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『隣人が殺人者に変わる時 ルワンダジェノサイド 生存者たちの証言』あらすじと感想~衝撃の三部作!ルワンダ虐殺の実態を知るのにおすすめ

目次

衝撃の三部作『隣人が殺人者に変わる時 ルワンダジェノサイド 生存者たちの証言』概要と感想

今回ご紹介するのは2013年にかもがわ出版より発行されたジャン・ハッツフェルド著、服部欧右訳『隣人が殺人者に変わる時―ルワンダ・ジェノサイド生存者たちの証言』です。

早速この本について見ていきましょう。訳者あとがきより引用します。

フランス人ジャーナリスト、ジャン・ハッツフェルドはジェノサイドの数年後、首都キガリから南に遠く離れた小さな田舎町ニャマタを訪問し、ツチの生存者十四人にインタビューを始めた。その内容をもとに執筆されたのが本書「隣人が殺人者に変わる時(原題「LIFE LAID BARE」)」である。この本には追われる側ツチの住民が陥った身体的および心理的な状況が、十四人の生声そのままに記されている。


かもがわ出版、ジャン・ハッツフェルド著、服部欧右訳『隣人が殺人者に変わる時―ルワンダ・ジェノサイド生存者たちの証言』P265-266

この本はルワンダジェノサイドの生存者へのインタビューをまとめた作品です。

「はじめに」では著者はこの本について次のように述べています。

一九九四年のことである。ルワンダの「ニャマタ」という地域の丘で、ツチ系住民およそ五万九千人のうち約五万人もが、マチェーテ(なた)を持ったフツ系の兵士や隣人たちによって虐殺された。この虐殺は四月十一日(月)午前十一時に始まり、五月十四日午後二時まで続き、その間毎日欠かさず、午前九時半から午後四時の間に行われたのである。その衝撃の強さが、この執筆の出発点である。

虐殺が始まる数日前の四月六日の夕方、キガリへ戻るルワンダ共和国のハビャリマナ大統領を飛行機が、着陸間際に爆破された。この攻撃が、何カ月もの間計画されたツチ系住民抹殺への合図になり、夜が明けるころには、首都の何ケ所もの通りで殺戮が始まり、やがて国全体へと広がっていった。

丘や湿地帯の多いブゲセラ地区の真ん中にある小さな町ニャマタの大通りでは、それより四日遅れて殺人が始まった。ツチ系の住人たちはすぐに教会に避難したり、バナナ園や湿地帯、ユーカリの森などに逃げ込んだ。しかしニャマタの教会では四月十四日、十五日、十六日のたった三日間で、五千人もの人たちが、民兵や軍人、そして莫大な数のフツの隣人たちによって殺害されたのである(ここから十ニキロ離れた小さな村、ンタラマの教会でも同じくらい多くの人々が犠牲になった)。この二つの虐殺が、赤粘土ラテライトに覆われたこの不毛の地でのジェノサイド、、、、、、(根絶を目的とした虐殺)の始まりである。それは五月半ばまで続くのである。一カ月の間よく訓練された忠実な殺し屋たちは、歌を歌いながら、マチェーテや槍やこん棒を持って、逃げるツチたちを追跡した。「カユンバ」のユーカリの森や、「ニャムウィザ」のパピルスの茂った湿地帯を取り囲んだ。勤勉な殺し屋たちは、ツチ系住民の六人に五人を殺したわけだが、この効率の高さはルワンダの他の田舎町でも同じであり、都市部のその率を大きく超えているのである。

のち数年もの間、ニャマタの丘の生存者たちは、他の地の生存者と同様、ジェノサイドについては語らなかった。それはまるで、ナチの強制収容所からの生存者が解放後すぐに黙ってしまったのと同じであった。

そして今日に至り、ジェノサイドの生存者は、「人生がバラバラに壊れてしまった」、または「人生が止まった」、あるいは「ただ生き続けるしかない」と心境を語っている。彼らはみんな、今度はジェノサイドのことは話すが、それ以外は何も語ろうとしないのである。まるで心の奥でそう決めてしまっているかのようだ。(中略)

ルワンダのジェノサイドの歴史を記述するには、長い時間がかかるだろう。しかし、この本の目的は、すでに出版されている数々のドキュメントや調査記録や小説(中には優れたものがあるが)の山に加わることではない。生存者たちの驚くばかりの物語を読者に届けることが、この本のただ一つの目的である。(中略)

クロディーネやオデット、ジャンバプテスト、クリスティーネや彼らの仲間たちの、沼地に身を沈めながらの逃亡の話(しばしばぶっきらぼうな表現だったが)は、彼らの野営生活や深刻な困窮、屈辱、ついにはルワンダ社会で周縁に追いやられたことまでを、ありのままに表現している。さらに、自分がどう見られているかという不安や妄念、仲間との絆や自分の記憶への疑いまでも含まれていた。単なるジェノサイドの生き残りとしてだけではなく、もっと深くアフリカ人として村人としての彼らの思いは、私たちを「ルワンダ・ジェノサイド」の真の姿、そのぎりぎりのところまで連れていくのである。


かもがわ出版、ジャン・ハッツフェルド著、服部欧右訳『隣人が殺人者に変わる時―ルワンダ・ジェノサイド生存者たちの証言』 P11ー14

4月11日から虐殺は始まり、地獄のような状況の中生存者は逃亡を続けたのでありました。そして最終的に、この一か月ほどの間に五万人の犠牲者が出ることになります。

この本ではそんな生存者の言葉を聞くことができるのですが、読んでいて具合が悪くなるほどの地獄でした。

その一部を紹介することもできたのですが、あえてこの記事では紹介しません。

短い一つの引用で読むより、ぜひ一つのまとまった物語としてその言葉を聞いた方がはるかに強烈です。生存者が元々どのような生活をしていて、そこから虐殺が起こってからどんな目にあったのか。一人一人に凄まじい体験があります。ぜひこの本を実際に手に取ってその絶望的な語りを聴いて頂けたらなと思います。

この本の参考としてあとがきに解説がありましたのでそちらを引用します。

生存者にとっての大きなショックは、親しくもあったフツの人々が、使い慣れた農具マチェーテを持った殺人者に変わったことであった。しかも、いつの間にか殺し方が、残忍でかつ大きな苦痛を与えるものへと変化していった点である。苦痛を持続させるためにわざと止めを刺さない。何人かの人間をまとめて串刺しにする。家族を殺害する時は、互いの目の前で一人ずつ殺していく。本書には出ていないが、ある教会ではツチの肉をミンチにした器具までが残されているという。この異常さはいったい何なのか。

また生存者にとって奇妙に思えた点は、フツが自分たちの殺人を「仕事(work)」と表現し、公務員のように毎日規則正しく、九時から四時過ぎまで時間を決めて、殺戮を行ったことである。四時を過ぎ、暗くなる前にあっさりと「仕事」を終え、ビールと食事を楽しみに家に帰って行く。殺すことに異常に執着している割には、あまりにも淡白なのである。変だ。殺しを全くゲームのように考えてしまっている。「残忍」よりさらに非人間的である。

普通の人たちがここまで非人間的になった。集団でいると、このような行動に陥りやすいのだろうか、簡単に変貌してしまうものだろうか。そこには、殺さなければ攻めてきたツチに自分が殺されるかもしれない。戦わなければ、裏切りものとして仲間に殺されるかもしれないというニ重の恐怖が付きまとう。こういった恐怖を、政府とマスコミが一体となって煽り立てた結果、いつの間にかフツ集団の中で、「かもしれない」が「きっとそうなる」という確信に変わった。そして彼らはまず自己防衛のためのなりふり構わぬ先制攻撃を開始したのだ。殺戮を始めた集団は、いつの間にか自己防衛という大義名分も忘れて、残虐性をとめどなく増し、非人間化していった。この書を訳しているうちに、自分たちもいつの間にか殺人者になってしまうことが、容易に想像できるようなった。怖いことである。

かもがわ出版、ジャン・ハッツフェルド著、服部欧右訳『隣人が殺人者に変わる時―ルワンダ・ジェノサイド生存者たちの証言』 P 266-268

この引用の語られたマチェーテ(マチューテとも言われる)とは、いわゆる鉈のことです。

マチェーテ Wikipediaより

こうした原始的な道具を用いて犠牲者を切り刻み、長く苦しみを与えながら殺戮が続けられたことがこの本では語られます。

上の解説にありますように、信じられないような地獄がそこに現前していたのでありました。

この本は 「隣人が殺人者に変わる時」三部作の第一作目に当たります。 続編の『隣人が殺人者に変わる時 加害者編』 と『隣人が殺人者に変わる時 和解への道―ルワンダ・ジェノサイドの証言』もこれまた強烈です。いや、むしろ進めば進むほど恐ろしさは増していきます。

この三部作はとにかく衝撃的です。

平和とは何か。人間とは何か。罪と罰とは。善と悪、神の問題。赦しの問題。

人間における根本の問題がここに詰まっています。答えはありません。ですが、極限状態に生きた人たちの声がここにはあります。その声に耳を傾け、自分は何を思うのか。これは非常に重要なことだと思います。

ぜひおすすめしたい作品です。

以上、「『隣人が殺人者に変わる時 ルワンダジェノサイド 生存者たちの証言』衝撃の三部作!ルワンダ虐殺の実態」でした。

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隣人が殺人者に変わる時―ルワンダ・ジェノサイド生存者たちの証言

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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