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トルストイ『カフカースのとりこ』あらすじと感想~トルストイ作の子供向け教科書にも収録されたカフカース物語

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トルストイ『カフカースのとりこ』あらすじと感想~トルストイ作の子供向け教科書にも収録されたカフカース物語

今回ご紹介するのは1872年にトルストイによって発表された『カフカースのとりこ』です。私が読んだのは2009年に群像社より発行された青木明子訳『ロシア名作ライブラリー8 カフカースのとりこ トルストイ中短編集』です。

早速この本について見ていきましょう。

ドストエフスキイとならぶロシアの文豪として知られるトルストイは、有名な大長編だけでなく、自分で猟に出かけたり蜜蜂を飼ったり農作業をしたりして、その体験や村の人々の話をもとに子供向けの短い作品をたくさん書いていました。ロシアの農村のくらしや動植物の不思議な力を驚きの目をもって見つめた短編と、いまだに続くチェチェン戦争の戦地カフカース(コーカサス)での従軍体験をもとに書かれた中編を新訳でお届けします。

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上の本紹介にありますように、今回ご紹介する『カフカースのとりこ』は子供向けに書かれた作品になりますので非常に読みやすい作品と言うことができます。

この作品が書かれた流れについて巻末の解説では次のように述べられています。

この本に収められた短編二十三話と中篇一話は、いずれも、トルストイが四十代のころに編纂し『新初等読本』(一八七五)および『ロシア語読本』第一巻ー第四巻(一八七五)から取られたものです。

農奴解放(一八六一)後のロシアでは、村々に農民の子供たちのための学校が開設され、読み書きと計算を中心とする教科書が作られました。その頃トルストイも屋敷内に村の子供たちのための学校を開き、他の教師たちとともに実際に子供たちの教育に当たりました。トルストイの教育活動は三年くらいで中断するのですが、この経験が十年後に彼を教科書の編纂に向わせる原動力になったのでしょう。

トルストイは長編小説『戦争と平和』が完成に近づいた一八六八年ごろから、教科書編纂のための多くの資料を集めはじめます。そして一八七二年に『初等読本』第一巻ー第四巻を出版しますが、さらに改良を重ねて、三年後に改訂版として出版されたのが、この『新初等読本』と『ロシア語読本』第一巻ー第四巻です。

トルストイの教科書が当時の他の教科書に比べて優れている点は、題材の豊富さと表現の芸術性にあると言えるでしょう。ここで取り上げた作品のほかに、イソップの寓話、ロシアの昔話、外国の文学作品、自然科学に関する記述など幅広い内容のものが集められ、それが、トルストイの手によって独創的な作品として書き直されました。これらの作品は子供が読むことを念頭に、短く簡潔な文体で書かれています。

群像社、青木明子訳『ロシア名作ライブラリー8 カフカースのとりこ トルストイ中短編集』P150-151

トルストイは子供たちの教育に並々ならぬ熱意を抱いていました。

自分の邸宅を学校として開放し、自ら教え、ついには自分で教科書を作ってしまうほどでした。

今作『カフカースのとりこ』はそんな自作教科書に収録された作品になります。

唯一の中篇『カフカースのとりこ』は、最初は「ザリャー(暁光)誌」(一八七二年)に発表され、その後『初等読本』および改訂後の『ロシア語読本』第四巻に入りました。

トルストイがカフカースへ向かったのは一八五一年四月、二十二歳の時のことです。軍務に就く兄ニコライに同行し、現地で士官候補生の試験を受けて、翌年には下士官として作戦中の部隊に編入されます。五四年一月まで北カフカース、テーレク川左岸のキズリャル地方のコサック(カザーク)村(現在のダゲスタン自治共和国)に滞在しました。物語はもちろんフィクションですが、彼自身も五三年に行われたチェチェン人討伐作戦に加わり、あやうく捕虜になりかけた経験があります。カフカース時代には、軍務の合間にしばしば狩猟に出かけたり、読書や哲学的思索に熱中しました。作家としての出発点となった『幼年時代』(一八五二)を書き上げたのはこの頃です。のちに書かれた『力ザーク』(一八六二)や『ハジ・ムラート』(一九〇四)もカフカースを舞台にした作品です。

群像社、青木明子訳『ロシア名作ライブラリー8 カフカースのとりこ トルストイ中短編集』P151

『カフカースのとりこ』はトルストイのカフカース時代の経験が息づいている作品です。

トルストイのカフカース体験やカフカースを題材にした作品はこれまでも当ブログでも紹介してきました。

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上の引用にもありました『カザーク』は翻訳の関係で読み方が異なるだけで『コサック』と同じ作品です。

さて、ここで『カフカースのとりこ』のあらすじについてもざっくりとお話しします。

主人公のロシア人士官ジーリンはカフカースでの従軍中、タタール人に捕虜として捕らえられてしまいます。

タタール人は身代金として高額なお金を彼の家族に要求するものの、貧しい一家にはそれを望むことはできないと主人公はさとります。

捕虜としての生活がそこから始まりますが、手先の器用なジーリンはタタール人たちからも好かれるようになります。そしてさらにはある村娘が彼を慕うようになり、この娘が物語において大きな役割を果たすことになります。

さあ、捕虜となったジーリンはどうやってそこから逃げ出すのか?無事生還することはできたのか。

それがこの物語の大まかな筋となります。

『カフカースのとりこ』というタイトルから私は最初、カフカースに夢中になる話かと思ってしまっていたのですが「捕虜」の「とりこ」でした。

こうしたカフカースを題材にした作品にプーシキンの『カフカースの捕虜』があります。

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そうです。そっくりそのまま同じタイトルの作品がトルストイの前に書かれていたのでありました。

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プーシキンはロシアの国民詩人と呼ばれ、ロシア文学にとてつもない影響を与えた詩人です。

トルストイもドストエフスキーもこの詩人を尊敬してやみませんでした。

そのプーシキンもトルストイと同じ題名の作品『カフカースの捕虜』を書いています。というのも彼もカフカースを訪れ、トルストイと同じような体験をしていたのです。作品の内容もそっくりで、ロシア人士官が現地人によって捕虜にされるも、彼に恋する乙女の助けもあり無事脱出するという筋書きです。

プーシキンは非常に感情的でロマンチックな詩人です。ですのでプーシキンの『カフカースの捕虜』は圧倒的な自然の中で繰り広げられる冒険ロマンスのような雰囲気があります。

それに対してトルストイの『カフカースのとりこ』は、芸術家トルストイらしい見事な自然描写と、究極の人間観察家トルストイの特徴が出ています。

同じテーマ、同じ筋書きでありながらそれぞれの個性がはっきりと見えてくるのは非常に興味深いです。

ぜひトルストイとプーシキン両方の『カフカースの捕虜』を読んでみてはいかがでしょうか。

以上、「トルストイ『カフカースのとりこ』あらすじと感想~トルストイ作の子供向け教科書にも収録されたカフカース物語」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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