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上杉彰紀『インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る』あらすじと感想~謎多き古代インドの複雑さを学べる参考書

インダス文明
目次

上杉彰紀『インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る』概要と感想~謎多き古代インドの複雑さを学べる参考書

今回ご紹介するのは2022年に雄山閣より発行された上杉彰紀著『インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る』です。

早速この本について見ていきましょう。

インダス文明はどのように栄え、なぜ滅びたのか。
インダス文明の成立以前から、インダス文明期、そして衰退のその後まで、発掘調査の成果と最新の考古学的研究をもとに、新たにインダス文明の興亡の実態を描く。

Amazon商品紹介ページより
インダス文明の代表的な遺跡 モヘンジョ・ダロ Wikipediaより

この本は謎多きインダス文明について様々な視点から詳しく見ていける参考書です。この作品の特徴を著者は「はじめに」で次のように述べています。

インダス文明の歴史的意義を考える上で重要なのが、このおよそ七〇〇年にわたって高度に発達した古代文明が衰退・消滅し、忽然と歴史から姿を消したことである。前一九〇〇年頃に都市はなくなり、文字も使われなくなってしまったのである。エジプト文明やメソポタミア文明、あるいは中国文明が変化を繰り返しながらも文明社会として存続したのとは対照的である。華々しい都市文明の姿を描き出すことと同じように、その衰退を考えることはインダス文明研究の中で非常に重要なテーマとなっている。近年の研究で、都市と文字は姿を消したものの、文明社会の衰退がきわめてダイナミックにのちの時代の南アジアの社会と関わっていることがおぼろげながらにみえてきており、インダス文明の衰退はそれを担った人々やその文化伝統の「絶滅」「消滅」というようなものではなく、都市を支えた社会環境が変化する中で、それに適応するかのように社会の様態が変容し、続く時代の社会の形成へとつながったと理解するほうがよさそうである。俯瞰的に評価すると、都市と文字を失うという、ほかの古代文明とは異なる軌跡をたどりながらも、南アジア世界の形成過程の中で重要な役割を果たしたと考えることができる。

本書では、こうしたインダス文明の諸特徴がどのように出現し、変化したのか、それがどのように衰退という現象へとつながったのか、さらにのちの南アジア世界の形成過程の中でどのような役割を果たしたのか、最新の研究成果を盛り込みながら説明することを試みる。

雄山閣、上杉彰紀『インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る』P11-12

本書のタイトルが『インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る』とありますように、この本ではインダス文明の誕生から衰退という歴史の大きな動きを見ていきます。私達は古代文明の驚異的な繁栄や技術に目が向いてしまいがちですが、それだけではなく衰退と変容にも着目して見ていくことの大切さをこの本では学ぶことができます。

そしてこの本の「おわりに」では、次のように説かれています。これは僧侶である私にとっても非常に重要な指摘でした。

世界四大文明のひとつに数えられるインダス文明について、その成り立ちから衰退までを概観してきた。文字が解読されていないこともあり、インダス文明がどのような社会であったのか、よくわかっていないところも多い。ほかの地域の古代文明に比較して、インダス文明が私たち日本人にあまり知られていないのも実情である。

とりわけ、インダス文明が南アジアの歴史の中でどのような意味があるのか、その評価が明確にされていないのは大きな問題である。南アジア史というと、仏教の発展にも大きな貢献をなしたアショーカ王や、仏教の歴史、中世の時代のヒンドゥー教の発達とその造形美術、南アジア世界の中で独自の発達を遂げたイスラームの歴史、そしてイギリスによる植民地支配とそれに続く独立運動がよく知られている。その中で、インダス文明は、その実態がよくわかっていないがゆえに、後世に起こった諸々の歴史事象との関連性が十分に認識されないまま、孤高の存在となってしまっている。

雄山閣、上杉彰紀『インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る』P255

仏教もインダス文明やその後のインド世界の歴史の文脈で生まれてきたものです。インダス文明は衰退して完全に消滅してしまったのではなく、その後のインド世界に溶け込み、一体化していきました。

そうした歴史の大きな流れの中に仏教もある。

私たちは「インドで仏教が生まれた」というと、何か新しいものが独立して生まれてきたという風に考えてしまいがちです。

ですが実際にはそうではなくインダス文明、いやさらに言えば世界の歴史と密接に絡み合って仏教は生まれてきました。

私もこうしてインダス文明を学ぶまでは仏教とインダス文明というものをつなげて考えるということにはほとんど意識が向いていませんでした。

ですがこの本を読んで改めて人類の歴史の壮大さ、ダイナミズムを感じることになりました。やはりインドは面白い!

謎多きインダス文明の様々な姿を知れる面白い作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「上杉彰紀『インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る』~謎多き古代インドの複雑さを学べる参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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