドワール近郊に到着。シヴァ神の像が迎えてくれる。神々の国、インドらしい演出だ。

そしていよいよ街中心部へ近づこうかという頃、車内から見えた景色に私は驚くことになった。

これは何だ・・・?

粗末なテントが立ち並び、見渡す限りゴミだらけ・・・。本当にここが聖地なのか?

ガイドさんによると、このテントや車は皆巡礼にやって来た人達のものなのだという・・・。

ちょっと待て・・・。私はハリドワールがヴァーラーナシーよりもきれいでインド初心者にもある程度快適に過ごせるような場所だと思ってここに来たのだ。これはまさか・・・

私はいよいよ不安になってきた。

ガンジス川付近で車を降り、ここからは歩いていく。私の宿泊する宿もガンジス川沿いにある。ここから先は道が狭く車は通れない。

いよいよガンジス川と対面だ。これが私にとっての初ガンジスである。

橋を渡り切った時に見た光景は衝撃的だった。

ものすごい濁流である。底が透明どころではない。洪水かと見まがうほどの轟々たる流れであった。

そしてそこにドボンと勢いよく漬かり、頭まで潜るインド人。

そして何より、この「人、人、人」である!

道を歩くのも難儀なほどたくさんの人がここを歩いている。しかもそのほとんどがインド人。日本人はおろか外国人の姿もほとんど見られない。ガイドさんに聞くと、これでも空いているとのこと。ここは季節を問わず常に人で溢れかえるのだそう。

そして私が来る直前まで雨が降っていたのか道もかなり濡れている。その水たまりに様々なものが混ざり灰色のものやら茶色のものやらで歩くのも恐ろしくなってくる。そしてインドといえば牛。当たり前のようにそこにいた。

道を進んでいき橋を渡る。この先にハリドワールのメインのガート(沐浴場)がある。

だが、こうして歩き始めて5分も経たぬうちに随分と様々な人を目にすることになった。巡礼のインド人や商人、浮浪者や乞食はもちろんだが、私がここで特に印象に残ったのが修行者の存在である。この写真に写っているオレンジの服を着た人もそうである。

そしてその中でもとびきり異彩を放っていたのが裸の行者だった。全身何も着ず、全身に灰を塗りたくり、ぼうぼうに伸びたひげとぱさぱさの長髪をぶら下げたその姿に私はぎょっとせずにはいられなかった。そしてそんなエキセントリックな人間がごく当たり前のように歩いていることにも驚いた。いや、むしろ「ここの皆が彼の存在を当たり前のように許容していること」に驚いたという方が正確だろう。ここではこのような裸の行者も当たり前なのである。何も驚くようなことではない。ここはインドなのだから。

橋の上からの写真。まさに濁流。波打つ水面がものすごい速度で流れていく。

正面に見える塔の辺りがメイン・ガートだ。

この写真に写っているプラスチックの容器に注目して頂きたい。これは聖なるガンジスの水を持ち帰るためのポリタンクだ。ハリドワールでは街の至る所でこうしたポリタンクの山を見ることになる。

ガートでは男性がパンツ一丁で川に浸かり、女性はサリーを着たまま水に入っていく。

私は雨に濡れた地面に手を触れることすら恐ろしく感じてしまうが、全身濡れている彼らにとっては多少の雨もぬかるみも関係ないのだろう。それに、そもそもこの聖なるガンジスは全ての汚れを洗い流す。私の衛生観念など及びもしない世界なのである。

それにしてもこの喧噪、混沌ぶりには開いた口が塞がらない。そして下の動画を見てほしい。

なんと、この濁流をインド人が流れていくのである。

いいのか!?これはいいのか!?

あまりの光景に私は呆然とするしかなかった。

ここがヒンドゥー教の聖地だというのはわかる。そしてインド人が全身この川に潜るのもわかる。だが、激流にインド人が浮かぶこの光景は一体何なのだ!いや、そんな生易しいものではない。死ぬぞそんなことをしたら!

わからない・・・。わからないぞインド・・・。

よく見てみると橋の下に縄のようなものがぶら下がっている。何だこれは・・・

私はすぐに気づいた。そうか!ここに掴まるのか!と。溺れないための命綱なのだ。

そしてお分かりだろう。この少年たちがこの後どんなアクションを起こすかも。

雨季のインドは私の想像以上に手強い存在だった。雑多な空間、人の波、雨季ならではの生臭くて鼻をつまみたくなるようなにおい、喧噪・・・そして何より聖地ハリドワールの異様な熱気にすでにしてめまいがしている。頭が痛い。夜に備え、私は早々に宿に戻り横になった。ここで無理をするわけにはいかない。私はこの後ヒンドゥー教の祈りの儀式プージャを観に行くのだ。

次の記事ではそんな熱気溢れるハリドワールの夜についてお話ししていく。私はこれで完全にノックアウトである。初戦にして圧倒的な破壊力をインドは見せつけてきたのである。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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