MENU

松本照敬『ジャータカ 仏陀の前世の物語』あらすじと感想~大乗仏教に大きな影響を与えた仏教説話のおすすめ入門書

ジャータカ
目次

松本照敬『ジャータカ 仏陀の前世の物語』概要と感想~大乗仏教に大きな影響を与えた仏教説話のおすすめ入門書

今回ご紹介するのは2019年にKADOKAWAより発行された松本照敬著『ジャータカ 仏陀の前世の物語』です。

早速この本について見ていきましょう。

自己犠牲と利他を描く仏教説話集

食べ物を何ももたないウサギは炎にとび込み、自らの肉を布施に捧げた。このウサギこそ釈尊の前世の姿であった――。古代インドの仏教徒が口づてに伝えた説話集ジャータカ。輪廻転生思想のもと、国王、バラモン、商人、そして動物から神まで、さまざまな生を描く物語は、今昔物語集や歌舞伎をつうじて日本でも親しまれてきた。詩と散文によって彩られ、利他と自己犠牲の理想を描きあげた説話文学集のエッセンスを一冊にまとめる。

Amazon商品紹介ページより

本書はブッダ滅後2、300年頃に原型が出来上がったとされるジャータカのおすすめ入門書です。

ジャータカとはブッダの前世の物語のことで、上の本紹介にもありますように利他や自己犠牲が説かれた素朴な物語です。

本書の第一章でこのジャータカについての解説がありますのでそちらを見ていきましょう。

インドには、仏教が興る以前から輪廻転生という思想がありました。生き物は死んでから一定の期間が過ぎると、再びこの世に戻ってくるという考えかたです。

次の世に何に生まれ変わるかは、生前の行為にもとづくとされます。生き物が行為した結果生ずる目に見えぬ力をごうといいます。「善業によって善きものになり、悪業によって悪しきものとなる」という所説が、仏教以前に成立したバラモン教のウパニシャッド聖典に記されています。

インドの仏教徒は、輪廻の思想にもとづいて、釈尊はカピラ城の王子としてうまれるまえに、さまざまな生き物として生死を繰り返し、幾度となく善業を積んだ結果、仏陀となるような人格が形成されたのであると考えたのです。

釈尊は、ジャータカの中で、ボーディサッタ(菩薩)あるいはマハーサッタ(大士)と呼ばれます。さとりを求めて修行するボーディサッタは、あるときには、帝釈天や樹木の精として活躍します。またあるときには、国王、王子、大臣、バラモン、学者、商人などとして生まれます。神や人間として生まれるばかりではありません。シカ、ウサギ、イヌ、ネズミ、カニなどにもなります。こうして、ボーディサッタはさまざまな姿で善行を実践するのです。

KADOKAWA、松本照敬『ジャータカ 仏陀の前世の物語』P14-15

その代表的なお話が法隆寺の玉虫厨子にも描かれている「捨身飼虎」です。飢えた母虎を救うために自らの身体を与えたという有名な物語です。こちらももちろん本書に収録されています。

法隆寺、玉虫厨子「捨身飼虎図(須弥座向かって右面)」Wikipediaより

他にも自分の身体を切って鷹に肉を与えて鳩を救ったシビ王物語やバラモンへの供養のために自ら火に飛び込んだウサギの話など有名な物語を本書で読むことができます。特にこのウサギの物語は「月のウサギ」の元となったお話でもあります。

私達にとっても身近な物語がこのジャータカには収められています。

有名な物語以外にも興味深い説話がどんどん出てきますので、ジャータカの雰囲気を感じる上でもこの本はとてもおすすめです。また、こうした仏教説話から大乗仏教の流れが始まってくるという意味でもジャータカを学ぶ意義は大きいと思います。

ぜひおすすめしたい入門書です。

以上、「松本照敬『ジャータカ 仏陀の前世の物語』~大乗仏教に大きな影響を与えた仏教説話のおすすめ入門書」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

ジャータカ 仏陀の前世の物語 (角川ソフィア文庫)

ジャータカ 仏陀の前世の物語 (角川ソフィア文庫)

前の記事はこちら

あわせて読みたい
佐々木閑『仏教の誕生』概要と感想~初学者にもおすすめの仏教入門書! 今作『仏教の誕生』は仏教入門にぜひぜひおすすめしたい参考書です。 仏教に興味があるけど何を読んだらよいですか?と聞かれたら最近はこの本を私はおすすめしています。

関連記事

あわせて読みたい
【現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】⑴ネパール、ルンビニーでの王子様シッダールタの誕生! 今回の記事から全25回の連載を通してゴータマ・ブッダ(お釈迦様)の生涯を現地写真と共にざっくりとお話ししていきます。 私は2024年2月から3月にかけてインドの仏跡を旅してきました。 この連載では現地ならではの体験を織り交ぜながらブッダの生涯を時代背景と共に解説していきます。
あわせて読みたい
及川真介訳『蜜の味をもたらすもの 古代インド・スリランカの仏教説話集』あらすじと感想~スリランカの... 本書は今なおスリランカをはじめとした上座部仏教圏で親しまれている仏教説話だそうです。 仏教説話といえばブッダの前世物語であるジヤータカが有名ですが本書ではそれとは一味違った物語を目の当たりにすることになります。
あわせて読みたい
馬場紀寿『初期仏教 ブッダの思想をたどる』概要と感想~最新の研究が反映されたおすすめの原始仏教入門書 この本を読んで私が一番印象に残っているのは中村元先生の説が最新の研究においては否定されているという点でした。 中村元先生についてはこれまでも当ブログでも様々な本を紹介してきました。中村元先生は1999年に亡くなられましたが、その後の仏教学の発展を本作で感じることができます。
あわせて読みたい
中村元『古代インド』あらすじと感想~仏教が生まれたインドの風土や歴史を深く広く知れるおすすめ参考書! 仏教の教えや思想を解説する本はそれこそ無数にありますが、それらの思想が生まれてきた時代背景や気候風土をわかりやすくまとめた本は意外と少ないです。この本は私達日本人にとって意外な発見が山ほどある貴重な作品です。これを読めばきっと驚くと思います。
あわせて読みたい
辛島昇・奈良康明『生活の世界歴史5 インドの顔』あらすじと感想~インド人の本音と建て前。生活レベル... 本書では宗教面だけでなく、カーストや芸術、カレーをはじめとした食べ物、政治、言語、都市と農村、性愛などなどとにかく多岐にわたって「インドの生活」が説かれます。仏教が生まれ、そしてヒンドゥー教世界に吸収されていったその流れを考える上でもこの本は非常に興味深い作品でした。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次