MENU

石鍋真澄『フィレンツェの世紀』あらすじと感想~メディチ家やフィレンツェの政治状況と美術の流れを知れるおすすめ参考書

目次

石鍋真澄『フィレンツェの世紀 ルネサンス美術とパトロンの物語』概要と感想~メディチ家やフィレンツェの政治状況と美術の流れを知れるおすすめ参考書

今回ご紹介するのは2013年に平凡社より発行された石鍋真澄著『フィレンツェの世紀 ルネサンス美術とパトロンの物語』です。

早速この本について見ていきましょう。

美術家と美術作品の様式や図像を中心に語られる従来の美術史に対し、本書は社会史的な方法を下敷きに、パトロンと15世紀のルネサンス社会をキーワードとする野心的な美術史の試み。

職人が美術家に変わりつつあった時代、芸術作品は美術家とパトロンとの協働によって創造された。数々の傑作を生み出した15世紀フィレンツェ社会、ギルドや家系・結婚など、政治体制から市民意識までその姿を丹念に描くとともに、建築・絵画・彫刻のみならず工芸作品にまで丁寧に目配りすることでまったく新しいルネサンス・イメージが浮彫になる。

Amazon商品紹介ページより

この作品は上の商品紹介にありますように、芸術作品そのものよりもその作品が生み出された時代背景に注目していく点にその特徴があります。

著者はこの本について「プロローグ」で次のように述べています。少し長くなりますがこの本の雰囲気がわかる重要な箇所ですのでじっくり読んでいきます。

いまさら一五世紀のフィレンツェについて本を書く必要があるだろうか。とりわけ美術については多くのことが語られ、十分に知られているのではないだろうか。

しかし、美術史は通常、美術家と美術作品の様式や図像を中心に語られる。これに対して、本書はパトロンと社会をキーワードとする美術史の試みである。つまり、一五世紀フィレンツェ美術の傑作が、どのような社会に住む、いかなる人々によって、どのように創造されたのかを述べた、ルネサンス美術のパトロンと美術家の物語である。

一五世紀のフィレンツェが、ブルネッレスキやドナテッロ、マザッチョ、そしてボッティチェッリやレオナルド・ダ・ヴィンチ、さらにはミケランジェロといった偉大な美術家たちを輩出して、西洋美術に革新をもたらし、近代ヨーロッパ美術を方向づけたことは広く知られている。近代の「芸術アート」や「芸術家アーティスト」の概念の基礎も、この時期のフィレンツェで培われたといえる。

しかし、こうした美術の革新や文化の新境地は、美術家たちの創造性のみによって実現したわけではない。一五世紀のフィレンツェでは、美術や社会と深く結びつき、美術作品はパトロンと美術家のコラボレーションによって生み出されたといっても過言ではないからだ。ルネサンスの美術様式や芸術概念の形成は、新しいタイプのパトロンの誕生と並行するものであった。したがって、パトロンについて知ることなしに、一五世紀フィレンツェ美術を真に理解することはできない。

本書では、第Ⅰ部「都市国家」でフィレンツェの都市や政治、そしてエリート市民についての基本的な事実な略述する。そして本論に入り、一五世紀フィレンツェ社会の変化に対応する、第Ⅱ部「メディチ以前」、第Ⅲ部「コジモ・デ・メディチの時代」、第Ⅳ部「ロレンツォ・デ・メディチの時代」という三つの時代にそって話を進めていく。この時期のパトロネージは、市政府やギルドを中心とするものから、エリート市民が主役となるものへと変貌していった。それはおおむね政治や社会の変化に呼応すると考えられる。したがって、初めの数章ではギルドが中心となった美術企画について述べるが、本書の大半はコジモ・デ・メディチを筆頭とするエリート市民の物語である。

本書の執筆にあたって目標としたのは三つの点だ。読みやすい、全体像が分かる、そして新しい研究をふまえる、の三点である。そのために、各章は一五世紀フィレンツェ美術を代表する建築や美術作品を軸に書かれている。また、できるだけ美術作品のある現場を重視するように努めた。パトロンの人間的側面にも留意した。さらに、美術のことだけでなく、時代や社会の全体像が分かるように工夫したつもりである。(中略)

西洋史のみならず世界史の重要な分岐点とされる一五〇〇年当時、フィレンツェは西ヨーロッパ世界で「最も文明化された都市」であった。今日も世界の人々を魅了してやまないフィレンツェの建築や美術作品がそれを証拠立てている。一五世紀は「フィレンツェの世紀」であった。美術のパトロンとなったのは、その「フィレンツェの世紀」の主役だった市民たちだ。いったい彼らはどのような人たちだったのか、それが本書のテーマである。

平凡社、石鍋真澄『フィレンツェの世紀 ルネサンス美術とパトロンの物語』P7-8

ここで著者が「本書の大半はコジモ・デ・メディチを筆頭とするエリート市民の物語である。」と述べるように、この作品は共和制国家フィレンツェを構成するエリートたち、特にメディチ家と美術のつながりについてわかりやすく学ぶことができます。

しかもメディチ以前のフィレンツェから時代順にその流れを見ていけるのでこれはありがたい作品でした。

フィレンツェには有名な建築や芸術作品がありすぎて何を見ればいいのか混乱してしまうほどです。ですがそれを時代順にこの本で見ていくことになるので頭がすっきりします。歴史の流れとセットで見えてくるのでこれまで本や映像で漠然と見ていたフィレンツェがまた違って見えてきます。

有名なフィレンツェのドゥオーモがどんな歴史を経て建てられたのか、そしてそのすごさの秘密はどこにあるのかというのも非常に興味深かったです。

そしてそこから一五世紀のルネサンスを引っ張っていく芸術家たちの躍動、コジモ、ピエロ、ロレンツォというメディチ家当主たちの政治、美術との関係についても語られていきます。石鍋真澄氏の著作はとにかく読みやすくわかりやすいです。しかも深い所まで私たちを連れていってくれます。こんなフィレンツェ案内を堪能できるなんて最高です。

この本を読めばフィレンツェにより興味が湧くこと間違いなしです。そして現地でフィレンツェを見てみたいという気持ちがどんどん強くなっていきます。

私も今うずうずしています。

フィレンツェの歴史や魅力を知るのにこの本は非常におすすめです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「石鍋真澄『フィレンツェの世紀』~メディチ家やフィレンツェの政治状況と美術の流れを知れるおすすめ参考書」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

フィレンツェの世紀 ルネサンス美術とパトロンの物語

フィレンツェの世紀 ルネサンス美術とパトロンの物語

次の記事はこちら

あわせて読みたい
エラスムス『痴愚神礼讃』あらすじと感想~ヒューマニズムの元祖、世界最初のベストセラー作家の風刺作品 この作品は真面目くさった神学者や哲学者を風刺して、人間とはいかなるものかをユーモアたっぷりに描いています。腐敗した聖職者への批判も書かれており、よくこの作品をカトリック教会が許してくれたなと読んだ瞬間思ったのですが、案の定この作品はカトリックの禁書目録に入ることになったようです。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
松田隆美『煉獄と地獄 ヨーロッパ中世文学と一般信徒の死生観』あらすじと感想~ダンテ『神曲』の参考書... この本ではなぜ煉獄が生まれてきたのかということを時代背景からとてもわかりやすく解説してくれます。 やはり思想というのは何もないところからぽんと生まれてくるものではありません。必要とされる時代背景があるからこそ生まれてくるのだということをこの本では感じることができます。

関連記事

あわせて読みたい
フィレンツェを知るためのおすすめ参考書一覧~ダ・ヴィンチやマキャヴェリ、ダンテなど芸術や歴史、文... フェイレンツェといえばボッティチェリやレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなど言わずもがなの巨匠の作品が今なお世界中の人を魅了し続けている華の都です。 知れば知るほど面白いフィレンツェです!ぜひこの記事を役立てて頂ければ幸いです。
あわせて読みたい
ローマおすすめ参考書一覧~歴史、文化、宗教、芸術!ローマがもっと面白くなる名著を一挙ご紹介! ローマはあまりに奥が深い。そして知れば知るほどはまってしまう底なし沼のような存在です。私もこのローマの浪漫にすっかりとりつかれてしまいました。
あわせて読みたい
(22)フィレンツェでのドストエフスキーの日々~ゆかりの地や彼お気に入りの芸術をご紹介! 悲しみや苦しみを分かち合い、今や二人は強固な絆で結ばれました。彼らの復活はいよいよここから始まっていきます。自分たちをミコーバー夫妻になぞらえたフィレンツェでの生活はこの旅の大きなポイントになったのではないでしょうか。 あぁ、美しきフィレンツェ!できるなら私ももっともっとゆっくり滞在したかった!さすがは花の都。この街の芸術には感嘆させられっぱなしでした。
あわせて読みたい
(23)芸術の都ヴェネツィアを訪ねて~美しき水の都にドストエフスキーは何を思ったのだろうか この記事ではドストエフスキー夫妻が訪れたヴェネツィアと、その道中で立ち寄ったボローニャをご紹介します。 誰もが憧れる水の都ヴェネツィア。ドストエフスキー夫妻はわずか数日の滞在でしたが、楽しい一時を過ごしたようです。私も夫妻が過ごしたヴェネツィアを歩き、彼らの滞在に思いを馳せながらこの街のゆかりの地を巡ったのでありました。 どこを撮っても美しい写真が出来上がる驚異の街でした。
あわせて読みたい
石鍋真澄『ベルニーニ バロック美術の巨星』あらすじと感想~ローマの天才のおすすめ伝記!これを読めば... 芸術とはそもそも何なのか。なぜ私たちはローマに惹き付けられるのか。 その鍵がベルニーニにある。 ベルニーニを知れば新たに見えてくるものがあるということを強烈に感じた1冊でした。 素晴らしい名著です!
あわせて読みたい
石鍋真澄『教皇たちのローマ』あらすじと感想~15~17世紀のローマ美術とバチカンの時代背景がつながる... 私はこの本に衝撃を受けました。それは私の中にあった常識が覆されたかのような凄まじいショックでした。 この本ではそんな衝撃のローマ史が語られます
あわせて読みたい
高階秀爾『フィレンツェ 初期ルネッサンス美術の運命』あらすじと感想~メディチ家やイタリアの時代背景... この本ではルネッサンスが生まれてくるその時代背景、政治状況を詳しく知ることができます。フィレンツェといえばダ・ヴィンチのイメージもありますが、彼自身はここで芸術家として成長したものの、その才能を完全に発揮させたのはこの街ではありませんでした。なぜフィレンツェではなく他の街でそうなったのか。それもこの街の政治情勢やフィレンツェ人の気質などが関係しています。 ダ・ヴィンチを通してルネッサンスやフィレンツェに興味を抱くようになった私ですが、これまで学んできた色々なものとつながってくる非常に興味深い読書になりました。
あわせて読みたい
サマセット・モーム『昔も今も』あらすじと感想~マキャヴェリの『君主論』のモデル、チェーザレ・ボル... 2人の天才、マキャヴェリとチェーザレ・ボルジアが織りなす濃密な人間ドラマ!そして彼らが生きたイタリアの時代背景も知れます。ドラマチックなストーリー展開の中に『君主論』を思わせる名言が出てきたり、人間臭いマキャヴェリの姿も知れたりと非常に盛りだくさんな作品となっています。
あわせて読みたい
マキャヴェッリ『君主論』あらすじと感想~ダ・ヴィンチと同時代のフィレンツェ人による政治論 マキャヴェッリの『君主論』といえばマキャヴェリズムという言葉があるように、厳しい現実の中で勝ち抜くためには冷酷無比、権謀術数、なんでもござれの現実主義的なものというイメージがどうしても先行してしまいます。 たしかに『君主論』の中でそうしたことが語られるのは事実です。 ですが、「マキャヴェッリがなぜそのようなことを述べなければならなかったのか」という背景は見過ごされがちです。 当時のイタリアの政治状況はかなり特殊な状況です。 そのことについてこの記事では考えていきます
あわせて読みたい
W・アイザックソン『レオナルド・ダ・ヴィンチ』あらすじと感想~人間ダ・ヴィンチと時代背景を知れるお... ダ・ヴィンチがある種の巨大な才能を持っていたことは確かです。ですがだからといって私たちが彼を圧倒的な超人として遠ざけてしまっては大切なことを見逃してしまうことになります。私達はダ・ヴィンチから学ぶことができる。私たちも彼に習ってできることがあるのではないか。 そのような立場から著者はダ・ヴィンチを論じていきます。スティーブ・ジョブズの伝記を書いたアイザックソンらしい非常に刺激的な一冊でした。
あわせて読みたい
『もっと知りたいラファエッロ 生涯と作品』あらすじと感想~『システィーナの聖母』を描いたルネッサン... この本では一枚一枚の絵を解説付きでじっくりと見ていくことになります。ラファエロの生涯を辿りながら時代順に作品を見ていくので作風の変化なども感じることができます。 ラファエロの作品や生涯を辿る入門書として本書は非常におすすめです。
あわせて読みたい
桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』あらすじと感想~知の爆発はいかにして起こったのか!知的好奇... この本はルネサンスというわかるようでなかなかわからない時代を「メディア革命」という切り口で見ていきます。 私は本が大好きです。そんな本好きの私にとって、本がいかにして世界を変えてきたのかということを知れたのは最高に刺激的でスリリングな体験となりました。 これは面白いです。 知的好奇心がスパークする作品です!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次