MENU

「時間の止まった街」トレドを散策!マドリードからおすすめ日帰り観光地トレドと知の再発見 スペイン編④

目次

「もしスペインでたった1日しか時間がなかったら、ためらわずにトレドを見よ」中世の古都トレドと知の再発見 僧侶上田隆弘の世界一周記―スペイン編④

マドリードでプラド美術館を堪能後、ぼくは現地のオプショナルツアーに参加しトレドへと向かうことにした。

マドリードからはツアーバスでおよそ1時間ほどで着くことができる。

トレドは「時間の止まった街」と称賛され、「もしスペインでたった1日しか時間がなかったら、ためらわずにトレドを見よ」と言われるほどの美しい街だ。

こちらが展望台から眺めたトレドの景色。

目の前のタホ川の流れの向こう側にトレドの街が広がっている。

タイムスリップしてしまったかのような光景。

中世の街並みがそっくりそのまま現在にも残されている。

視線を左へ移していくと、トレドの街が川の上の崖の上に作られていることがよくわかる。

地図で見るとさらにわかるように、トレドは街の東、南、西の三方を川と崖に囲まれている。

これが天然の要塞の役目を果たし、トレドはスペインにおける重要な都市として繁栄していたのであった。

トレド市内は建物に囲まれた狭い道が迷路のように張り巡らされている。

トレドの中心、カテドラル。

1226年に建設がスタートし完成したのはなんと250年以上後の1493年。

その後も増改築が何度も繰り返された堂々たる大聖堂だ。

中央祭壇

この大聖堂はスペインカトリックの大本山であり、内部の構造も圧倒的な迫力だ。

スペインは伝統的にカトリックが盛んな国。

ローマのバチカンとも非常に結びつきが強く、スペインの歴史を語るにはカトリックの歴史は避けては通れないほどだ。

さて、ここで話は変わるが、みなさんはヨーロッパの暗黒時代ということを聞いたことがあるだろうか。

「ヨーロッパは進んでいる」というイメージをぼくたちは持ってしまいがちだが、実はヨーロッパが世界の覇権を握るようになったのは歴史の上では最近の話なのだ。

それまで世界最高水準の文化を誇っていたのが何を隠そう、イスラム世界なのだ。

ざっくりと歴史を眺めてみると、ヨーロッパ世界の最初のピークは古代ローマ帝国にまで遡る。

古代ローマではアリストテレスやプラトンなどのギリシア哲学や建築技術、優れた政治組織など高度な文明が花開いていた。

しかし5世紀に蛮族(ヨーロッパ北部の人々)の侵入によってローマ帝国が崩壊してしまうと、その高度な文明がほとんど消え去ってしまったのだ。

蛮族はローマの優れた文明を継承するだけの力もなく、世界はまたローマ以前の文化水準へと逆戻りしてしまったのだ。

信じられないことにこの後のヨーロッパ世界では、アリストテレスの著作やローマの優れた文明もすっかり忘れ去られてしまうことになってしまったのだ。

なぜそんなことになってしまったのだろうか。

それを説明しようとするとものすごく長くなってしまうので今回はお話しできないが、とにかく、ヨーロッパはローマ帝国崩壊後文明を失い、素朴な農村社会と細々とした村社会へと逆戻りしてしまったのだった。

さて、その暗黒時代のヨーロッパが息を吹き返すきっかけとなった出来事こそ、1096年から始まった十字軍ともうひとつ、ここ1085年のトレドの再征服だったのだ。

1096年から始まった十字軍は戦争という血生臭い出来事ではあったが、同時にヨーロッパ世界とイスラム世界の交流という側面もたしかに存在した。

それまで断絶していたイスラム世界の優れた文化をヨーロッパ人は目の当たりにし、それをヨーロッパに持ち帰った。

そして極めつけはここトレドの再征服だ。

当時イスラム教徒の支配下にあったトレドは学問の中心地として非常に繁栄していた。

イスラム教の優れた学者やユダヤ人の学者が日々高度な研究をする学問都市であったため膨大な書物がトレドには保管されていた。

トレドを征服したキリスト教徒は驚愕する。

見たこともないような書物の山。それらはアラビア語で書かれていたが、キリスト教徒たちはその本の山に興味深々だ。

翻訳のできるユダヤ人にそれらは何の本か尋ねてみると、なんと失われたはずのアリストテレスの著作だと言うのだ。

これには彼らも度肝を抜かれた。

実はイスラム世界が生まれたアラブ地域ではローマ帝国が滅びた後もしっかりとギリシア哲学の伝統が継承され研究が進められていたのだ。

そのため7世紀に誕生したイスラム教内部でもギリシア哲学は重要視されていたという歴史があった。

何はともあれ、ヨーロッパ世界が失われた文明とトレドの地で再会を果たした。

これがヨーロッパの暗黒時代からの目覚めと言われた出来事なのだ。

ローマ帝国の崩壊と共に失われたギリシア哲学の再発見。

それがここトレドから始まり、ヨーロッパでは新たな知性に目覚めた人間が爆発的に増えていく。

それがトマス・アクイナスをはじめとしたスコラ哲学と呼ばれるキリスト教神学の発展につながり、はてにはルネッサンス運動の萌芽となっていく。

ぼくたちが想像するヨーロッパらしい文化のスタートはここトレドでの知の再発見からスタートを切ったのだ。

次の記事ではスペインのキリスト教とイスラム教文化を理解する上で欠かせないスペインのレコンキスタ(国土再征服運動)についてお話ししていきたい。

続く

次の記事はこちら

あわせて読みたい
レコンキスタとは~スペインにおけるキリスト教徒とイスラム教徒の因縁の戦い  スペイン編⑤ 前の記事ではキリスト教徒のトレド征服によってかつて失われたギリシア哲学が発見され、暗黒時代からの目覚めをもたらしたことをお話ししました。 スペインがかつてイスラム教徒によって治められていたことは、スペインの文化を知る上で欠かせない要素です。 今回の記事ではスペインにおけるキリスト教徒とイスラム教徒の歴史についてお話ししていきます。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
ヒエロニムス・ボス『快楽の園』を解説!ボスはなぜ奇妙な地獄絵や絵画を描いたのか スペイン編③ 前回の記事「ヒエロニムス・ボス『快楽の園』~人類と善悪の起源を考える スペイン編②」ではヒエロニムス・ボスの「快楽の園」と人類の善悪の起源についてお話ししました。 私の旅のきっかけともなった本『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』に大きく紹介されていた「快楽の園」。 今回の記事では霊長類学者フランス・ドゥ・ワールの独特な視点から離れて、この絵の基本的な解釈をもとに改めて「快楽の園」を紹介していきます。

関連記事

あわせて読みたい
スペイン旅行記おすすめ記事一覧~僧侶が行くスペイン宗教巡礼の旅【僧侶上田隆弘の世界一周記】 およそ20日間をかけてぐるっと駆け巡ったスペインの旅でしたが、さすがはドン・キホーテの国。この国は遍歴の旅をするには最高でした。
あわせて読みたい
ローマカトリック総本山サンピエトロ大聖堂~想像を超える美しさに圧倒される イタリア・バチカン編④ ローマカトリックの総本山バチカンのサンピエトロ大聖堂。 そのあまりの美しさと迫力に圧倒されてしまいました。 そしてミケランジェロのピエタ像にも魅了され、衝撃的な時間を過ごすことになりました。 まさかここまですごいとは・・・!予想をはるかに超えた素晴らしさにただただ絶句するのみでした。
あわせて読みたい
イスラム教の聖地、岩のドームを訪ねて イスラエル編⑬ 近くで見ても美しい!イスラム教の聖地、岩のドーム 僧侶上田隆弘の世界一周記―イスラエル編⑬ 4月8日。朝7時。 今日も「寺は朝」の原則を守ることにしよう。 今朝の...
あわせて読みたい
ジャック・ル・ゴフ『中世西欧文明』あらすじと感想~中世ヨーロッパは本当に暗黒時代だったのか。ルネ... 中世ヨーロッパの人々の生活や信仰を知ることができる本書は非常に貴重です。 特に煉獄や天使の観念や、人間と森の関係性などの話は刺激的でした。「おぉ~なるほど!」と膝を打ちたくなる解説がどんどん出てきます。
あわせて読みたい
P・グリマル『ローマ文明』あらすじと感想~ローマ帝国の圧倒的な繁栄やその文化的背景を知るのにおすす... この作品はこれまで当ブログで紹介してきた『ギリシア文明』や『ヘレニズム文明』と同じく、文明の起こってきた背景やその内容について詳しく解説してくれる貴重な参考書です。 この本ではローマの起源から繁栄までの流れや、帝国を支えた高度な文明がいかにして出来上がったかが解説されます。特に書名にもありますように「ローマ文明」の基本となるローマ法や建築技術、文化、芸術などはかなり詳しく語られます。
あわせて読みたい
桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』あらすじと感想~知の爆発はいかにして起こったのか!知的好奇... この本はルネサンスというわかるようでなかなかわからない時代を「メディア革命」という切り口で見ていきます。 私は本が大好きです。そんな本好きの私にとって、本がいかにして世界を変えてきたのかということを知れたのは最高に刺激的でスリリングな体験となりました。 これは面白いです。 知的好奇心がスパークする作品です!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次