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ひのまどか『戦火のシンフォニー レニングラード封鎖345日目の真実』概要と感想~独ソ戦の極限状況と芸術の力
今回ご紹介するのは2014年に新潮社より発行されたひのまどか著『戦火のシンフォニー レニングラード封鎖345日目の真実』です。
極限状況下、それでも演奏をやめなかったオーケストラの、魂の物語! 一九四二年、ナチスドイツに完全包囲され、すべてのライフラインを断たれた古都レニングラード―砲弾の雨、強奪、凍死、餓死、人肉食……。想像を絶する地獄絵図の中で、ショスタコーヴィチの交響曲第七番を演奏する人たちがいた! なぜそこまでして? 何のために? 平和を愛するすべての人に贈る、驚愕と感動の記録!
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ひのまどかさんはこれまで当ブログでも紹介してきました「作曲家の物語シリーズ」の著者です。
私はこのシリーズの『スメタナ』を読んで以来、ひのまどかさんの作品にすっかりはまってしまいました。物語の語り口が絶妙で、読む度に感嘆しています。
さて、今回ご紹介する『戦火のシンフォニー レニングラード封鎖345日目の真実』は1941年から始まった独ソ戦を舞台にしています。
レニングラード封鎖については以前当ブログでも紹介しました。
この本でも飢餓の極限状況の中でも芸術が人々の心の大きな支えになっていたことが語られていましたが、ひのまどかさんのこの著書ではさらに詳しく音楽家たちの命がけの闘いを見ていくことになります。
巻末のあとがきで著者は次のように述べています。とても重要な箇所ですので少し長くなりますがじっくり見ていきます。
私は四半世紀余り、現地取材を基本にしたクラシックの大作曲家の伝記物語を、シリーズで書き続けてきた。
そこから得た教訓は、音楽は文学と同じく社会を映す鏡であり、どの曲もそれを生み出した時代、歴史、風土、作曲家の生き方と切り離せない、ということだった。その意味では、ショスタコーヴィチほど社会に翻弄された作曲家も稀だし、《交響曲第七番》ほど巨大な社会的背景を持つ作品も稀である。ゆえに《第七番》については多くのことが書かれ論じられてきたが、常に主題はソビエト時代の「大天才ショスタコーヴィチ」であり、「レニングラード封鎖」だった。
その一方で、この曲のレニングラード初演については、ごく簡単にしか触れられて来なかった。どこかで見た解説には「寄せ集めのオーケストラによって行われた」という冷たい記述さえあった。
私自身もこの件には疎かったので、ニ〇〇三年にサンクトぺテルブルクの「戦争博物館」を訪れ、極限状態の中で《第七番》の初演に邁進したラジオ・シンフォニーの存在を知った時には、驚愕し、胸を打たれた。以来、《第七番》について語るのであれば、「主題はこの無名の音楽家たち以外にはありえない。この人たちの姿を知らずして《第七番》の歴史的意味は語れない」と思うようになった。その根底には、執筆業に転向する以前の私の演奏家体験があった。
私は六歳でヴァイオリンを始め、中学三年の頃からプロのヴァイオリニストを目指し、音大卒業後はソロ、室内楽、オーケストラの体験を積んできた。
演奏家は誰でも知っているが、どんな名曲でも演奏家の仲介なしには聴き手の耳に届かないし、交響曲のような大規模な作品に至っては、オーケストラの協力と献身なくして世に出ることもない。そのオーケストラを構成する楽団員一人一人は幼少期から演奏技術を磨き、アンサンブルに通じ、作品の中の自分の役割や、指揮者の能力などを熟知しているものだ。
しかし一般にはその実態がなかなか理解されない。
指揮者はスターだが、オーケストラは顔のない集団と見られて、個々の努力や働きには関心が持たれない。従って、レニングラード封鎖の中で《第七番》初演を行なうことがどれほど困難なことなのか、演奏家以外にはピンと来ないだろう。
その点、私は彼らの身になって想像することができた。零下のスタジオやホールで演奏すること、栄養失調(になったことはないが)や怪我を負った身で楽器を持つこと、長期間演奏から離れた後、わずか数日でコンサートに復帰することなど、ほとんど不可能と思える困難の連続だ。廃校の中の「戦争博物館」でプロートゥさんから楽団員たちの筆舌に尽くしがたい苦闘について聞き、彼ら全員の写真を収めた古いアルバムや初演で使われた楽器を見た時、私は「この人たちのことを親身になって伝えられるのは自分しかいない!」と思ってしまった。プロートゥさんも「この博物館やオーケストラのことを、もっと多くの人に知ってもらいたい」という気持を全身から迸らせていた。
新潮社、ひのまどか『戦火のシンフォニー レニングラード封鎖345日目の真実』P271-272
これまでひのまどかさんの伝記シリーズを読んでいてまさに感じたのは、はじめに述べられているように「音楽は文学と同じく社会を映す鏡であり、どの曲もそれを生み出した時代、歴史、風土、作曲家の生き方と切り離せない」ということでした。
私はこれまで文学や歴史を中心に19世紀ヨーロッパを見てきましたが、このシリーズをきっかけに音楽という視点からもこの時代を見ていくことになりました。
すると、今まで見えてこなかった世界がどんどん開けてくるのが強く感じられるようになりました。
世界は繋がっている。あらゆるものが相互に絡み合ってこの複雑な世界が出来上がっているということを改めて学ぶことになりました。
この本でも20世紀最大の戦争となった独ソ戦を音楽という側面から見ていくことになります。しかもひのまどかさんが述べるように、通常注目されることのないオーケストラのひとりひとりの奮闘をこの本では詳しく追っていくことになります。
どれほど困難な状況で彼らが生き抜き、音楽に身を捧げたのか。
そして戦時中という極限状況で音楽はどんな意味を持つのか。銃や爆弾を前にして芸術ははたして力を持つのか。
この本は当時の緊迫した状況を学べる素晴らしい1冊です。
ぜひぜひおすすめしたい1冊です。
以上、「ひのまどか『戦火のシンフォニー レニングラード封鎖345日目の真実』独ソ戦の極限状況と芸術の力」でした。
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