G・ショーペン『インド大乗仏教の虚像と断片』概要と感想~インド仏教研究に革命を起こした泰斗による最新の論文集!
G・ショーペン『インド大乗仏教の虚像と断片』概要と感想~インド仏教研究に革命を起こした泰斗による最新の論文集!
今回ご紹介するのは2022年に国書刊行会より発行されたグレゴリー・ショーペン著、渡辺省悟監訳の『インド大乗仏教の虚像と断片』です。
早速この本について見ていきましょう。
この四半世紀でもっとも影響力のある仏教学者と評されるグレゴリー・ショーペン。彼の手にかかると、経典の何気ない一節が、ありふれた寄進碑銘が、ほとんど注目されない仏典が、新たな相貌を見せ始め、インド仏教の生きた世界を語りだす。
Amazon商品紹介ページより
前回の記事でグレゴリー・ショペン(※今作ではショーペンと表記されていましたがここからはショペンと表記します)の『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』を紹介しましたが、今作『大乗仏教の虚像と断片』は2022年に発行されたということでまさにショペンの最新の論集となっています。
この本の内容について「監訳者あとがき」では次のように記されています。
本書に含まれた14論文は、最初期に公刊したものや、すでに書いてあったものをもとに初めて公刊されたものを含め、ショーぺンの出発点になるような作品が複数収録されている。
その構成は前半の「虚像」(Figments)に6章、後半の「断片」(Fragments)に8章の計14論文が収録されているが、前半は主に経典という文献を通して仏教の〈実像〉を解釈しようとしたもので、多くは既存の仏教の思想を批判することによって仏教の歴史的展開を描き出す。その意味で〈虚像〉としたのであろう。
後半は碑文、壁画、ストゥーパなど具体的で断片的な資料、すなわちものとしての〈断片〉から、その背景を読み解きながら生きた仏教徒の信仰、すなわち〈実像〉を明らかにすることを試みている。
本書に含まれるオリジナルの論文は4・9・13章の3つだけであるが、既出の論文にも註を補充し、あるいは註を新たに書きおろし、アップデートされている。これらのほとんどは本訳書で初めて日本語訳されたものであるが、第1章のみはすでに日本語訳(小谷信千代訳『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』春秋社、2000。新装版、2018)が刊行されている。この論文は大谷大学でのセミナーや講義録をもとにしたもので、元の原稿はThe Eastern Buddhist (2000)に発表されたものである。いずれも本文の内容は変わらないが、本書の註釈はひとつひとつが最新の研究成果をもとに補充され、またあらたに10項目ほどが書き加えられ、情報を一新している。その意味では益する点もあるであろう。(中略)
また、本書のすべての論文は中期大乗仏教を視野に入れて、初期大乗の起源や僧院の実際、阿弥陀崇拝、観音信仰、遺骨崇拝、墓と埋葬の問題を、碑文や壁画、仏塔などの考古学資料を通して解明している。そのなかで、本書の謝辞で描かれた、早世したショーぺンの兄に対する亡き父の振る舞いと、最後の章で分析されるストゥーパの意味を重ね合わせて仏教徒の信仰の実際を論ずる構成などは、本人の予想に反して1冊の本としてよくまとめていると思う。
国書刊行会、グレゴリー・ショーペン、渡辺省悟監訳『インド大乗仏教の虚像と断片』P422-423
今作もショペン節全開で刺激的な読書になること間違いなしです。
私の中で特に印象に残っているのが第3章の「ブッダの遺骨と比丘の仕事」と第8章の「クシャーナ期阿弥陀仏像碑文とインド初期大乗の特質」です。
「原始仏教は葬式をしない。遺骨への供養も存在しない。それなのに日本仏教は葬式や先祖供養をする。これは仏教として間違っている」
このような批判が今も根強く残っていますが、実はこの批判そのものがもはや学術的に成立しないことがショペンの説から明らかになります。当時のインド仏教徒にとっても遺骨の存在は大切なものだったということが考古学的な証拠から明らかにされつつあります。これは刺激的な論稿でした。
また真宗僧侶である私にとって阿弥陀仏像の碑文のエピソードは非常に興味深いものがありました。
大乗仏教がどのようにして生まれどのように発展してきたのかということを様々な観点から見ていけるのが今作『インド大乗仏教の虚像と断片』です。
仏教入門書としてはあまりに専門的すぎるのでおすすめはできませんが、大乗仏教とは何なのかをより突き詰めて見ていきたい方には最高にスリリングで刺激的な一冊となっています。
ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「G・ショーペン『インド大乗仏教の虚像と断片』~インド仏教研究に革命を起こした泰斗による最新の論文集!」でした。
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