チャペック『白い病』あらすじと感想~戦争直前の世界で突如流行し始める未知の疫病!人類の命運やいかに!

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チャペック『白い病』あらすじと感想~戦争直前の世界で突如流行し始める未知の疫病!人類の命運やいかに!

今回ご紹介するのは1937年にカレル・チャペックによって1937年に発表された『白い病』です。

私が読んだのは2020年に岩波書店より発行された阿部賢一訳の『白い病』です。

早速この本について見ていきましょう。

戦争目前の世界で、突如「雪崩のように」流行り始めた未知の疫病。そこへ特効薬を発見したという貧しい町医者が現れるが、施療に際し、彼は一つだけ条件を提示した―。死に至る病を前に、人々は何を選ぶのか。一九三七年刊行の名作SF戯曲が鋭く問いかける。

岩波書店、カレル・チャペック、阿部賢一訳『白い病』より

この作品は戯曲形式で書かれたSFで、ページ数にして文庫本で150頁少々とかなりコンパクトな作品となっています。ですが彼の代表作『ロボット』と同じく、驚くべき濃密さです。物語に引き込まれてあっという間に読み切ってしまいました。

では、この作品について巻末解説を見ていきましょう。

「白い病」とは、五十歳前後になると皮膚に大理石のような白い斑点ができ、しまいには死にいたる伝染病のことである。特効薬が見つからない中、貧しい人々だけを治療する町医者のガレーンは薬を見つけたかもしれないと枢密顧問官ジーゲリウスを訪ね、大学病院での臨床実験をさせてほしいと依頼する。ジーゲリウスは渋々了承するが、それは、独裁者である元帥が戦争の準備を推し進める時代のことであった……。

岩波書店、カレル・チャペック、阿部賢一訳『白い病』 P169

チャぺックの作品の多くは、しばしばSFとして分類される。それは、「もし……だったら」という近未来の枠組みを取ることが多いためである。例えば、『ロボット』では人造人間が誕生したらどうなるか、『マクロプロス事件』では人間が不老長寿になったらどうなるか、小説『絶対製造工場』(一九二二)では原子力のようなエネルギーが発明されたらどうなるかという「もし」の問いかけが、それぞれ話の起点となっている。『白い病』において、チャぺックが取り上げたのは、もし、軍国主義が進行するなか、「疫病」が広がったらどうなるのか、という問いかけである。

岩波書店、カレル・チャペック、阿部賢一訳『白い病』 P173

この作品のタイトルでもあります「白い病」は50歳前後になると発病し、ほぼ確実に死に至る恐るべき病でした。人類はこの病になすすべはなく世界中でこの病は猛威を振るいました。

しかしある町医者が特効薬を発見します。この医者が今作の主人公です。

治療法を発見したのが一人の町医者というのがポイントです。大病院や研究所の偉い医者ではなく、貧しい人を相手に治療をしていた一人の医師が治療法を見つけるというところに大きな意味があります。

さらに、50歳以上の人間だけこの病気になり死に至るというのも重要です。チャペックはこの作品で世代間の問題も暗に取り入れています。仕事もポストも上の世代がいることでどん詰まりになり、若者達が苦しい思いを強いられているという問題も語られています。

そしてこの作品において特に重要なのは著者チャペックのファシズム批判です。

戯曲『白い病』は、その発表当初から長年に渡って、反ファシズムのメッセージを鮮明にする作品として読まれてきた。世界最高の軍隊を育成することに専念してきた元帥、軍需産業のコンツェルンを経営してきたクリューク男爵、さらには、彼らと近い位置にいる大学教授のジーゲリウス枢密顧問官といった人物から、その舞台となっている国をナチス・ドイツとして連想するのはある意味で自然であろう。元帥率いる軍隊が隣接する小さな国に対して、宣戦布告なしで攻撃を仕掛けるという記述など、当時のナチス・ドイツの動静を示唆する表現は多く盛り込まれている(実際、発表から二年と経たないうちに、チェコスロヴァキアは解体され、チェコはナチス・ドイツのボヘミア・モラヴイア保護領となる)。また「前書き」では、読者に対して、「単なる観客」ではなく、「戦士」としての関与が促されているように、同時代の読者、とりわけチェコの人々に直接訴えるものとなっている。


岩波書店、カレル・チャペック、阿部賢一訳『白い病』 P 177ー178

この作品は世界中で突如流行り出した不治の病について語られた物語ではありますが、実はそれはあくまでこの作品の舞台設定としての病です。問題の本質は戦争目前に人間はどのような行動を取るのかという点にあります。

病が実は舞台設定のためにあるというのはカミュの『ペスト』もそうでした。カミュもチャペックも、特殊な状況に置かれた時に人々はどう動くのか、何を選ぶのかということを作品で突き詰めていきます。

戯曲を丁寧に読むと、ファシズム批判として、チャぺックが目を向けたのはじつは元帥ではないことに気づく。元帥は随行員が躊躇する中、白い病の患者と面会を果たしたり、娘と若いクリュークの説得に応じるなど、ある意味で理性的な人間として描かれている。それに対して、結末で象徴的に描かれているように、理性を失っているのは「群衆」である。そのように考えると、ファシズム批判の矛先は元帥といった特定の政治家ではなく、一般市民という群衆であるといえるだろう。また白という病気の色には、「白色人種の深刻な衰退」(「前書き」)という意味合いが込められているように、ヨーロッパの不安な情勢に対する作家の焦燥感を窺い知ることができる。『白い病』は、ヨーロッパの運命、平和的な発展の運命、人類の運命が心の中に託されている、すべての人々の良心、平和を望む健全なる理性に訴えるものなのです」(「警告の印」、『チン』紙、一九三七)とチャぺックが述べているように、理性を失った「人々」こそがファシズムの土台を作っていると訴えているのである。


岩波書店、カレル・チャペック、阿部賢一訳『白い病』 P 178

ファシズムはある特定の人物だけにその原因が帰せられるのではなく、理性を失った「人々」「大衆」がその土台を作っているとチャペックは訴えます。

やがてナチス・ドイツに併合され、国家が消滅していく運命にあったチェコの作家だからこその鋭い指摘がこの作品でなされます。

この作品もチャペックの魅力がこれでもかと詰まっています。読みやすさも抜群ですのでページをめくる手が止まりません。一気に読めます。

非常におすすめな作品です。とても面白い作品でした。

以上、「チャペック『白い病』あらすじと感想~戦争直前の世界で突如流行し始める未知の疫病!人類の命運やいかに!」でした。

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