MENU

馬場紀寿『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』あらすじと感想~スリランカ仏教とインドとの関係、歴史を知れる刺激的な一冊!

仏教の正統と異端
目次

馬場紀寿『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』概要と感想~スリランカ仏教とインドとの関係、歴史を知れる刺激的な一冊!

今回ご紹介するのは2022年に東京大学出版会より発行された馬場紀寿著『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』です。

早速この本について見ていきましょう。

「大乗仏教」でもなく、「上座部仏教」でもない――
サンスクリット語からパーリ語へ
「聖なる」言語の転換から描きなおす新たな仏教史


インドからスリランカ、そして東南アジアに伝わった「上座部仏教」と、日本にも伝わった「大乗仏教」という図式は近代が作りだした二分法であった。近代の分類概念を克服し、サンスクリット語とパーリ語をめぐるダイナミックなネットワークの実態から仏教史の新しい展開を切りひらく。

Amazon商品紹介ページより
仏教の主要な3つの分類を表した図。赤色がパーリ語仏典を用いる上座部仏教。黄色は漢訳仏典、青色はチベット語仏典を用いる大乗仏教 Wikipediaより

「「大乗仏教」でもなく、「上座部仏教」でもない――
サンスクリット語からパーリ語へ
「聖なる」言語の転換から描きなおす新たな仏教史」

こう言われると難しそうなイメージが湧いてしまうかもしれませんが、言語を切り口に仏教の歴史を見ていくこの本はものすごく刺激的です。

仏教を学んでいると「サンスクリット語原典」、「パーリ語原典」という言葉によく出くわします。サンスクリット語は聖なる言葉であると同時に古代インド思想界における共通言語でもありました。また、パーリ語も同じようにスリランカ仏教における古典言語です。普通はこれら両言語においてはこれくらいの理解で十分なのですが、このサンスクリット語とパーリ語の違いについて、実はとてつもない事実が潜んでいたのでありました。それを本書ではじっくりと見ていくことになります。

そもそもサンスクリット語とパーリ語、どちらが古いのか、その由来は何だったのか。なぜスリランカはサンスクリット語ではなくパーリ語を使用したのか。

ここにインドとスリランカの歴史的な背景が関わってくるのでありました。ここには単に仏教思想の問題だけでなく、国、王権レベルの政治的な問題も絡んでいたのです。

しかも、スリランカといえば「原始仏教に最も近い教えを継承している上座部仏教の国」というイメージがどうしても浮かんでしまいますが、実は上座部仏教と大乗仏教が同居しており、かつては東南アジアにおける大乗仏教の一大拠点ですらあったというのです。これにも政治的な問題が絡んできます。

スリランカの仏教は王権との関係性によって紡がれてきました。単に宗教、思想というレベルだけではくくれない大きな枠組みで仏教は動いてきたのです。もちろん、こうした宗教と歴史の問題はスリランカに限ったことではありません。ですがインドの周縁としてのスリランカが自らのアイデンティティ、正当性を主張するためにはやはり確固たる何かが必要です。それがスリランカにおいてはパーリ語であり、「ブッダの教えを最も忠実に受け継いだ仏教」であったのでした。こうなってくると「ブッダの教えを最も忠実に受け継いだ」というのは客観的な事実ではなく「スリランカがそう主張する」ものであるということも見えてきます。この辺りの事情も詳しく見ていくのが本書です。

正直、ものすごく面白いです。インド、スリランカの仏教を国際政治、内政の視点から見ていくというのはありそうであまりなかったのではないでしょうか。

私も今年スリランカに行く予定でしたのでこれはものすごくありがたい本でした。この記事でお話ししたのは本書の内容の極々一部です。とにかく盛りだくさんで刺激的な内容だらけです。読み始めは少し込み入った話や仏教初学者の方にとっては厳しい内容もありますが、途中からはスリランカの歴史パートに入り一気に読みやすくなります。

これはぜひぜひおすすめしたい一冊です。いや~面白い本でした!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「馬場紀寿『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』~スリランカ仏教とインドとの関係、歴史を知れる刺激的な一冊!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

仏教の正統と異端: パーリ・コスモポリスの成立

仏教の正統と異端: パーリ・コスモポリスの成立

次の記事はこちら

あわせて読みたい
『新アジア仏教史04 スリランカ・東南アジア 静と動の仏教』概要と感想~スリランカの聖地訪問に役立つ... この本ではスリランカの仏教の歴史や現地事情を知ることができます。また、スリランカの仏教聖地についても語られていますので、実際にスリランカを訪れる方にとっても便利な一冊となっています。私も近々スリランカを訪れる予定ですのでとても参考になりました。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
F・C・アーモンド『英国の仏教発見』あらすじと感想~仏教学はイギリスの机上から生まれた!?大乗仏教批... この本を読むと、「原始仏教に帰れ。日本仏教は堕落している」という批判が出てきた理由がよくわかります。これまでどうしても腑に落ちなかった大乗仏教批判に対して「ほお!なるほど!そういうことだったのか」という発見がどんどん出てきます。この批判が出てくる背景を追うととてつもない事実が浮かび上がってきます。これは最高に刺激的な一冊です。

関連記事

あわせて読みたい
【現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】⑴ネパール、ルンビニーでの王子様シッダールタの誕生! 今回の記事から全25回の連載を通してゴータマ・ブッダ(お釈迦様)の生涯を現地写真と共にざっくりとお話ししていきます。 私は2024年2月から3月にかけてインドの仏跡を旅してきました。 この連載では現地ならではの体験を織り交ぜながらブッダの生涯を時代背景と共に解説していきます。
あわせて読みたい
馬場紀寿『初期仏教 ブッダの思想をたどる』概要と感想~最新の研究が反映されたおすすめの原始仏教入門書 この本を読んで私が一番印象に残っているのは中村元先生の説が最新の研究においては否定されているという点でした。 中村元先生についてはこれまでも当ブログでも様々な本を紹介してきました。中村元先生は1999年に亡くなられましたが、その後の仏教学の発展を本作で感じることができます。
あわせて読みたい
新田智通「大乗の仏の淵源」概要と感想~ブッダの神話化はなかった!?中村元の歴史的ブッダ観への批判と... 今作では浄土経典について説かれるということで浄土真宗僧侶である私にとって非常に興味深いものがありました。 特に第二章の新田智通氏による「大乗の仏の淵源」は衝撃的な内容でした。これは仏教を学ぶ全ての人に読んで頂きたい論文です。
あわせて読みたい
『東南アジア上座部仏教への招待』概要と感想~日本と異なる東南アジアの仏教を知るのにおすすめ! 上座部仏教とは何か、そしてそこに生きる人々の生活レベルでの仏教を知れるこの本はとても刺激的でした。日本仏教との違いや共通点を考えながら読むのはとても興味深かったです。
あわせて読みたい
『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』概要と感想~仏教のイメージが覆る?仏教学そのものの歴... 私達が当たり前だと思って享受していた〈仏教学〉が日本の仏教思想や文化とは全く無関係に生まれたものだった。 この本を読めば〈仏教学〉というものがどんな流れで生まれてきたのか、そしてそれがどのように日本にもたらされ、適用されることになったのかがよくわかります。
あわせて読みたい
中村元『古代インド』あらすじと感想~仏教が生まれたインドの風土や歴史を深く広く知れるおすすめ参考書! 仏教の教えや思想を解説する本はそれこそ無数にありますが、それらの思想が生まれてきた時代背景や気候風土をわかりやすくまとめた本は意外と少ないです。この本は私達日本人にとって意外な発見が山ほどある貴重な作品です。これを読めばきっと驚くと思います。
あわせて読みたい
『NHKスペシャル文明の道〈3〉海と陸のシルクロード』あらすじと感想~古代インドとローマ帝国の繋がり... この本は古代インドとローマ帝国を結んだシルクロードについて学ぶのに最高の一冊です。図版や写真も豊富でイメージしやすく、解説も初心者でもわかりやすいように丁寧に語られます。 古代インド、ローマ帝国、どちらも私にとってはロマン溢れる大好きな世界です。その二つが繋がった本書は私にとっても大興奮の一冊でした。
あわせて読みたい
『新アジア仏教史04 スリランカ・東南アジア 静と動の仏教』概要と感想~スリランカの聖地訪問に役立つ... この本ではスリランカの仏教の歴史や現地事情を知ることができます。また、スリランカの仏教聖地についても語られていますので、実際にスリランカを訪れる方にとっても便利な一冊となっています。私も近々スリランカを訪れる予定ですのでとても参考になりました。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次