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クラウス・ヴァーゲンバッハ『カフカのプラハ』あらすじと感想~カフカゆかりの地巡りのお供におすすめ!ファン必見のプラハ案内

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カフカゆかりの街プラハを徹底解説!クラウス・ヴァーゲンバッハ『カフカのプラハ』概要と感想

フランツ・カフカ(1883-1924)Wikipediaより

今回ご紹介するのは2003年に水声社より発行されたクラウス・ヴァーゲンバッハ著、須藤正美訳『カフカのプラハ』です。

カフカの作品についてはこれまで当ブログでも紹介してきました。不思議な世界観を持つカフカと彼の生きたプラハの街は切っても切れない関係です。この本はそんなカフカとプラハの街について書かれた本です。

では早速この本について見ていきましょう。まえがきの文章が非常にわかりやすかったので今回はそちらを紹介します。

フランツ・カフカは、その冷たく語彙に乏しい、それでいてクライストを思わせる優れた散文で知られ、聴衆を前にして講演する猿(『アカデミーへの報告』)や、虫に変身したザムザ(『変身』)、そして土地測量士(『城』)や流刑地(『流刑地にて』)など、一連の特異な文学的形象によって、またその権力に精通したエキスパートぶりによって、今世紀の後半以降、世界のほとんどすべての文学に強烈な影響を与え続けている作家である。

カフカはその短い生涯(一ハハ三―一九二四年)において、故郷であるプラハをほとんど離れることがなかった。例外は、何回かの出張と見聞を広めるための私的な旅行、たび重なったサナトリウム滞在、そして半年間のべルリン生活とボヘミアでの数カ月の田舎暮らし、それがすべてだった。

すでに十九歳でカフカはこう書いている。《プラハは放してくれない。この小母さんには鈎爪がついている》。公務員としての勤務も四年が過ぎ、最初の長編小説に取りかかろうとしていた一九一二年、カフカニ十九歳のときはこうである。《僕はプラハで何という生活を送っていることか。人々を求める願望、それは僕の中にあって、満たされるやいなや不安へと反転してしまうのだが、この願望が休暇の間にいよいよ明らかになってきた……)。

その二年後の日記にはこう記す。《プラハを出てゆくこと。かつて僕が経験したものの中でもっとも苛酷な人間的損失に対して、僕の持つもっとも強力な対抗手段で立ち向かうこと》。一九一七年の記述には諦念が見られる。《プラハ、人間たちと同様に諸宗教も失われてゆく》。

カフカはどんな家(そのほとんどすべてが現存する)に住んだのか、そして彼が《僕は公園や路地を歩き回るのが好きだ》と書くとき、それはどういうことだったのか。

要するにカフカは何を「目の当たり」にしていたのか。それを知りたいと思うなら、プラハに行く他はないだろう。実際に旅立つのであれ、想像裡に遊ぶのであれ。プラハへの旅の読本でありツアーガイドでもある本書は、そのいずれの場合についても有能な伴侶となるべく構想されている。また家屋や街並みは可能な限り当時の写真を用いて再現した。

水声社クラウス・ヴァーゲンバッハ、須藤正美訳『カフカのプラハ』P11

このまえがきの最後の部分、「要するにカフカは何を「目の当たり」にしていたのか。それを知りたいと思うなら、プラハに行く他はないだろう。実際に旅立つのであれ、想像裡に遊ぶのであれ。プラハへの旅の読本でありツアーガイドでもある本書は、そのいずれの場合についても有能な伴侶となるべく構想されている。また家屋や街並みは可能な限り当時の写真を用いて再現した。」というのがこの本の一番端的なまとめになります。

私も2019年にプラハを訪れました。

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しかしその時はまだカフカにはあまり関心がなかったのでカフカ関連のことはスルーしてしまっていました。

ですがこの本を読んで驚いたことに、私が何気なく歩いていた場所がカフカゆかりの場所だったりというのが何カ所もあったのです。プラハの街並みはどこを歩いても美しく、ただ単にぶらぶら散策するだけでも最高に楽しい街です。今でもその美しさははっきり私の記憶の中に残っています。その記憶がこの本の文面や写真とぴったり合致し、非常に驚いたのでありました。

また、訳者あとがきにはこの本の素晴らしさについて書かれていました。

本書についてはフランクアルター・アルゲマイネ紙が、旅行特集ぺージで次のように紹介している。「あまりにもすばらしい本なので批評家は困惑してしまう。どこから誉めたらよいか迷うからだ。収録されている古い写真こそもっとも美しいものだと言ってよいかも知れない。かつてこのような写真がこれほど該博な知識に裏打ちされて紹介されたことはなかった。またこれほど敬愛の念に満ちたコメントが添えられたこともなかった。(……)テキストと写真と地図、それぞれが寸分の狂いもなく組み合わされて一体となっている点、そして古都プラハを巡る旅がヴァーゲンバッハによって実に周到に演出されている点、それらが本書のもっとも優れた美質である。そしてそれによって本書は凡百の旅行ガイドブックをはるかに凌駕するものとなった」(中略)

本書を読み、添えられた古い写真を眺めていると、若きヴァーゲンバッハの関心と執念を支えていたものが、カフカとカフカの生きた街、プラハへの愛着の深さであったということがはっきりと感得される。訳者自身、かつて『若き日のカフカ』に感銘を受けた者として、この愛らしい小冊子を訳す機会に恵まれたことを、望外の喜びとするものである。

水声社クラウス・ヴァーゲンバッハ、須藤正美訳『カフカのプラハ』P132

「本書は凡百の旅行ガイドブックをはるかに凌駕するものとなった」

ものすごい絶賛ぶりですよね。ですがたしかにこの本は並の本ではありません。写真や地図も豊富でさらにカフカの生涯やその性格、作品の特徴まで知ることができます。カフカファン必携の書であると私も思います。

そして訳者も最後に述べていますようにこの本の著者ヴァーゲンバッハのカフカ愛がこの本をこうした素晴らしい1冊にしているように思います。やはり愛がある人の筆はそうでない人のものとは全然変わってきますよね。「カフカを愛する人間が、カフカを愛する人のために書いた本」。そのようにもこの本は言えるのではないでしょうか。非常におすすめな1冊です。

以上、「クラウス・ヴァーゲンバッハ『カフカのプラハ』カフカゆかりの地巡りのお供におすすめ!ファン必見のプラハ案内」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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