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西尾幹二『ニーチェ 第一部』あらすじと感想~哲学者になる前の若きニーチェの姿を知れるおすすめ伝記

目次

おすすめニーチェ伝記!西尾幹二『ニーチェ 第一部』概要と感想

フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)wikipediaより

今回ご紹介するのは、1977年に中央公論社より発行された西尾幹二著『ニーチェ 第一部』です。

早速この本について見ていきましょう。

内容(「BOOK」データベースより)

可能な限り主としてドイツでの基礎資料および文献を調査し整理して、緻密かつ新鮮な解釈を提示した画期的なニーチェ研究。本書第一部では、知られざる幼少期・青年期に照明をあて、若きニーチェの生活と思想の総合的叙述から、その天才性の萌芽を探る。「日本と西欧におけるニーチェ観変遷史」を併録。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
西尾幹二
昭和10年、東京生まれ。昭和36年、東京大学大学院修士課程修了。昭和54年、同大学文学博士。著書に『ヨーロッパの個人主義』『ニーチェとの対話』(以上講談社現代新書)、『ヨーロッパ像の転換』『教育と自由』『全体主義の呪い』『人生の価値について』『わたしの昭和史1、2少年篇』(以上新潮社)、『異なる悲劇 日本とドイツ』(文芸春秋)、『沈黙する歴史』(徳間書店)、『国民の歴史』『西尾幹二の思想と行動(1)(2)(3)』(扶桑社)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

Amazon商品紹介ページより ※ちくま学芸文庫版

この本の特徴はニーチェの生涯を当時の時代背景や思想の流れと共に詳細に追っていく点にあります。

しかも驚くことに、伝記といえば普通はその出生から書き始められるところですがこの本ではニーチェの受容史からスタートします。

なぜ西尾氏はそのような書き方をしたのか、続編の『ニーチェ 第二部』のあとがきで次のように述べています。

私はつねづねニーチェの思想内容をニーチェの立場のみから論者が代弁している論考に、慊らぬものを感じていた。多くのニーチェ論がとかく熱にうかされた著者のモノローグになるのは、二ーチェという存在そのものの性格から来ている。彼はわれわれの自己表現欲をそそるような言葉を多数残しているので、彼については何でも好き勝手なことが言えるというところに、問題があるのである。ニーチェを彼の立場からではなく彼の背後から、すなわち十九世紀の生活と思想の具体的な「場」に彼を据えて、そこから眺めるという視点は成り立たないものか、と私はかねて考えていた。

勿論これを完全に実行することは非常に困難である。彼が関与した十九世紀の哲学、文学、歴史、言語、神話、演劇、古典研究、音楽、教育、政治等のあらゆる具体状況を私自身が知り、私が各領域のいわば専門家となって、ニーチェを背後から見るという視点に外ならないのである。そんなことはとうてい不可能だが、ただせめてそういう複数地点から彼を見る方法を多少とも意識したいと思った。

中央公論社、西尾幹二『ニーチェ 第二部』P388-389

「彼はわれわれの自己表現欲をそそるような言葉を多数残しているので、彼については何でも好き勝手なことが言えるというところに、問題があるのである。」という著者の言葉は非常に重要な指摘だと思います。

次の記事でこのことについてより詳しく見ていきますが、著者はこうした問題に陥らないようにニーチェの生涯を辿っていきます。それをより明らかにするためにニーチェの受容史から伝記を始めたのでした。

そして上の解説にありますように、この本ではかなり丁寧に当時の時代背景やニーチェの生活が振り返られていきます。

この本は全367ページとなかなかな分量ですが、この本ではニーチェが学者となる前の青年時代、1865年までのニーチェが書かれます。つまり、21歳までのニーチェを丸一冊かけてじっくりと見ていくことになります。

ニーチェに向かっては誰でも素手で当るしかない。他人の案内は役に立たない。ニーチェを研究する者は、自分自身が問われていることを知っていなくてはならない。

中央公論社、西尾幹二『ニーチェ 第一部』P36

と著者が述べますように、この本は豊富な歴史資料や文献を基に私達に多くのことを問いかけてきます。

単にニーチェの生涯を学ぶだけでなくそこから私たちが何を思うのか、それを体感していく読書体験になりました。知的興奮を味わえる1冊です。とてもおすすめな作品です。

以上、「西尾幹二『ニーチェ 第一部』おすすめニーチェ伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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