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ボッカッチョ『デカメロン』あらすじと感想~ペスト禍を舞台にしたルネサンス文学の傑作ーダンテ、ペトラルカとのつながりも

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ボッカッチョ『デカメロン』あらすじと感想~ペスト禍を舞台にしたルネサンス文学の傑作ーダンテ、ペトラルカとのつながりも

今回ご紹介するのは1351年にボッカッチョにより発表された『デカメロン』です。私が読んだのは2017年に河出書房新社より発行された平川祐弘訳の『デカメロン』です。

早速この本について見ていきましょう。

ペストが猖獗を極めた十四世紀フィレンツェ。恐怖が蔓延する市中から郊外に逃れた若い男女十人が、面白おかしい話で迫りくる死の影を追い払おうと、十日のあいだ代わるがわる語りあう百の物語。人生の諸相、男女の悲喜劇をあざやかに描いた物語文学の最高傑作が、典雅かつ軽やかな名訳で躍動する。不滅の大古典、全訳決定版。

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ジョヴァンニ・ボッカッチョ(1313-1375)Wikipediaより

ボッカッチョはイタリアルネッサンスを代表する文学者です。

私が今ボッカッチョの『デカメロン』を手に取ったのはこれまで当ブログでも紹介してきたペトラルカがきっかけでした。

フランチェスコ・ペトラルカ(1304-1374)Wikipediaより

読書のカリスマ、ペトラルカ。

ルネサンスの始まりはこの人からと言われるほどヨーロッパ文芸に巨大な影響を与えた偉人です。

今回の記事ではペトラルカについてはお話しできませんが、近藤恒一著『ペトラルカ-生涯と文学』を読んで一番驚いたのがボッカッチョとの関係性でした。

なんと、ペトラルカとボッカッチョはルネサンス文芸を切り開いた盟友ともいうべき間柄だったのです。これには私も驚きました。『デカメロン』は言わずと知れた超有名作ですが、まさかペトラルカと繋がってくるとは・・・

ボッカッチョはペトラルカより九歳年下です。ボッカッチョにとって彼は年上の親友であり、師としてもペトラルカを深く敬っていたそうです。1300年代中頃のイタリアは私にとってノーマークな時代でしたがこれは非常に興味深いものがありました。

こういうわけで私はボッカッチョの『デカメロン』を改めて読んで見ようと思ったのでした。

私が初めて『デカメロン』を読んだのは大学3年生の頃だったと思います。今から10年以上も前ですね。当時は西洋史の知識もほとんどないまま読んでいたので正直この本をちゃんと理解できていたのかというとかなり疑問です。

ですがそれでもなお「この作品を読んだ」という記憶は鮮明に覚えています。やはりそれだけインパクトのある作品だったのでしょう。

物語の冒頭でペスト禍の悲惨な状況が語られ、こちらはいきなり面を食らうことになります。そしてその後に優雅な若い男女達が郊外に逃れそこで物語が語られていきます。

オープニングで「ずーん」と沈んだ気持ちになったと思ったら今度はそんな悲惨な雰囲気もどこへやら。

彼らが語る物語はそんなペスト禍など微塵も感じさせない軽くて能天気なものばかり。男女の痴話話や露骨な話もどんどん出てきます。そしてそれに対し若者たちは喝采し、いかにも陽気な雰囲気でこの作品は進んでいきます。

「ペストのとんでもない時によくこんな話をしていられるな」と当時思った記憶があります。

「フィレンツェの街は死屍累々の地獄となっているのにこのお金持ちの若者たちはなんて能天気なんだ」と。

こうしたある意味無責任とすら言えるような彼らの振る舞いに納得できない思いすら抱いたのを覚えています。

ですが初めて読んだ時から10年以上経ってから再読した今、私はその時とはまったく違った思いを抱くことになりました。

私はここ数年ヨーロッパ史や文学を学んできました。特にペストに関する作品としてはカミュの『ペスト』やプーシキンの『ペスト流行時の酒もり』を当ブログでも紹介しました。

ペストというどうにもならない現実において人間はどう行動するのか。これは文学だけではなく多くの芸術でも表現されてきました。

そうしたことを知った上で今回改めてこの作品を読んだことで、ボッカッチョの『デカメロン』もただ単に能天気な話を繰り広げていたわけではないことに気づかされたのでした。悲惨な現実の中であえてそうした話をする理由がやはりあったのです。

河出書房新社の平川祐弘訳の『ボッカッチョ』では巻末の解説でその辺りのことも詳しくお話ししてくれます。しかも上中下三巻のそれぞれに充実した解説が収録されています。ボッカッチョの生涯まで知れるのでこの『デカメロン』3冊でボッカッチョを包括的に学ぶことができます。ぜひこの版をお薦めしたいなと思います。

さて、最後にもうひとつ、ボッカッチョとダンテの関係です。

ボッカッチョはダンテより48歳年下です。ですが同じフィレンツェ人であり、『神曲』を書き上げた詩人に対してボッカッチョは熱烈な敬愛の念を持っていました。この2人の関係について中巻の解説では次のように説かれています。

ボッカッチョその人はダンテに傾倒し、一三五一年、パードヴァ在のぺトラルカが『神曲』を所蔵していないことを知るやフィレンツェから写本を贈っている。ボッカッチョは自分があまりにダンテを賞讃したためにぺトラルカの感情を傷つけたのではないかと気にしたほどであり、釈明の手紙も送ったらしい。そのボッカッチョの手紙そのものは失われたが、それに対するぺトラルカの返書は残されている。その後もボッカッチョはイタリア各地でこの深く尊敬する先輩ぺトラルカと機会をもとめては面談している。

ボッカッチョはそのようにダンテに傾倒し、『神曲』を愛読し、その多くの詩行を諸んじていた。現に『デカメロン』の中には『神曲』を踏まえた言葉が数々飛び出してくる。ボッカッチョがダンテの作品に精通しダンテを鑽仰していることはフィレンツェ市民の間でも早くからよく知られていた。またそれだからこそ前にも述べたが、フィレンツェ市議会は「ダンテ講義」の開催を可決し、その最初の講義担当者としてボッカッチョを指名したのである。

『神曲』では法王をはじめとする教会関係者や政界関係者をダンテは次々と地獄へ堕としている。そうした人たちの近親者、同志やその子孫は十四世紀のフィレンツェには多数いたのだから、その反対を押し切って「ダンテ講義」開催が可決されたということは、フィレンツェの人々がダンテ死後半世紀、いかに『神曲』の詩人を高く尊敬するにいたったかを示すものとして、真に驚嘆に値する。

その市の要請に応え、高給で招かれたボッカッチョは一三七三年から一三七四年にかけて一連の『ダンテ『神曲』講義』Esposizioni sopra la Comedia di Dante をフィレンツェのサント・ステーファノ・デルラ・バディーア寺で行なったが、病気と疲労のため講義は地獄篇第十七歌より先に進むことはなくて終わった。
※一部改行しました

河出書房新社、ダンテ、平川祐弘訳『神曲』中巻P501-502

ここでペトラルカも出てくるのも興味深いですよね。

ダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョはイタリアルネサンス文芸の三巨星と呼ばれる存在です。

この三人の生涯や思想のつながりを考えながら読んでいくとものすごく面白いです。かつて漠然と読んでいた『デカメロン』が全く違う作品のように感じられました。

実際に『デカメロン』をどのように読めばいいのか、その読みどころやポイントについても巻末の解説では丁寧に教えてくれますのでぜひそちらを参考に読んで頂ければと思います。

また、上でも紹介しましたがぜひ近藤恒一著『ペトラルカ-生涯と文学』と合わせて読んで頂きたいなと思います。私がこれだけボッカッチョに興味を持てたのもこの本のおかげです。これを読めばより『デカメロン』を楽しむことができます。やはり時代背景や当時の人間関係を知った上で読むと違いますね。

今回の記事では『デカメロン』そのものについてはあまりお話しできませんでしたが、『千一夜物語』のように100の独立した話が順に語られていくこの作品をこの記事ひとつでまとめるのはそもそも厳しいものがあります。

ひとつひとつのお話はコンパクトでオチもついた面白い話ばかりですので想像よりもかなり読みやすいです。イタリア中世の古典の名作というと厳めしいイメージがあると思いますがそのような雰囲気はほとんどないので読めばきっとびっくりすると思います。

現在も続くコロナ禍ではありますが、この作品もペストという悲惨な疫病が広まった世界が舞台となっています。そういった意味でもこの作品は注目されることになるかもしれません。ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。

以上、「ボッカッチョ『デカメロン』あらすじと感想~ペスト禍を舞台にしたルネサンス文学の傑作ーダンテ、ペトラルカとのつながりも」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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