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とんぼの本『蜷川幸雄の仕事』概要と感想~舞台写真も満載!蜷川父娘の対談も魅力のおすすめ本!
今回ご紹介するのは2015年に新潮社より発行された『蜷川幸雄の仕事』です。
早速この本について見ていきましょう。
時代をともに駆け抜けてきた清水邦夫や唐十郎、大劇場へ打って出たシェイクスピア、海外進出の契機となったギリシャ悲劇、そして高齢者劇団と若手育成プロジェクトの創設…。その演出作品はのべ300近く。日本のみならず世界の演劇界を牽引する演出家・蜷川幸雄の広大な創作世界を、主要作品を軸に一挙に振り返る。また「蜷川幸雄をめぐる人々」では石橋蓮司、平幹二朗らへのインタビューをはじめ、劇作家やスタッフ、俳優など総勢約150名を紹介する。さらに、村上春樹による寄稿、写真家で長女の蜷川実花との対談なども収載、文学から美術まで幅広い分野の才能と共鳴する「世界のニナガワ」の全貌がこの一冊に。巻末には全演出年譜も付す。
Amazon商品紹介ページより
この作品は新潮社の「とんぼの本」シリーズの一冊になります。「とんぼの本」シリーズは当ブログでもこれまで紹介してきましたが、「旅もの」だったり「歴史もの」のイメージがあったので蜷川さんを取り上げた本書の存在には驚きました。
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「とんぼの本」シリーズは写真やイラストが満載でガイドブックとして非常にありがたいです。本作『蜷川幸雄の仕事』もまさにその長所が生きた作品となっています。
『蜷川幸雄の仕事』というタイトル通り、この本では蜷川さんの仕事を多くの写真と共に見ていけるのでその流れがとてもわかりやすいです。
そして私はこの本を読んでいて強いインパクトを受けた箇所がありました。それが以下の蜷川父娘の対談の一節です。
観る人に選ばれて来たという二人の作品の共通点
―幸雄さんが今も演劇を続ける原動力は何なのでしょう?
実 私、この間、同じ質問したの。そうしたら「まだ正当に評価されていない」って。あまりに面白い答えでびっくりしたんだけど。
幸 海外の人が書いた本だと、俺は世界の10人の大演出家の一人には入っているんですよ。だけど、俺はすでにトップ3だろうと思ったわけ。「トップ3と書け」と言うには判定勝ちじゃダメ、ノックアウト勝利しなければ。それくらいヨーロッパの階級構造は強いし。
―その3人とは?
幸 ピーター・ブルック、ドイツのぺーター・シュタイン、そして俺。
―ノックアウトするために作品を作り続けるのですか?
幸 そう思うと頑張れるかな。
―幸雄さんが45歳で作った『NINAGAWAマクべス』の初演を8歳だった実花さんが観て、今また再演を8歳の実花さんの息子さんが観ています。
幸 実花の息子がいいお兄ちゃんになったところを見られないかもなあって、それが一番残念。センスのいい青年になるかなあ。(そばにいた本人に向かって)君の夢はパパ(幸雄)の夢。パパの夢は君がかっこいい大人になること。
―そして今、実花さんは幸雄さんが『マクべス』を作られた年頃になりましたよね。
幸 人生ってよくできていて、ものすごい集中力があるのが多分40代。年を取ってディテールが見えるようになるんだよ。オリジナルな才能は40歳からだね。
―あれだけのドラマを豊かな画で見せるという幸雄さんの仕事、視覚的な官能性は実花さんに受け継がれていると思います。
幸 観劇とは観る劇。日本はその伝統がある国だから、僕はこだわるんです。散る花びらが物語を語る。実花は映像、うまいよ。カット割りもうまい。
実 快楽的な作品だと、高尚な気分で評論している人たちは乗り切れない。評価されやすいのは、もっとミニマムで頭が良さそうな演劇や写真。そんな状況で、パパも私も観客が最初に認めてくれたパターンだよね。賞より動員数、観る人が選んでくれることが大事かと。
新潮社、『蜷川幸雄の仕事』P15
ここで引用した最後の蜷川実花さんの言葉、「快楽的な作品だと、高尚な気分で評論している人たちは乗り切れない。評価されやすいのは、もっとミニマムで頭が良さそうな演劇や写真。そんな状況で、パパも私も観客が最初に認めてくれたパターンだよね。賞より動員数、観る人が選んでくれることが大事かと。」、これが強烈に印象に残っています。
と言いますのも、蜷川幸雄さんの本を読んでいると「洗練された抽象的なもの」や「批評家」への批判が何度も出てきていたからです。蜷川さんは『千のナイフ、千の目』で「いつかあいつらを撲ってやる」という章を書くほどこうしたインテリ然した批評を嫌っています。そうした批評については以下の記事でじっくり見ていきましたのでぜひこちらも参照して頂ければと思います。
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こんな素晴らしい演劇シリーズを生み出した蜷川幸雄さんについてもっと知りたい。そんな思いで手に取ったのが本書『千のナイフ、千の目』でした。
そしてそんな蜷川さんの作品がどう評価されてきたかということが上の蜷川実花さんの言葉に表れています。そしてそれは今も活躍されている実花さんにも受け継がれているのでしょう。
「快楽的な作品だと、高尚な気分で評論している人たちは乗り切れない」
なんと的確な分析でしょうか!
たしかにインテリには「ストイックさ」がつきもの感があります。ストイックと快楽はまさに正反対。
いやぁ、お見事。これを読んだ時私はドキッとしました。ぼんやりと薄々感じていたものをドカンと目の前に叩きつけられた感覚です。「おぉ!これだこれ!」という驚きですね。いやぁびっくり。最前線で活躍されている方の眼力たるや!
蜷川幸雄さんの作風を知る上でもこの言葉はとてもありがたいものがありました。
この本では他にもたくさんの写真だけでなく当時のポスターも見ることができて時代の雰囲気も感じることができます。
コンパクトにまとめられた「とんぼの本」シリーズのいいところがぎゅぎゅっと凝縮された素晴らしい一冊です。
ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「とんぼの本『蜷川幸雄の仕事』~蜷川父娘の対談も魅力のおすすめ本!舞台写真も満載!」でした。
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