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トリストラム・ハント『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』あらすじと感想~マルクスを支えた天才の生涯と思想背景を知れるおすすめ伝記!

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トリストラム・ハント『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』概要と感想~マルクスを支えた天才の生涯と思想背景を知れるおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは2016年に筑摩書房より発行されたトリストラム・ハント著、東郷えりか訳『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』です。

早速この本について見ていきましょう。

常にマルクスの名と共に語られてきた革命家フリードリヒ・エンゲルス。自らは産業革命の揺籃地マンチェスターで家業の綿工場を経営しながら、40年にわたって友人カール・マルクスとその家族の生活を支え、マルクスの死後は、生前刊行がかなわなかった『資本論』第2巻、第3巻を完成させた人物だ。マルクスが再評価される中で不当にも忘れ去られ、マルクス思想をねじ曲げた張本人とまで断罪されるエンゲルスとは、一体何者だったのか。彼は何を考え、何をなし得たのか。不世出の革命家エンゲルスの思想と人間に迫る決定版評伝。

Amazon商品紹介ページより
フリードリヒ・エンゲルス(1820-1895)Wikipediaより

マルクス・エンゲルスと二人セットで語られることも多いエンゲルス。マルクス思想が世界に広まっていく上で欠かせない存在だったエンゲルスですが、実際エンゲルスとは何者だったのかというとほとんど知られていません。かく言う私もこの本を読む前はほとんど知りませんでした。

ですがこの本を読めばマルクスの活動においてエンゲルスがいかに大きな役割を果たしていたか、そしてエンゲルスという人物そのもののスケールの大きさを知ることができます。マルクスの陰に隠れてあまり目立たなくなってしまいましたが、やはりエンゲルスも歴史上ずば抜けた存在であったことがよくわかります。

さて、この本の著者について少しだけご紹介します。

トリストラム・ハントTristram Hunt

1974年イギリス生まれ。歴史家。ケンブリッジ大学、シカゴ大学を卒業後、ロンドン大学クイーン・メアリ一校の英国史学講師。著書に『Building Jerusalem』『The English Civil War at First Hand』『Ten Cities that Made an Empire』などがある。2010年より労働党議員を務める。


筑摩書房、トリストラム・ハント、東郷えりか訳『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』

この伝記はマルクスやエンゲルスを過度に讃美したり、逆に攻撃するような立場を取りません。そのようなイデオロギー偏向とは距離を取り、あくまで史実をもとに書かれています。

語り口も絶妙で非常に読みやすく、面白いです。ぜひマルクスの伝記もこの方に書いてほしいと思いました。(マルクスの伝記は読みにくいものが多かったり、偏りもどうしても出てきてしまうのでかなり神経を使わなければなりません)

さて、この本の冒頭で著者はエンゲルスについて次のように述べています。

フリードリヒ・エンゲルスは繊維産業の有力者で、狐狩りを趣味とし、マンチェスターの王立取引所の会員であり、同市のシラー協会会長でもあった。彼は人生を幸せにするものをこよなく愛した。

奔放かつ贅沢な暮らしを送り、大酒飲みであり、ロブスター・サラダ、シャトー・マルゴー・ワイン、ピルスナー・ビール、お金のかかる女性たち。だが、エンゲルスはその一方で、四〇年にわたってカール・マルクスに資金援助をつづけ、彼の子供たちの面倒を見て、怒りをなだめ、歴史上最も世に知られた思想上の共同経営パートナーシップの片翼をになった。『共産主義者宣言』の共著者となり、マルクス主義と呼ばれることになるものの共同創始者となったのである。

二十世紀を通じて、毛沢東主席の中国から東ドイツのシュタージ国家まで、アフリカの反帝国主義闘争からソビエト連邦そのものまで、この説得力のある哲学がさまざまなかたちで、人類の三分の一をゆうに超える人びとの上に影を落とすことになった。

しかも、社会主義世界の指導者たちはしばしば、その政策を説明するため、行き過ぎた行為を正当化するため、そして自分たちの体制を強化するために、マルクスではなくエンゲルスをまず頼った。解釈されては誤解され、引用されては間違って伝えられるなかで、フリードリヒ・エンゲルス―フロックコートを着たヴィクトリア朝時代の綿業王―は、グローバル共産主義の中心的な立役者の一人となったのである。
※一部改行しました

筑摩書房、トリストラム・ハント、東郷えりか訳『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』P7-8

エンゲルスはマンチェスターの綿工場の経営者でした。そうです。彼とマルクスが散々罵倒していたブルジョアそのものです。彼は自分の労働者を搾取して得たお金をマルクスに送金していました。エンゲルスの送金がなければマルクスは生活を続けることすらできませんでした。つまり、『資本論』も生まれてくることはなかったのです。マルクスの『資本論』は労働者の搾取によって得たお金によって書かれたという何とも矛盾に満ちたものだったのでした。

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この本ではそうしたエンゲルスとマルクスの矛盾に何度もぶつかることになります。

ただ、歴史の不思議といいますか、これだけ世界に影響を及ぼす人間というのはやはり何かが違います。現代を生きる私達には眉をひそめたくなるような事でも、激動の19世紀の中ではそれもありうるだろうということも考えさせられます。イデオロギー的なものを超えて、歴史的に彼らは実際に何を行ったのかということをじっくり見ていく大切さを感じました。

また、この本で最もありがたいなと感じたのは、エンゲルスがどのような思想に影響を受け、そこからどのように彼の著作が生み出されていったかがわかりやすく解説されている点です。

当時の時代背景や流行していた思想などと一緒に学ぶことができるので、歴史の流れが非常にわかりやすいです。エンゲルスとマルクスの思想がいかにして出来上がっていったのかがよくわかります。この本のおかげで次に何を読めばもっとマルクスとエンゲルスのことを知れるかという道筋もつけてもらえます。これはありがたかったです。

そしてこの本を読んだことでいかにエンゲルスがマルクスの著作に影響を与えていたかがわかりました。かなり驚きの内容です。

マルクスの伝記や解説書を読むより、この本を読んだ方がよりマルクスのことを知ることができるのではないかと思ってしまうほど素晴らしい伝記でした。マルクスの伝記に加えてこの本を読むことをぜひおすすめしたいです。

エンゲルスの伝記では他にも、1972年に大月書店より発行されたドイツ民主共和国(東ドイツ)社会主義統一党中央委員会付属マルクス=レーニン主義研究書編集『フリードリヒ・エンゲルス 伝記』という本があります。

この本は1970年にマルクス主義の立場から書かれたエンゲルス伝記です。読んで驚いたのですが、思ったより偏りが少ないというのが私の印象でした。もちろん、イデオロギー的なことも語られますが歴史的事実をしっかり押さえていこうとする伝記のように思えます。

そしてこの本には巻末にエンゲルスの年表が掲載されています。トリストラム・ハントの伝記には年表がないので、年表でエンゲルスの生涯を確認できるのがこの本のメリットです。

ただ、伝記としての面白さ、内容の詳しさに関してはトリストラム・ハント『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』に圧倒的に軍配が上がります。この伝記はあまりに面白過ぎます。ぜひおすすめしたい伝記です。

以上、「トリストラム・ハント『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』マルクス・エンゲルスの生涯と思想背景を知れるおすすめ伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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