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K・ローゼンクランツ『ヘーゲル伝』概要と感想~権威あるヘーゲル伝記の古典
ヘーゲル(1770-1831)Wikipediaより
今回ご紹介するのは1983年にみすず書房より発行されたK・ローゼンクランツ著、中埜肇訳『ヘーゲル伝』です。
早速この本について見ていきましょう。
本書はもと1844年にべルリン版へーゲル全集の補巻として出版された。著者の人間および著作年代がへーゲル自身に近いという意味でも,その手堅い叙述と学問的に高い内容によって多くの研究者から信頼され,現在でも依然としてへーゲルとその哲学に関する情報の重要な源泉であり続けているという点でも,古典的な作品といえる。
序言にもきわめてヴィヴィッドに描かれているように,著者が生前のへーゲルその人を親しく識っており,また同じ時代を生きたという事実から,本書には類い稀れな生彩が漲っている。
著者口ーゼンクランツはへーゲル哲学を深く理解してはいるが,けっしてそのなかに溺れこんでしまった一辺倒の弟子ではなかったので,叙述対象とのー定の距離に示された伝記作者としての理想的な位置がこの伝記の叙述をして客観性の高いものたらしめている。これを凌駕するへーゲル伝がかつて書かれたことはなく,今後も現われないであろう。
みすず書房、K・ローゼンクランツ、中埜肇訳『ヘーゲル伝』裏表紙
この解説の最後の「これを凌駕するへーゲル伝がかつて書かれたことはなく,今後も現われないであろう。」という言葉は驚きですよね。
それほどこの伝記はヘーゲル研究において評価されている作品と言えます。
ですがこの作品を読んでいて個人的に感じたのは、伝記といえどあまり伝記的なものを感じないという点でした。
私がヘーゲル伝を読もうと思ったのはヘーゲルの生涯を知りたいと思ったのはもちろんですが、当時の時代背景を知りたいというのが1番の理由でした。
しかし、この伝記を書いたローゼンクランツはヘーゲルと同時代人です。
その時代において当たり前だったことは書かれません。
また、時代を経て整理された資料を基にした伝記でもないので、その生涯や生活ぶりが詳しく語られるということも少なめです。
どちらかというとヘーゲルの思想の過程を年代順に追って行くという形になります。
そうなってくるとヘーゲルだけでなく、カントやシェリングなど当時の西洋哲学の知識もなければ理解するのも覚束ない状態になってきます。
もちろん、ヘーゲルの生涯において重要な出来事や辿った道筋は知ることができます。ですが、いかんせんそこで語られる思想が難しい!正直、かなり苦しい読書になりました。
ですが、この作品はヘーゲル伝記における古典として今なお最高の評価を受けている伝記です。
つまり、ヘーゲルを学ぶ上でこの本は研究者必読の質の高い文献ということになります。
ですので悪いのはこの本ではありません。悪いのはこの本を理解できない私なのです。
私は以前からカントやヘーゲルなどの西洋哲学が苦手で、彼らの著作を読もうとするも何度も跳ね返されている人間です。やはり私にはまだまだ西洋哲学を学ぶための下地が足りないということなのでしょう。
自分のわかっていなさをわかる読書というのも大事なことなのかもしれません。
ただ、全体としては苦しい読書になりましたが、ところどころでヘーゲルの思想や当時の時代精神を知る上で大きな発見がありました。これは苦しみながらもこの本を読んだからこそだと思います。やはり何かを学ぶためにはこういう忍耐の読書も必要なのだなと改めて感じたのでありました。
私にとっては難易度の高いこの伝記ではありましたが、ヘーゲルを学ぶ上では必読とも言える非常に評価の高い伝記です。ヘーゲル伝記の古典としてこの本は重要な作品と言うことができるでしょう。
以上、「K・ローゼンクランツ『ヘーゲル伝』~権威あるヘーゲル伝記の古典」でした。
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さらにこの伝記ではマルクスとの関係など、その後の世界に与えた影響も知ることができたのがありがたかったです。
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