MENU

イアン・ジョンソン『信仰の現代中国』あらすじと感想~共産党政権下における宗教生活の実態に迫る!信仰とは何かを問うノンフィクション!

信仰の現代中国
目次

イアン・ジョンソン『信仰の現代中国 心のよりどころを求める人々の暮らし』概要と感想~共産党政権下における宗教生活の実態に迫る!信仰とは何かを問うノンフィクション!

今回ご紹介するのは2022年に白水社より発行されたイアン・ジョンソン著、秋元由紀訳の『信仰の現代中国 心のよりどころを求める人々の暮らし』です。

早速この本について見ていきましょう。

宗教と伝統行事を通して見えてくる中国社会の姿

 弾圧から緩和、引き締め、そして包摂へ―毛沢東以来、共産党支配下における政治と宗教の関係は常にある種の緊張状態にある。本書は、この緊張状態の根源にあるものを掘り起こし、信仰と伝統行事のあり方を通して中国社会のもう一つの姿を描いたノンフィクションである。


 物質的な欲望と拝金主義にまみれ、もはや伝統的な信仰心など消えてしまったかのように見える中国社会だが、旧暦に基づく季節の行事や古くからのしきたりが今も脈々と息づいている。いくら繁栄しても何かが足りない―その何かを求めて多くの人びとが信仰や伝統行事に目を向け実践するありさまを描くため、著者は約一年半、こうした活動に携わる家族や団体などと行動をともにしてきた。各種の行事を観察し、ときには自ら瞑想法・呼吸法の講習会に参加する。登場するのは、妙峰山の参拝客を相手に香会を営む倪家、農村で道教の儀式や占いをする李家、地方都市で地下活動を続ける牧師など、さまざまなバックグラウンドを持つ人びとである。


 本書は二十四節気に沿った章立てで、季節の移り変わりとともにストーリーが立体的に展開する仕組みとなっている。海外の主要紙誌が絶賛した傑作だ。

Amazon商品紹介ページより

この本は宗教を禁じていた共産党中国において、今宗教はどのような状況になっているかを追っていく作品です。

本書について訳者あとがきでは次のように述べられています。

もともと中国では宗教が政治体制を含む社会全体と一体となり、日常生活にも溶け込んでいたが、そのような伝統的な形の宗教は近代国家としての前進を阻むものとして非難され、共産党が権カを掌握する前から破壊が始まっていた。宗教に関係する場所や人に対する攻撃は一九六〇年代から激化し、家庭内の祭壇までも含めて礼拝の場のほとんどが破壊され、聖職者も追放された。一九七六年に毛沢東が死去したときには、公の場での宗教生活は消えていた。

ところがその後、経済発展が始まり、数世代ぶりに衣食住が足りて社会が比較的平和で安定するようになると、人びとは物質的でない何かを信じたい、人生により深い意味が欲しいと思うようになり、宗教生活がよみがえり始めた。これは政府の政策や支援に後押しされた動きではなく、ごく普通の市民がそれぞれ自主的に行動を起こした結果だった。本書でジョンソンは「中国で宗教生活が復活したのは、このような一人ひとりの目覚ましい行いの積み重ねによる」と述べている。

ジョンソンは数年かけてそんな人たちと行動をともにし、さまざまな行事に参加して、その人たちの行いや考えていることを丁寧に描き出した。本書は、現代中国を舞台に、社会には共通の価値観があるべきだ、何か超越したものに導かれていたい、という思いに突き動かされた人たちに寄り添う、臨場感あふれる作品である。同時に、中国を超えて、「経済を大半の決定の根拠としてきた社会に連帯と価値基準を回復させるにはどうしたらいいか」(「エピローグ」より)という普遍的な問いを投げかけ、本書に登場する人たちが持っているような「天を求める」思いが広く社会や世界にどんな影響を及ぼしうるかを考えさせられる一冊でもある。

白水社、イアン・ジョンソン、秋元由紀訳『信仰の現代中国 心のよりどころを求める人々の暮らし』P416

ここで述べられるようにかつての中国では共産党当局による厳しい宗教弾圧が行われていました。この宗教弾圧については以前当ブログでも高橋保行著『迫害下のロシア教会―無神論国家における正教の70年』という本を紹介しました。

あわせて読みたい
高橋保行『迫害下のロシア教会―無神論国家における正教の70年』あらすじと感想~ソ連時代のキリスト教は... ソ連が崩壊した今だからこそ知ることができるソ連とロシア正教の関わり。 そのことを学べるこの本は非常に貴重な一冊です。 ドストエフスキーを知る上でもこの本は非常に大きな意味がある作品だと思います。

この本でもソ連における激しい宗教弾圧の実態を知ることになりましたが、本書『信仰の現代中国 心のよりどころを求める人々の暮らし』を読んで改めて共産党における宗教への対応について考えさせられることになりました。

ただ、本書においてはかつての宗教弾圧が主題ではなく、それが緩んだ現代中国における宗教事情が語られます。上の引用で述べられていたように近年の中国では「当局の監視の下」という制限はありますが信仰の自由が認められるようになりました。それによって一度は失われかけていた信仰が人々の間で取り戻されつつあることが本書で語られます。

「中国の宗教とは何なのか」

中国の隣人である私たちにとって、わかるようでわからない中国の存在。

私自身も最近中国の歴史を学ぶまでこの国がどのような宗教の国なのかわかっていませんでした。漠然と道教や儒教、仏教などは浮かぶものの、それぞれがどのように信仰されているかほとんどわかりませんでした。まして現代中国となると共産党のイメージばかりでその他はさっぱりわかりませんでした。

そんな私にとって現在の中国の宗教事情を知れたのは非常に興味深いものがありました。

ただ、本書でも述べられていたのですが、近年共産党当局が厳しい統制をかけているため今後どうなるかはわからないというのは非常に恐ろしく感じました。

この本は私達の知らない中国を目の当たりにすることになります。著者が実際に長期の密着取材をしたからこその情報が満載です。現代中国の宗教事情を知るのにこの本は非常におすすめです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「イアン・ジョンソン『信仰の現代中国』~共産党政権下における宗教生活の実態に迫る!信仰とは何かを問うノンフィクション!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

信仰の現代中国:心のよりどころを求める人びとの暮らし

信仰の現代中国:心のよりどころを求める人びとの暮らし

次の記事はこちら

あわせて読みたい
加地伸行『孔子 時を越えて新しく』あらすじと感想~儒教の成り立ちや時代背景も詳しく知れるおすすめ伝... この伝記ではまさに孔子その人だけでなく、彼の生きた時代も見ていくことになります。孔子が何を望み、何に苦しんだかを学べるのは非常に刺激的です。著者の語りも素晴らしく、ものすごく読みやすいです。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
村山吉廣『中国の思想』あらすじと感想~中国宗教の時代背景と全体像を掴むのにおすすめの参考書! 本書では中国における儒教、道教、仏教の流れの全体像を眺めることができます。 文庫サイズのコンパクトな作品ですが中身は非常に濃厚です。

関連記事

あわせて読みたい
加地伸行『儒教とは何か』あらすじと感想~死と深く結びついた宗教としての儒教とは。中国人の宗教観を... 儒教といえば宗教というより倫理道徳と見られがちですが、著者によれば儒教こそまさに中国人の宗教に大きな影響を与えたと述べます。 儒教は死と深く結びついており、儀礼、倫理道徳だけで収まるものではないことをこの本で知ることになります。
あわせて読みたい
菊地章太『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』あらすじと感想~中国の宗教は何なのかを知るための... この本では儒教、仏教、道教それぞれの教えや特徴を見ていきながらそれらがどのように絡み合っているかを見ていきます。 さらには「そもそも宗教とは何なのか」という直球ど真ん中の問題にもこの本では切り込んでいきます。これは面白いです!
あわせて読みたい
J・ロバーツ『スターリンの図書室』あらすじと感想~読書という視点から見る斬新なスターリン伝。彼はド... なぜスターリンは独裁者となれたのか、その背景となったものは何だったのか、それを「読書」という観点から見ていく本書は非常に刺激的です。「読書」というある意味独裁者と結びつきにくいマイナーな切り口から攻めていく著者の勇気には驚くしかありません。
あわせて読みたい
W・シャブウォフスキ『踊る熊たち 冷戦後の体制転換にもがく人々』あらすじと感想~旧共産圏の人々に突... この本は旧共産圏のブルガリアに伝わる「踊る熊」をテーマに、旧共産圏に生きる人々の生活に迫る作品です。 この本もすごいです・・・! ロシアに関する本は山ほどあれど、旧共産圏のその後に関する本というのはそもそもかなり貴重です。 しかも、その地に伝わってきた「熊の踊り」というのがまさに旧共産圏から「自由」への移行劇を絶妙に象徴しています。 「踊る熊」を通して私たち自身のあり方も問われる衝撃の作品です。これは名著です。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
あわせて読みたい
(15)レーニンとロシア正教会~ソ連政府の教会弾圧の過酷な実態とは 「農民の不満が最大限に高まり飢餓に苦しむ今、教会を守ろうとする人間もいないはず。」 レーニンは教会を潰すには今しかないというタイミングまで待ち、ついに行動に移るのでした。 これは権力掌握のために徹底した戦略を立てるレーニンらしい政策でありました。 これによってロシア正教会は徹底的に弾圧され、ソ連政権時の長きにわたって過酷な運命を辿ることになったのでした。 レーニンがいかにして教会を弾圧したかをこの記事では見ていきます。
あわせて読みたい
マルクス主義者ではない私がなぜマルクスを学ぶのか~宗教的現象としてのマルクスを考える マルクスは宗教を批判しました。 宗教を批判するマルクスの言葉に1人の宗教者として私は何と答えるのか。 これは私にとって大きな課題です。 私はマルクス主義者ではありません。 ですが、 世界中の人をこれだけ動かす魔力がマルクスにはあった。それは事実だと思います。 ではその魔力の源泉は何なのか。 なぜマルクス思想はこんなにも多くの人を惹きつけたのか。 そもそもマルクスとは何者なのか、どんな時代背景の下彼は生きていたのか。 そうしたことを学ぶことは宗教をもっと知ること、いや、人間そのものを知る大きな手掛かりになると私は思います。
あわせて読みたい
マルクス『ヘーゲル法哲学批判序説』あらすじと感想~「宗教はアヘン」はどのような意味なのか 私たちは「宗教はアヘン」と聞くと、何やら宗教が人々を狂わせるかのような意味で受け取りがちです。ですがそういうことを言わんがためにマルクスは「宗教はアヘン」と述べたわけではないのでした。 この記事ではそんな「宗教はアヘン」という言葉はなぜ語られたのかということを見ていきます。 「宗教はアヘン」という言葉は僧侶である私にとって非常に厳しいものがありました。なぜマルクスはそのように語ったのか、何を意図して語っていたのかを知れたことはとても大きな経験となりました。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次