人口の40%がスラムの住人⁉ムンバイの高層ビルとスラム街~インドの超格差社会について考える
【インド・スリランカ紀行】(19)
人口の40%がスラムの住人⁉ムンバイの高層ビルとダーラヴィーのスラム街~インドの超格差社会について考える
エレファンタ島のシヴァ神像の興奮が冷めやらぬまま、私はインドの西海岸の巨大国際都市ムンバイの街中を見て回ることにした。
悪名高いインドのスモッグはここでも健在で、目の前のビル群も霞んでしまっている。
それにしてもムンバイの高層ビル群には驚く。ここはインドの金融の中心でもありグローバルな雰囲気が一際強い。
特に官公庁や銀行が密集したエリアではここがインドであることを忘れてしまうほどだった。
私はここでスタバのラテを飲み、ほっと一息ついた。ここにはスタバもあるのである。
そうそう。これである。私はもはやこれがなしでは耐えられない。もはや国際資本無しではいられないのである。
8月のハリドワールやリシケシでは美味しいコーヒーを飲むことができなかったのでこれは何よりの癒しの一時だった。
そして私はここで勇んでケンタッキーへと向かった。ここにはスタバもあるように、マクドナルドやケンタッキーもあるのである。
インドのケンタッキーといえば、私にとって因縁の相手でもある。
「(9)インドのケンタッキーは辛い!?辛いものが苦手な私にとってインドはスパイス地獄だった」の記事でもお話ししたように、私はデリーのケンタッキーの辛さにすっかりやられてしまったのである。
今回はそのリベンジ。ムンバイでもケンタッキーは辛いのかを実際に検証してみたい。
ムンバイのケンタッキーは店内もオシャレ。インドっぽさは微塵も感じられない。最近はデートスポットとしても若者に人気らしい。安くて美味しいからだそうだ。
さて、実食である。前回と同じハンバーガーを注文したのだが味はいかに・・・
・・・!?辛く・・・ない?
おぉ、辛くない!辛くないのである!
これは一体どうしたものか。私の味覚がおかしいのか、体調不良明けの前回がおかしかったのか、なぜかはわからないのだがムンバイのケンタッキーは辛くなかったのである。ガイドさんいわく、北インドのデリーと南インドのムンバイでは食文化も全く違うので辛さも違うかもしれないとのことだった。また、国際都市であるムンバイはよりグローバル向けに料理を作っている可能性もあるとのこと。
ふむふむ、やはりインドは広い!インドという一言でくくれるほど単純ではないのである。これは面白い体験であった。
そして私がここムンバイで特に関心があったのが、こちらの写真にも写っている「スラム」である。
ムンバイの人口はおよそ2000万人であるが、その40%、つまり800万人もの人がこうしたスラムに住んでいるとされている。800万人という数字は想像を絶するものがある。日本で言うなら、東京都の人口が約1400万人、大阪府で880万人ほど。これらと比べてみると800万という数字のインパクトが見えてくる。それだけの人々がここムンバイのスラムで今も生活しているのである。
私も車を降りてムンバイで最も巨大なスラムであるダーラヴィーを歩いた。
たしかに建物はかなりぼろく、街並みもきれいとは言い難い。
だが、私が想像していたバラック小屋の連なりとは異なっているのがすぐにわかった。
ここから先写真撮影はしていないが、ガイドさんと共にスラムの小路も見学した。人一人通れるかくらいの狭い路地を挟んでおんぼろの建物がびっしり立ち並んでいた。建物が日の光を遮り、薄暗く感じられるが、そこまで恐怖を感じるような場所ではなかった。あくまで日常生活の場なのである。ドラマや映画のような殺伐とした危険な場所ではない。
先程も見たようにここムンバイでは高層ビルが数多く立ち並んでいる。しかしそのすぐそばにはこうしたスラム街が広がっている。ムンバイ市内を走っていて驚いたのだが、どこにいっても当たり前のようにスラム街が現れてくるのである。高層ビルやマンションとスラムが対になっているのかと思ってしまうほど隣接しているのだ。ここまで露骨に貧富の差が見せつけられるというのはなかなかにショッキングでもある。
その究極とも言えるのがインドの大富豪アンバニ家の個人宅アンティリアであろう。
この写真正面の少し霞がかったビル丸々一棟がアンバニ氏の自宅なのだ。ジェイムズ・クラブツリー著『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』ではこの建物について次のように紹介されていた。
ムケーシュ・アンバニが自分と妻、三人の子どもたちのために建てた高層住宅、アンティリア。この建物ほどインドの新エリート層が持つ権勢をはっきりと象徴するものはほかにないだろう。
高さ一六〇メートルの鉄とガラスでできたタワーは、敷地面積こそわずか一二〇〇坪あまりだが、総床面積はヴェルサイユ宮殿のざっと三分のニにもなる。
一階はホテルにあるような大ホールで占められ、総重量二五トンにもなる外国製シャンデリアの数々がよくマッチしている。駐車用の六つのフロアは一家が所有する車のコレクション置き場となっている一方、数百人規模のスタッフ集団が家族からのさまざまなニーズに対応するべく控えている。
上層階ではラグジュアリーな居住スぺースと空中庭園が目を引く。最上階のレセプションルームは三方がガラス張りになっており、広々とした屋外テラスに出るとムンバイの街を一望することができる。
階下にはジムとヨガスタジオを備えたスポーツクラブがある。サウナの逆バージョンのような「アイスルーム」は、ムンバイの厳しい夏の暑さから逃れることができる施設だ。ぐっと下がり地下二階に行くと、そこはアンバニ家の子どもたちのレクリエーションフロアになっており、サッカー場やバスケットボールのコートまである。
長年にわたり、ムンバイは分断された都市であり続けてきた。財界の大物や投資家の住宅街があるかと思えば、そのすぐそばにトタンやビニールシートが屋根代わりの掘っ立て小屋が立ち並ぶ、高密度の巨大都市。アンティリアはこの分断をさらに増幅させているだけにすぎないようだ—ムンバイは貧富が両極端なことで知られているが、そびえ立つ建物そのものがさらに上の階層をつくり出しているかのように。
※スマホ等でも読みやすいように一部改行した。
白水社、ジェイムズ・クラブツリー、笠井亮平訳『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』P19-20
いかがだろうか。アンティリアの凄まじさがこれを読んで伝わったのではないだろうか。
今インドではこうした超富裕層がどんどん出てきている。彼らは圧倒的な富を手にしているが、その一方で上に説かれたような格差の問題がインドを揺るがしている。元々カースト制があり、格差の大きい国ではあったが、それでもなお許容しきれない程の凄まじい格差が生まれているのが今のインドなのである。しかもそこにはやはり政治的腐敗も大きく絡んでおり、今後のインドの発展にも大きな影を落としそうな状況となっている。
興味のある方はぜひ以下の『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』という本をおすすめしたい。
ただ、このスラム街についてガイドさんが話してくれたことも実に興味深かった。
なんと、ここのスラムに住んでいる人はその多くが「好きで住んでいるのだ」という。
「え?」と思うかもしれないが、事実そうなのだという。その証拠に、今インド政府はスラム撲滅作戦のために多くの住宅を提供しているのだが、そこに移り住んだとしても住民たちはすぐにそこを嫌がってスラムに帰っていってしまうのだそうだ。
なぜ彼らは政府から提供されたきれいな家を捨ててスラムへと帰ってしまうのだろうか。
まず第一に、彼らにとって家賃や水道光熱費を払うのが負担なのである。
そしてこれが大事なのだが、彼らにとってはスラムでも十分快適だということなのだそうだ。
高い家賃や光熱費を払うくらいならスラムの方がよっぽどましだと彼らは考えるのである。
私達日本人にはあまり理解できない感覚ではあるが、ガイドさんはさらに解説をしてくれた。
「実はムンバイのスラムの住人の多くが地方の村からやってきた出稼ぎ労働者なのです。田舎には仕事がありません。だから彼らは大都市のムンバイに出てくるのです。そしてここで10年、何10年と働きお金をためて、田舎に帰っていきます。お金を貯めた彼らは大きな家を建ててゆったりと暮らします。田舎ではお金がかからないのでそういう暮らしができるのです。」
ほお、なるほど!そしてこの解説を聞いて私はハッとした。
「カジュラーホーの田舎でも見ましたが、田舎の暮らしはそもそも自給自足に近く、建物もぼろぼろ、トイレも青空トイレですよね。そういう生活を元々送っているのならスラムの生活もあながち苦ではないということでしょうか」
「はい、その通りです。彼らにとってスラムは特に厳しい場所という認識はないのです。むしろ、お金を貯めるために好都合だと考えています。」
そうかそうか、これは大いに誤解していた。私はこれまで、スラムは貧困層が絶望的な暮らしをしている場所だと思っていたが、インドの貧しい農村から出てきた出稼ぎ労働者の街でもあったのだ。だからこそ汚い家屋でも気にせず生活することができるのだ。
ただ、もちろん、全てが全てそうではないことは重々承知だ。貧困、過酷な生活環境、差別の問題など問題が山済みなのも事実だろう。だが、このスラム全体を憐れむべき存在であるかのように考えるのはそれはそれで一面的な見方なのかもしれないと私は感じたのであった。
こうしたインドの生活事情について興味のある方には佐藤大介著『13億人のトイレ』や藤本欣也著『インドの正体―好調な発展に潜む危険』などの参考書をおすすめしたい。
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※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。
〇「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
〇「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
〇「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」
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