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平川新『戦国日本と大航海時代』あらすじと感想~なぜ日本はポルトガルや英蘭東インド会社の植民地にならなかったのか

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平川新『戦国日本と大航海時代』概要と感想~なぜ日本はポルトガルや英蘭東インド会社の植民地にならなかったのか

今回ご紹介するのは2018年に中央公論新社より発行された平川新著『戦国日本と大航海時代』です。

早速この本について見ていきましょう。

15世紀以来、スペインやポルトガルはキリスト教布教と一体化した「世界征服事業」を展開。16世紀にはアジアに勢力を広げた。本書は史料を通じて、戦国日本とヨーロッパ列強による虚々実々の駆け引きを描きだす。豊臣秀吉はなぜ朝鮮に出兵したのか、徳川家康はなぜ鎖国へ転じたのか、伊達政宗が遣欧使節を送った狙いとは。そして日本が植民地化されなかった理由は―。日本史と世界史の接点に着目し、数々の謎を解明する。

Amazon商品紹介ページより

この本の副題は「秀吉・家康・政宗の外交戦略」となっているように、この作品は戦国から江戸時代初期にかけての日本と西洋諸国との関係を知るのに非常におすすめな作品となっています。

私が今回この本を読んだのはフェルメールとオランダ東インド会社のつながりがきっかけでした。

東インド会社については当ブログでも以下の記事で紹介しました。

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特にティモシー・ブルック『フェルメールの帽子』ではフェルメールの絵画が東インド会社の繁栄に大きな影響を受けていることを知りました。そしてそのオランダ東インド会社といえばまさに長崎の出島で日本と独占的に貿易していた存在になります。

かつて日本史で学んだことがぐるっと回ってフェルメールの絵と繋がってきたことに私は感動してしまいました。

16世紀から17世紀、スペイン、ポルトガルがアメリカやアジアの海を席巻していた中で新しく台頭してきたイギリス、オランダ。

この4強が日本を狙わなかったわけがありません。アジア諸国も続々と彼らに支配されていく中でなぜか日本だけは彼らに屈することがありませんでした。なぜこんなことが可能だったのでしょうか。それがこの本で語られます。正直、私はこの本を読んでものすごく驚きました。これまでの日本観が変わってしまうほどでした。

紹介したい箇所が山ほどあるのですがこの記事では「序章」の最後に述べられた箇所を紹介したいと思います。少し長くなりますがこの本の概要を知るのに最もわかりやすい箇所となっていますのでじっくりと読んでいきます。

「帝国」日本の登場

本書では、秀吉・家康・政宗という、この時代を代表する三人の人物をとおして、戦国時代から江戸時代への大転換な、外交関係を軸に描き出している。こうした視点はこれまでの歴史学にはなかった。秀吉のイメージも変わるが、外交最前線における家康と政宗の姿も新しい視点からみえてくるはずである。

徳川政権はその後、キリスト教宣教師だけでなく、スぺイン人やポルトガル人などの商人も日本から追放した。カトリック国とカトリック教徒たちが日本征服の野望を持ち続けている、との疑念が払拭できなかったからである。

それにしても、世界中を力に任せて思いのままに征服し、植民地化してきた両国が、なぜ唯々諾々とこれに従ったのだろうか。

その謎を解くカギは、秀吉や家康を“Emperador”(スぺイン語:皇帝)、日本という国を“Imperio”(同:帝国)と呼ぶようになったことにある。秀吉は宣教師やスぺイン人たちにカンパクドノ(“Quambacúdono” 関白殿)やタイコーサマ(“Taycosama”太閤様)と呼ばれていたが、朝鮮出兵後は彼をして皇帝“Emperador”とする呼称があらわれはじめた。徳川家康が関ケ原合戦を制したあと、オランダとイギリスを含めたヨーロッパ人は、家康を絶大な権力と軍事力をもつ皇帝(“Emperador” “Emperor”)と、例外なく呼ぶようになった。

なぜこの呼称が意味をもつのか。それは、世界最強を誇るかのスぺインの国王ですらも‟Rey de España”すなわちスぺイン国王、、であり、決してスぺイン皇帝、、ではなかったからである。

しかも日本は皇帝呼称とあわせて、国家の最上格としての“Imperio”や“Empire”すなわち「帝国」とも尊称されるようになっている。秀吉・家康と続くなかで、戦国の分裂国家から統一国家へと、日本の国家形態は大きく変わった。秀吉が全国平定を成しとげたことにより、日本は弱肉強食の分裂国家から、強大な軍事力を擁した軍事大国として、世界史のなかに突如として登場することになった。その変化と衝撃をヨーロッパ人たちは、このようにとらえたのである。ここに世界にとっての日本の位置づけが明確にあらわれている。まさに、戦国日本から「帝国」日本への生まれ変わりであった。

これまで江戸時代のいわゆる鎖国は、日本の閉じこもり型外交としてネガティブに評価されてきた。しかし鎖国にいたる歴史展開をみれば、強大な軍事力を有していたがゆえに日本主導の管理貿易下におくことができた、ということが明瞭に浮かび上がってくる。弱くて臆病だから鎖国、ではなく、強かったから貿易統制や入国管理を可能にしたのであった。それが、のちに鎖国と呼ばれた体制であった。つまり、強かったから鎖国、なのである。

ヨーロッパ史的には大航海時代といわれるこの世紀に、アフリカ、南北アメリカ、アジアの大半がヨーロッパ列強の植民地になっていった。しかし、日本は植民地にはならなかった。それは、なぜなのか。きわめて関心の高い問題であるにもかかわらず、歴史学的には十分な回答が得られていなかった。本書はそうした問いへの答えである。
※一部改行しました

中央公論新社、平川新『戦国日本と大航海時代』P12-14

「弱くて臆病だから鎖国、ではなく、強かったから貿易統制や入国管理を可能にしたのであった。それが、のちに鎖国と呼ばれた体制であった。つまり、強かったから鎖国、なのである。」

この本では信長・秀吉・家康の3人が以下に世界情勢に通じていたかということにも驚かされます。

スペイン・ポルトガルが宣教師を通じて侵略を企てていることや、彼らの武力がどれくらいのものなのかということもかなり正確に見抜いています。さらにそれら西洋勢力を跳ね返すだけの武力が実際にあったというのも驚きでした。

スペイン、ポルトガル、イギリス、オランダは行く先々で問答無用で武力を行使して支配を広げました。

ですが日本ではなぜかそれをしなかった。

よくよく考えてみれば不思議でしたがその裏には「しなかった」のではなく「できなかった」という事実があったのです。これは目から鱗でした。

彼ら強国が対話を用いて外交をしようとしていた時点ですでに特殊な事例だったのです。

もし日本が弱ければ他の国々と同じように問答無用で占領されていたことでしょう。

信長、秀吉、家康、そして伊達政宗という戦国江戸の凄まじい傑物たちの力をこの本で感じました。

ものすごく面白い本です。これはぜひぜひおすすめしたい作品です!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「平川新『戦国日本と大航海時代』概要と感想~なぜ日本はポルトガルや英蘭東インド会社の植民地にならなかったのか」でした。

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戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略 (中公新書)

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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