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辛島昇『インド・カレー紀行』あらすじと感想~カレーとはそもそも何か?奥深いインド文化も知れるおすすめ作品!

インド・カレー紀行
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辛島昇『インド・カレー紀行』概要と感想~カレーとはそもそも何か?奥深いインド文化も知れるおすすめ作品!

今回ご紹介するのは2009年に岩波書店より発行された辛島昇著、大村次郷写真『カラー版 インド・カレー紀行』です。

早速この本について見ていきましょう。

カレーといえばインド。では、いつ、どこで、どうしてできたか、知っていますか。インドでは、どんなカレーを食べているのだろう。インド史研究の第一人者が、カレーライスの起源を探りながら、各地の特色あふれる料理を味わい、歴史と文化を語ります。バラエティにとむ料理の美しい写真に、本場カレーが食べたくなります。

Amazon商品紹介ページより

インドといえばカレー!

私もそんなイメージがありましたが、では一体そもそもカレーとは何なのかと問われると意外と難しい!

それに、そもそも日本で食べているカレーライスははたしてカレーなのかという根本的な問題まで生じてきます。

この本はそんなカレーについて知ることができる非常に興味深い作品となっています。

著者はこの本について「はじめに」で次のように述べています。

私はこれまでに、カレーについて、妻の貴子と共著で『カレーの身の上』『カレー学入門』という二冊の本(ともに河出書房新社刊、前著には編集部も参加)を書いている。たまたまその前著が、マンガ『美味しんぼ』の原作者である雁屋哲氏の目にとまった。訪問をうけて話がはずんだ結果、私が第二十四巻に、「カレーの本を書いたインド史の辛島先生」として登場したのである。それ以来、私はカレー博士ということにもなってしまった。

さて、私とインドとのつきあいは、いまから五〇年も昔、大学の卒論に「チョーラ王朝碑文研究序説」という稚拙な論文を書いたときからで、最初にインドに留学した一九六一年から、二〇〇八年一二月の旅行にいたるまで、それぞれ三年近かった二度の長期滞在(二度目は家族とともに)を含め、全体としての滞在は、おそらく八年近くにおよんでいるだろう。そのあいだ、いまにして思えば、インド各地でいろいろなカレーを食べたものである。妻もまた、家族での滞在以来、いろいろなカレーをロにし、自らもつくってきた。その結果が、前記二著の執筆となったのである。

ただ、それらの二著の内容は、カレーとは何かという、本書の最初の部分をふくらませたものであって、ここの料理は触れていない。カレー成立の過程を、地方の歴史とからませての説明もしなかった。そのゆえもあってか、友人や読者から、レシピがほしい、歴史についてのもっとくわしい説明があるといい、といった声が多く聞かれた。その要望に答えられたかどうかわからないが、答えようと努力してできたのが本書なのである。(中略)

もう一つここに記しておきたいのは、私はこの本で、たんに食事としてのカレーを紹介しようとしているのではなく、カレーをインド文化の一つとして説明しようとしていることである。もうすこし大げさにいえば、私が本書で展開しているのは、カレーとして理解されるインド料理を素材とした、インド文化についての「文化論」なのである。くわしくは、最終章を見ていただきたいが、インド文化は、その中にたくさんの多様性をかかえながら、それでいて全体としての統一性をもっている。そのことを、もし本書を通して理解していただければ、これにすぎるしあわせはない。

いささか堅苦しいことを書いたかと思うが、じっさいの内容は、自らのインド滞在の経験を踏まえつつ、いろいろのエピソードをとりいれて、読者の肩がこらないように工夫したつもりである。掲載の写真は、インド文化についてなみなみならぬ理解をもつ写真家、大村次郷氏の手になるものであり、それを楽しみつつ、どうか気楽に読んでいただきたい。

岩波書店、辛島昇著、大村次郷写真『カラー版 インド・カレー紀行』Pⅲ-ⅴ

「私が本書で展開しているのは、カレーとして理解されるインド料理を素材とした、インド文化についての「文化論」なのである」

この本の素晴らしい点はインドのカレーという私たちにとって親しみやすいテーマからインドの歴史や文化も学べるところにあります。

「へ~!インドのカレーってそういうことだったんだ!」という発見からインドそのものの文化や歴史に自然と繋がっていく流れはお見事としか言いようがないです。これは面白い!

写真も豊富でインド料理やその原料となるスパイスなども具体的にイメージすることができるのもありがたいです。

新書サイズで気軽に手に取れる作品ながらインドの奥深さを体感できる素晴らしい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「辛島昇『インド・カレー紀行』~カレーとはそもそも何か?奥深いインド文化も知れるおすすめ作品!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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