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藤沼貴『トルストイ』あらすじと感想~波乱万丈の生涯や作品解説も充実のロシアの文豪トルストイのおすすめ伝記!

目次

藤沼貴『トルストイ』概要と感想~ロシアの文豪トルストイのおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは2009年に第三文明社より発行された藤沼貴著『トルストイ』です。

早速この本について見ていきましょう。

『戦争と平和』など壮麗な文学作品群、民衆教育への執念、真実の宗教を求めての教会権力との対決…八十二年の生涯を跡づけるトルストイ研究の最高峰。

藤沼/貴
1931年、中国遼寧省鞍山市生まれ。早稲田大学大学院ロシア文学専攻博士課程修了。早稲田大学教授を経て、創価大学客員教授、早稲田大学名誉教授、文学博士。18~19世紀ロシア文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

Amazon商品紹介ページより
レフ・トルストイ(1828-1910)Wikipediaより

この作品はロシアの文豪トルストイの生涯を知る上で最もおすすめしたい伝記です。

まず650ページを超える大ボリューム!この伝記ではトルストイの波乱万丈の生涯をじっくり見ていくことになります。

この目次を見て頂ければわかりますように、この本ではトルストイの生涯や作品の解説がかなり詳しく語られます。

しかも著者の語りも非常に読みやすく、まるで小説を読んでいるかのように読み進めることができます。

文字も大きめですので読んでいて目が痛くなるようなストレスもありません。

この本を読めばトルストイの圧倒的なスケールをまざまざと感じることになります。これは非常に面白いです。

以下、著者のまえがきを引用します。ここで語られる著者とトルストイのつながりの話がとても興味深かったのでぜひ紹介したいと思います。

私は『トルストイの生涯』(第三文明社・レグルス文庫)という本を出している。この本を書き、世に出したのは一九九三年一月、今からちょうど十六年前のことになる。私はその時すでに約半世紀、トルストイに支えられて生きていた。

私は戦中世代の末端の人間で、しかも、少し特殊な環境にいたため、一九四五年八月十五日の敗戦と同時に、寮つきの学校、友人、将来の目標など、すべてを一挙に失った。国外に住んでいた両親・家族とも一年間音信不通になった。

原爆投下のニか月前、やがて爆心地となる広島市の中心街から、危機一髪疎開してきた比婆郡の庄原を離れ、生きるよすがを求めて、九月初め東京に向かった。広島を通ることは不可能で、福山を経由し、無蓋貨車を乗り継ぎながら一日半、たどり着いた東京は見渡すかぎり焼け野原だった。

このなかで十四歳に満たない私の気力を支えてくれたものは多くなかったが、その一つが掌に乗るほどの小さな文庫本、トルストイの『戦争と平和』だった。しかし、ロシア文学やトルストイにたずさわるという現実性の乏しい生活が、自分の一生になるとは考えなかった。その道に踏み切らせたのは、私の師、劇作家押川昌一の「大きなロシア文学をやれ。こせこせつまらないことを考えるな」という一言だった。

早稲田大学文学部ロシア文学科に入ってみると、私の恩師たちは一人の例外もなく、迫害、困窮、投獄、抑留生活などを、信念と情熱で乗りきってきた強者たちばかりだった。クラスメートも学校には出ずに政治運動をしたり、食うや食わずで小説を書いたり、芝居をやったりしている極道者みちをきわめるものぞろいで、私などまともなほうだと気が楽になった。

この連中に「お前は教室に出て代返でもしていろ。それしか能がない」とおだてられ(?)、朝鮮戦争、レッド・パージなど、激動の時代のなかで無事学業をつづけ、卒業論文も修士論文もトルストイをテーマに書いた。博士論文のテーマもトルストイのつもりだったが、十八世紀ロシアの作家カラムジンに変更し、それをのちに『近代ロシア文学の原点―ニコライ・カラムジン研究』(れんが書房新社、一九九七年)として出版した。これはトルストイをよく知るためには、十八世紀を勉強することが必要だと考えたからだった。

その後もトルストイについての論文を書き、『幼年時代』『アンナ・カレーニナ』『復活』などの翻訳もしたが、本は書かなかった。トルストイについて本を書くのはとてもむつかしい。まして、特定の問題ではなく、トルストイ全体について書くのは至難のわざだ。一流のトルストイ学者でも、トルストイ全体を論じた本を書いた人は意外に少ないのである。私が『トルストイの生涯』を書いたのは、出版社から絶好の場を与えられ、有能で熱心なスタッフに助けられ、激励されたおかげである。

この本を出してしばらくすると、私は多少とも修正、補足しなければならないと思うようになった。しかし、この本を出すことができただけでも幸運だったのに、自分から改版を申し出る勇気はとてもなかった。ところが、一昨年やはり同じ出版社の同じスタッフから、『トルストイの生涯』はそのまま残して、と大きな本を書いてみる気はないかという提案があった。改版でも出版社には大きな負担とリスクなのに、新しい本が書けるとは!私はわが耳を疑いながらも、もちろん、二つ返事で承諾した。

第三文明社、藤沼貴『トルストイ』P1-3

著者の戦争体験。そしてその時の支えになっていたのがトルストイだったということ。

また、

「大きなロシア文学をやれ。こせこせつまらないことを考えるな」

そう言ってくれた師匠がおられたというお話は本当に痺れました。

大学時代のクラスメートが極道者みちをきわめるものぞろいだったというのも凄まじいですよね。今とはまったく違う雰囲気が当時の大学にはあったのだなと感じました。

私はこの伝記をトルストイ作品を読む時の解説書としても利用しています。

トルストイの生涯だけでなく、作品の背景や解説まで語ってくれるこの伝記は本当にありがたいです。

トルストイを読むならこの伝記は必読です。非常におすすめな作品です。

以上、「藤沼貴『トルストイ』ロシアの文豪トルストイのおすすめ伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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