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『もっと知りたいターナー 生涯と作品』あらすじと感想~クロード・ロランに影響を受けたイギリスの大画家

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『もっと知りたいターナー 生涯と作品』概要と感想~クロード・ロランに影響を受けたイギリスの大画家

今回ご紹介するのは2017年に東京美術から発行された荒川裕子著『もっと知りたいターナー 生涯と作品』です。

早速この本について見ていきましょう。

19世紀前半を中心に活躍したイギリス風景画の巨匠・ターナー。その真摯に絵画に向き合った生涯を追いながら、多岐にわたる画風を整理し、画家の全貌に迫ります。ロイヤル・アカデミー、イギリス各地やヨーロッパをめぐる旅、ナポレオン戦争など時代背景、18世紀以前のオールド・マスター達など、彼をめぐる様々な事柄から、作品のテーマを読み解きました。さらに、若くして画家としての評価を得たターナーが、同時代・後世の芸術家・収集家に与えた影響も解説します。


Amazon商品紹介ページより

私がこの本を読むきっかけになったのはメンデルスゾーンの「スコットランド交響曲」でした。この解説動画の最初に紹介されているのがメンデルスゾーンの代表曲、交響曲第3番『スコットランド』です

私はこの曲が大好きなのですが、この曲が生まれるきっかけとなったのが1829年、彼が20歳の時のイギリス・スコットランド旅行でした。

メンデルスゾーンはユダヤ人大銀行家の息子として生まれ、20歳の時にイギリスへ出発します。その後もパリやイタリアを巡る長期の旅に出ました。

こうしたヨーロッパを巡る長期旅行はグランド・ツアー(教養旅行)と呼ばれ、当時の裕福な若者が通る通過儀礼のようなものとなっていました。

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このグランド・ツアーについては上の記事でご紹介しましたが、こちらに大きな影響を与えていたのが17世紀ローマの画家クロード・ロランとニコラ・プッサンでした。

そしてこの二人のことを調べている内に出会ったのが今回ご紹介するイギリスの大画家ターナーでした。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)Wikipediaより

ターナーについて著者は冒頭で次のように述べています。

ターナーの芸術は、しばしばシェイクスピアのそれに比されてきた。両者とも、超人的な力量とスケールで数多くの傑作を生み出し、一方はイギリス文学の、そしてもう一方はイギリス美術の頂点に位置づけられている。本書では、紙幅の許す限り多角的な視点からターナーの芸術にアプローチすることによって、そのとほうもない広がりの見取り図を示すよう心がけた。

創作の面でこれほどの偉業を成し遂げたターナーは、果たしてどのような人物だったのだろうか。(中略)

ターナーはずんぐりした体形で、身なりにはほとんど頓着せず、もごもごと不明瞭な喋り方をしたという。生涯結婚しなかったが、精神を病んだ母親に家族が悩まされてきたことが、彼に家庭を持つことをためらわせたとも推測されている。その分、父親ウィリアムとの絆はきわめて深かった。1813年に、ロンドン郊外のトウィッケナムに自ら設計して建てた別邸サンディクーム・ロッジで、都市の喧騒を逃れて老いた父親と静かに過ごした時間が、おそらくターナーにとってはもっとも平和で心休まるものであったろう。1829年の父の死は、彼にぬぐい難い喪失感をもたらした。それは、これまでひたすら創作に没頭してきたターナーが、いずれ来る自らの死をはじめて意識した瞬間でもあった。彼は父親の葬儀の翌日、最初の遺言を作成している。(中略)

しかしながら、ターナーのプライべートな領域に属していた人びとは、彼の芸術創造とまったく切り離されたところにいたのではなかった。まずは父親が、息子のアトリエ助手をかいがいしく務め、セアラ・ダンビーの親類のハナ・ダンビーは、40年以上ものあいだ家政婦としてターナーの家を切り盛りし、遺言で彼の作品の管理も託された。晩年にはソフィア・ブースが、テムズ川を望むチェルシーの家で、日ごとに弱っていくターナーが絵筆を握る手助けをした。人間ターナーに惹きつけられ、さらには彼の芸術を無条件に信じえた人びとがいたからこそ、ターナーはまさに絵のことだけを考え、絵のためだけに生きたといっても過言ではない人生を全うすることができたのである。

東京美術、荒川裕子『もっと知りたいターナー 生涯と作品』P3

上の絵はターナーを代表する作品ですが、たしかにこれはどこかで見たことがありました。ですが、上の解説にもありましたようにこのターナーがシェイクスピアに比するほどイギリスで評価されている人物だというのは初めて知りました。イギリス絵画についてほとんど知らなかった私でしたが、これは驚きでした。

この本ではターナーの生涯と作品の解説を時系列順に見ていくことができます。彼の作風の移り変わりやその意味するところがとてもわかりやすく解説されています。

今回はせっかくですのでその中でもクロード・ロランとターナーのつながりについて書かれた箇所を紹介していきます。

「イギリスほどクロードの価値を正しく評価している国はない」(ターナー)

光と大気に満ちた広大な空間のなかに古代風の情景を配した、クロード・ロランのいわゆる理想的風景画は、その豊かな詩情をたたえた自然の表現ゆえに、18世紀半ば頃からイギリス人たちのあいだで絶大な人気を誇ってきた。

1790年代末には、フランス革命のあおりを受けて流出したクロードの作品が数多くイギリスにもたらされた。ターナーは機会を見つけてそれらを丹念に研究し、たちまちこの先達のスタイルを自家薬籠中のものにした。それは彼が画家としての地位を確固たるものにするうえで、きわめて重要な意味を持った。フランスとの戦争が終結したのちは、ルーヴルのみならずイタリアやドイツなど、大陸の各地でクロードの研究を続けた。ターナーにとってクロードは、風景画制作における究極の目標として、生涯にわたって探求すべき対象だったのである。


東京美術、荒川裕子『もっと知りたいターナー 生涯と作品』P26

たしかに作品を見比べてみると、クロード・ロランの影響をかなり見て取ることができますよね。そしてこうした理想風景画の技術があったからこそ、ターナー独自の風景描写が後に生まれてくるのだということがわかりました。

この本は作品もたくさん見れますし、そこに彼の生涯や時代背景、詳しい作品解説も掲載されているのでとても濃密な作品になっています。

分量も80頁弱ということでコンパクトですが、入門書としてかなりクオリティが高いように感じます。

私はこれまでひのまどかさんの「作曲家の物語シリーズ」でヨーロッパの音楽の歴史をたどってきました。

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この伝記シリーズは作曲家の人生だけではなく時代背景まで詳しく見ていける素晴らしい作品です。そしてその中で出会ったのがメンデルスゾーンであり、そこから私はターナーに興味を持ったわけであります。

そして今回読んだ『もっと知りたいターナー 生涯と作品』もなかなかの作品でした。これを読んで、今度は絵画を通してヨーロッパの歴史、思想、文化を見ていきたいなと私は思ってしまいました。

正直、本を読んでいくスケジュールがかなり押していて厳しい状況なのですが、このシリーズは内容が濃いながらコンパクトに絵画を学んでいけるので今の私にはぴったりなような気がします。

次の記事から引き続き東京美術さんの絵画シリーズ「ABC アート・ビギナーズ・コレクション」の本を紹介していきます。読んだ本全てを紹介するわけにもいかないので、特におすすめしたい作品に絞って紹介していきますのでよろしくお願いします。

以上、「『もっと知りたいターナー 生涯と作品』概要と感想~クロード・ロランに影響を受けたイギリスの大画家」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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