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チャペック『マクロプロスの処方箋』あらすじと感想~不老不死は幸せ?人間の根本問題を問う傑作!

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チャペック『マクロプロスの処方箋』あらすじと感想~不老不死は幸せ?死があるから生は輝く。人間の根本問題を問う傑作!

今回ご紹介するのは1922年にチェコの作家カレル・チャペックによって発表された『マクロプロスの処方箋』です。私が読んだのは2022年に岩波書店より発行された阿部賢一訳の『マクロプロスの処方箋』です。

早速この本について見ていきましょう。

「――だって、死ぬのがとてつもなく怖いの。」莫大な遺産の相続を巡り、百年続いた訴訟の判決が出る日。関係者の前に突如現れた美貌のオペラ歌手エミリア・マルティは、なぜか誰も知らなかった遺書の所在を言い当て――。緊迫する模擬裁判でついに明かされた、「不老不死」の処方箋とは? 現代的な問いに満ちた名作戯曲。

Amazon商品紹介ページより
カレル・チャペック(1890-1938)Wikipediaより

著者のカレル・チャペックについては巻末の訳者解説に次のように説かれています。

カレル・チャぺック(一八九〇-一九三八)にはいくつもの顔がある。ジャーナリストであり、小説家であり、そして戯曲家でもあった。新生チェコスロヴァキアの誕生とともに、多面的な活動を始めるチャぺックは、まさに新時代の申し子と言うべき存在だった。そればかりか、「ロボット」という言葉は、彼の戯曲『ロボット RUR』から広がったものであり、文明社会における人間の位置を問うチャぺックの洞察力は、今なお私たち読者を惹きつけてやまない。

岩波書店、カレル・チャペック、阿部賢一訳『マクロプロスの処方箋』P185

チャペックの作品についてはこれまでも当ブログでも紹介してきました。そしてその中でも最も有名な作品が上の解説にも出てきた『ロボット RUR』という作品です。

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この作品が私の初めてのチャペック体験となったのですが、この作品には本当に度肝を抜かれました。

こんな面白い作品があったなんて!とそれこそ驚愕でした。

チェコ文学といえばカフカのイメージしかなかった私にとってそれこそ青天の霹靂のような出会いでした。

そして今作『マクロプロスの処方箋』も素晴らしい作品でした。

この作品は上の本紹介にもありましたように、長年続いていたある訴訟の判決日に突如現れた謎の女性エミリア・マルティをめぐる物語になります。

巻末解説ではこの物語について次のように述べられています。

本作は、一九二二年、(プラハにあると思われる)コレナティー弁護士事務所でのやりとりから始まる。事務弁護士ヴィーテクは過去の裁判資料を調べているが、それは、プルス家とグレゴル家のあいだで土地の相続権をめぐって百年近くにわたって行われている訴訟の判決が出る日だった。

結果をいち早く知ろうとして姿を見せたグレゴルに対して、ヴィーテクは歴史的な訴訟が終わることに遺憾を表明する。そこに、オペラ歌手を志望しているヴィーテクの娘のクリスティナがやってきて、午前中に一緒にリハーサルした歌手エミリア・マルティの歌声に圧倒され、歌手になる夢を断念しようかと思いを打ち明ける。そのような中、コレナティー弁護士が戻ってくるが、ほぼ同時にマルティ本人も姿を見せる。

憧れの人が目の前に現れて、クリスティナは驚くが、マルティはなぜか話題の訴訟に関心を示す。コレナティーが経緯を話すうちに、誰も知るはずのない遺言書のありかをマルティがロにする……。

このようにして、裁判をめぐるミステリー風の謎解きが行われる一方、マルティの正体はいっそう謎を深める。緊迫感にあふれるこの戯曲は、一九ニニ-二三年にプラハでは二十四回の公演を重ねるなど好評を博したばかりか、国外でも反響を呼ぶ。

原作発表からわずか五年後の一九ニ七年には日本語訳が刊行されるが、異なる訳者、異なる版元によってニつの翻訳がほぼ同時に発表されている。各地で高い関心を呼び起こした理由はいくつも考えられるが、まずは本作が不老不死というテーマを扱っているからであろう。
※一部改行しました

岩波書店、カレル・チャペック、阿部賢一訳『マクロプロスの処方箋』P188-189

不老不死。

もし自分が永遠に若く美しい肉体のままで生き続けることができたなら・・・

きっと、これは誰もが一度は想像してしまう願いなのではないでしょうか。

ですが、もしそれが本当に実現してしまったならば一体どうなってしまうのだろうか。永遠に生き続けることははたして幸せなのだろうか。

そのことを問うてくるのがこの作品になります。

生と死を私たちはいかに考えているのか。私達は日々老い、死に向かっている。そしていつ病にかかるか事故に遭うかもわからない。

特に現在のコロナ禍において、私たちはかつてないほど「病や死」に恐怖を感じるようになっているのではないでしょうか。

私は以前当ブログで伊藤計劃さんの『ハーモニー』という小説を題材に「僧侶が問うコロナ禍の日本~死と病が異常事態になった世界で」という記事を書きました。

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現代日本では医療が高度に発達し、さらには保険医療制度によって手厚い治療を受けることが当たり前のようになっています。私達はもはや「病にかかることや死ぬこと」が異常事態になった世界に生きていたのです。

しかし今回のコロナ禍ではそんな「当たり前」が崩壊することになりました。

それまで「病や死」が自分とは遠い存在だと思っていたものがいきなり目の前にやって来た。そうなった時に私たちは何を思い、感じるのか。つまり私たちの死生観がダイレクトに問われる事態となったのでした。

今作『マクロプロスの処方箋』もまさしくこうした問題に直接関係する内容となっています。私達は死を、生をどのように考えればいいのだろうか。私達は何のために生きているのだろうか。どうしたらこの人生をもっと充実したものにできるのだろうか。そうしたことをこの作品では考えさせられることになります。

とにかくすごいです。これは仏教書としてもぜひ推薦したいです。読めばわかります。あえてこの記事ではこれ以上はお話ししませんが、凄まじい作品です。

読んだ後の読後感も素晴らしいものがありました。

もうあまりに素晴らしかったのですぐさまTwitterに呟いてしまったほどです。

この作品自体は文庫で180ページ少々で、しかも戯曲ということでページの空白部分も多く、体感としては100ページちょっとくらいの感覚で読むことができました。阿部賢一先生の訳も素晴らしく、非常に読みやすいです。

ですので気軽に手に取れるのもこの作品のありがたい点だと思います。

本当はこの記事で不老不死とは本当に幸せなのか、私たちの死生観はどうなっているのかという箇所を全部紹介したいくらいなのですが、あえてしません。ぜひこの作品を読んで確かめてみてください。これは心の底からお薦めしたいです。

こういう時代だからこそ改めて考えたい問題がここに凝縮されています。

さすがチャペックです。

チャペックについては以下のまとめ記事「チェコの天才チャペックのおすすめ作品一覧~チェコ文学はカフカのみにあらず!」でも紹介していますのでぜひこちらもご覧ください。

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私はカフカも好きですが正直チャペックにはとにかく驚かされました。上でも述べましたが「こんなすごい人がチェコにいたのか!」と度肝を抜かれたほどです。ぜひこの偉大な作家の素晴らしい作品を知って頂けたらなと思います。

そして最後にもうひとつ。

この作品にはチャペックによる「前書き」が掲載されているのですがこれまた素晴らしい名文です。

「悲観主義とは何か」についてここで書かれているのですがこれがもうたまりません。やはり好きですチャペック!彼の世界の見方はとにかくずば抜けています。ぜひこの前書きにもご期待ください。

以上、「チャペック『マクロプロスの処方箋』あらすじと感想~不老不死は幸せ?人間の根本問題を問う傑作!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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