中村元選集第13巻『仏弟子の生涯』概要と感想~最初期のブッダ教団にはどのような人がいたのか。その出自や性格を知るのにおすすめ
中村元選集第13巻『仏弟子の生涯』概要と感想~最初期のブッダ教団にはどのような人がいたのか。その出自や性格を知るのにおすすめ
今回ご紹介するのは1991年に春秋社より発行された中村元著『中村元選集〔決定版〕第13巻 仏弟子の生涯 原始仏教Ⅲ』です。
早速この本について見ていきましょう。
仏教が教団として確立するまでには、数多くの人々の努力があった。この新しい精神運動(仏教)に参加した人々の内面的または外面的な動きを、資料を駆使して明らかにする。
ブッダの宗教を支えたのはどのような人々か。数多くの仏弟子のすがたを、原典を駆使して描く、仏弟子伝の画期的な集成。
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仏弟子といえば舎利弗や目犍連、摩訶迦葉を筆頭とした十大弟子が有名ですが、この本では彼ら十大弟子だけではなく、教団に所属していたたくさんの修行者たちの姿も知ることができます。
著者の中村元先生は本書について冒頭で次のように述べています。
仏教は、歴史的人物としてのゴータマ・ブッダ(釈尊)に始まるものであるが、かれは「自分は仏教という特殊な宗教を創始する」という意識をもっていなかった。かれはただ「人間の生きるべき真の道」を教えただけであった。
ところがその教えがあまねくひろまったのは、かれに帰依し傾倒した人々が幾人もいたからである。この人々は、それぞれ自分なりに理解し、その理解にしたがって生きたことであろう。仏弟子たちは最初から多様性をもっていた。かれらは自分の生きる道をもとめたのであって、後代に見られるような強固な教団は、まだ形成されていなかったにちがいない。
かれら仏弟子たちのそれぞれの思想、それぞれの行動の独自性を解明しようと努めたのが本書である。
その解明のためには、まず聖典のうちの古い資料にたよらねばならない。とくに仏弟子それぞれの思想や行動をうたった詩集『テーラガーター』および『テーリーガーター』を翻訳検討して、先年『仏弟子の告白』および『尼僧の告白』(いずれも岩波文庫)を刊行した。それを主軸として原始経典のなかから諸種の資料を集めてきて、かれらのすがたを浮き彫りにし、それぞれの歴史的意義をできるだけ明確に解明したのが本書である。だから世間でいう原始仏教の成立する以前のすがたを浮き彫りにしたつもりである。
春秋社、中村元『中村元選集〔決定版〕第13巻 仏弟子の生涯 原始仏教Ⅲ』Pⅰ-ⅱ
『仏弟子の告白』、『尼僧の告白』を中心にこの本では弟子たちの声を聞いていくことになります。ブッダ最初の弟子である五比丘や十大弟子、有名な弟子たちは私たちもどこかでその名前を聞いたことがあると思います。ですがこの本では私たちがまず聞いたこともない弟子たちがたくさん登場します。
ですが、このほとんど無名の弟子たちの声を聞くことの大切さを中村元先生は次のように述べます。
ゴータマ・ブッダには多数の弟子があり、かれらには多くの伝説が伝えられている。それらがどこまで歴史的真実を伝えているかは問題である。いまは古い資料にもとづいて、仏弟子の片鱗を伝えることにしよう。
『テーラガーター』(長老の詩)『テーリーガーター』(長老尼の詩)のうちに見られる修行者たちの生活は非常に簡素・単純である。律蔵に規定されている生活のように繁瑣・複雑ではない。これらの詩に表現されているかれらの生活または生活信条を仔細に検討してみると、そこに形成途上の最初期の仏教のすがたを見ることができる。大教団形成以前の仏教の形成過程をここにたどりたいと思う。それはまた個々の仏弟子のすがたや性格を大きな流れのなかに位置づけることでもある。
いわゆる「仏説」として伝えられている諸経典がすべて歴史的人物としてのゴータマ・ブッダの説いたものではないことは、今日では学問的常識として認められている。後代の人々の手が加わっているからである。
ところが『テーラガーター』『テーリーガーター』は、後代の人々の加筆は少なかったと考えられる。そこに登場する多くの人物は、後代には忘れられた人物であり、権威をもっていない。だから後代の人々がわざわざかこつけたり、その権威のもとに偽作する必要もなかったからである。
そう思うと、後代に忘れられた人びとの名と結びつけられている詩句は非常に重要である。偽作されているおそれが少ないからである。
ブッダの弟子たちは種々の個人的理由のゆえに出家したが、古い典籍から見ると、人間としての師・ブッダと、同じく人間としてのブッダの弟子たちとの親密な、あるいは緊密な関係があらわれている。
ブッダに対しても弟子が‟tava”(あなたの)と呼びかけることもある。後代の仏典を見ると、弟子や信者たちは、ブッダを、巨大な権力を行使する大帝王か、ものものしい偉大な大神に対するかのごとくに叙述されているが、最初期の仏典によって見ると、そういうものものしい関係は認められない。
春秋社、中村元『中村元選集〔決定版〕第13巻 仏弟子の生涯 原始仏教Ⅲ』P3-4
「後代に忘れられた人びとの名と結びつけられている詩句は非常に重要である。偽作されているおそれが少ないからである。」
なるほど、忘れられるほどの人にはわざわざ偽作する必要もなかったというのは言われてみると納得ですよね。
しかも『テーラガーター』、『テーリーガーター』ではブッダに親しみを持って語りかける弟子たちの姿も現れます。神格化される前の「人間ブッダ」との関係性を知れるのもありがたいところです。
もちろん、五比丘や十大弟子などの有名なお弟子さんについてもこの本では詳しく知ることができますが、こうした忘れられた一般出家者の声を聞けるのが本書の大きなポイントではないかと思います。
この作品では最初期のブッダ教団がどのような雰囲気だったのかを知ることができます。原始仏教について学ぶ上で非常にありがたい作品でした。
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