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三島由紀夫『不道徳教育講座』あらすじと感想~逆説とユーモア溢れる名エッセイ集!三島節の真骨頂を体感!

不道徳教育講座
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三島由紀夫『不道徳教育講座』概要と感想~逆説とユーモア溢れる名エッセイ集!三島節の真骨頂を体感!

今回ご紹介するのは1959年に中央公論社より発行された三島由紀夫著『不道徳教育講座』です。私が読んだのはKADOKAWA、令和5年改版55刷版です。

早速この本について見ていきましょう。

「大いにウソをつくべし】【弱い者をいじめるべし】【痴漢を歓迎すべし】…世の良識家たちの度胆を抜く不道徳のススメ。西鶴の『本朝二十不孝』にならい、著者一流のウィットと逆説的レトリックで展開。

Amazon商品紹介ページより
三島由紀夫(1925-1970)Wikipediaより

この作品はタイトルこそ『不道徳教育講座』という刺激的でダークなイメージを醸し出していますが、中身は意外や意外、結論は不道徳どころではない王道へと着地します。この挑戦的なタイトルは三島由紀夫流のユーモアが込められた大いなる逆説なのでありました。

本書について巻末の解説では次のように述べられています。

まことに三島氏は真面目な人間です。けれどじかに交際してみると、それは唐変木の、石頭的真面目さとは全く違います。よくしゃべり、よく遊び、よく食べ、よく笑う(それも大声で)まことにたのしい青年!であります。話はいつも機智に、エスプリに、ユーモアにみちています。そして単なる冗談に終らず人生や社会や文学の本質を鋭く逆説的に言いあてています。

ぼくはいつも三島氏のそういう機智に富んだ楽しい遊びが文学にあらわれないのかと考えていました。しかし氏は、そんな機智や逆説を中心とする気の利いた作品を書こうとしません。もっと雄大で厳しい長篇に力を注いでいるのです。そこにはそして機智や逆説の遊びがはいるすきまがありません。

ところが、この『不道徳教育講座』は三島氏の小説にあらわれない座談における機智や逆説や笑いが十分に発揮されています。連載の舞台が「週刊明星」という女性向き大衆週刊誌であっただけに、三島氏はかみしもを脱いで、ふざけています。

「知らない男とでも酒場へ行くべし」「教師を内心バカにすべし」「大いにウソをつくべし」からはじまり六十九章に及ぶ各章は、いずれも世の道徳、倫理、良識をひっくり返すような刺戟的なタイトルがついています。封建時代からの「女大学式」の抑圧的な道徳講座をいちいち諷刺し、その虚妄をあばきます。つまり冒頭にあるように中国の「二十四孝」をもじった西鶴の「本朝二十不孝」式の現代倫理のパロディをねらったのです。

氏はここで得意の心理分析、洞察で人間の心理を裏返し、悪へ、革命へ、破滅へ虚無へ向う人間の原存在の深淵をチラリと垣間見せます。そして独特のレトリックで反逆の牙を巧みに抜き、結局は健全道徳を容認し、その知慧や真実を讃美するような結論にもって行きます。氏はまことに見事な手品使いであり、いかに遊蕩児めかしても、結局は健全な良識人であることをここでも標榜しています。「不道徳」は真の「道徳」教育になります。氏はマジメ人間なのです。けれど氏は、どんでんがえしに似た発想やユーモアを読者に与えれば、それで十分で、結論はどうでもよいと考えているに違いありません。氏の視点はこの『不道徳教育講座』のさらに遥かさきにある、もっと深いなにかを見出そうとしているのです。この『不道徳教育講座』は、伊藤整、太宰治、山口瞳などのユーモラスなエッセイ、エピグラムと共に、現代日本文学の歴史に残る、しゃれた、そして根源的なアフォリズム集です。ここで読者は氏の裸の姿を見ることができるかも知れません。

『不道徳教育講座』は、昭和三十三年(一九五八)「週刊明星」に連載され、翌三十四年(一九五九)四月、中央公論社から単行本で刊行されたものであり、作者はこの時まだ三十四歳の若さでした。みんなを楽しくさせながら規をこえないところに現代への鋭い諷刺が、芸術への憧憬が遊びの中に表現されています。

KADOKAWA、三島由紀夫『不道徳教育講座』P339-340

ここで解説されている通り、本書に収録されているエッセイには三島由紀夫のユーモアが溢れています。

思わず笑ってしまうような箇所がいくつも出てきます。特に、『私はナポリじゃあるまいし、「ナポリを見てから死ね」といわれるほど名所旧跡面きゅうせきづらをしているわけではない』という三島のツッコミには私も噴き出してしまいました。

『金閣寺』『憂国』を読んだ後にこのエッセイを読んだ私ですが、三島由紀夫ってこんなに面白い人なんだ!と新鮮な驚きを感じながらの読書となりました。

ただ、言われてみればたしかに三島由紀夫のユーモア、面白さは以前見た映像でも伝わってくるものがありました。

それが有名な東大全共闘との討論です。

私もこの映画を観たのですが、淡々と語り続ける三島由紀夫でありますがなんとも絶妙なトーンで機知に富んだユーモアを繰り出し、学生達も大うけするという場面が何度も出てきます。あんなピリピリした空間で当意即妙のユーモアを発揮できるのは並大抵のことではありません。『不道徳教育講座』を読んでいると、「なるほど、そりゃ東大でもあんなに面白い事が話せるわけだ」と納得することとなりました。

しかもこうしたユーモア溢れるエッセイの中に思わずドキッとしてしまうような教えが説かれるのです。この映画の中にもありましたが、敵対していたはずの全共闘の学生ですら三島由紀夫を思わず「先生」と呼んでしまうという珍事がありましたが、その気持ちもわかるなと思ってしまいました。単に上から教条的に教え込むのではなく、自然と教えを聞きたくなるような、慕いたくなるような、そんな雰囲気があるのが三島由紀夫という男なのだということを本書を通じて感じることになりました。

余談になりますが、本書の後半には三島由紀夫の筋肉論が掲載されています。

いうまでもなく肉体ははかないもので、第一、今の世の中では、体だけでは一文にもならない。金になるのは何らかの形の知能です。おまけに知能のほうは、年をとるにつれて累積されてゆくが、体のほうは、三十代から衰退の一路を辿りはじめる。そうかといって、金にもなるしモチもいい知能だけを後生大事にしている男は、私には何だか卑しくみえる。一回きりの人生なのですから、はかないものをもう少し大事にして、磨き立てたっていいではないか。筋肉はよく目に見え、その隆々たる形はいかにも力強いが、それが人間の存在の中で一等はかないものを象徴しているというところに、私は人間の美しさを見ます。

KADOKAWA、三島由紀夫『不道徳教育講座』P267
三島30歳(1955年秋、自宅の庭にて)Wikipediaより

三島は30代に入ってから肉体改造に取り組み、ボディ・ビルに勤しんでいました。その三島の筋肉論を聴けるのも本書の醍醐味でもあります。それにしても、この三島の筋肉の美学には痺れますね!近年の筋肉ブームを考えると、この三島の筋肉論が一種のムーブメントに発展してもおかしくありません。

ここではこれ以上は紹介できませんが、この本では他にも「お見事!」としか言いようのない名エッセイが数多く収録されています。くすっと笑えるユーモアもあれば、思わず唸らざるをえない切れ味抜群の逆説も炸裂します。

重厚な小説とは一味違うユーモア溢れる三島の言葉を堪能できるおすすめの作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「三島由紀夫『不道徳教育講座』~逆説とユーモア溢れる名エッセイ集!三島節の真骨頂を体感!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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