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ニーチェのデビュー作『悲劇の誕生』あらすじと感想~哲学者ニーチェの特徴を知るのにおすすめ

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ニーチェのデビュー作『悲劇の誕生』概要と感想~哲学者ニーチェの特徴を知るのにおすすめ

フリードリヒ・ニーチェ(1844-19001)wikipediaより

今回紹介するのは1872年にニーチェによって発表された『悲劇の誕生』です。

私が読んだのは岩波文庫版、秋山英夫訳の『悲劇の誕生』です。

早速この本について見ていきましょう。

ニーチェ(1844‐1900)の処女作。ギリシャ文明の明朗さや力強さの底に「強さのペシミズム」を見たニーチェは、ギリシャ悲劇の成立とその盛衰を、アポロ的とディオニュソス的という対立概念によって説いた。そしてワーグナーの楽劇を、現代ドイツ精神の復興、「悲劇の再生」として謳歌する。この書でニーチェは、早くも論理の世界を超えた詩人の顔をのぞかせる。

Amazon商品紹介ページより

ニーチェは元々古典文献学者でした。ニーチェは古代ギリシア文献を当時の学問的常識とは全く異なる視点で見ていこうとしました。その試みの結晶がこの『悲劇の誕生』という作品になります。

「アポロ的とディオニュソス的」という有名な概念はそうした試みから生まれた概念になります。

この記事ではそうした概念についての解説はしません。というより、できません。専門家でもない私がニーチェ哲学の解説をするのはあまりに危険です。もしもっと知りたい方はこれまで当ブログで紹介してきた参考書をぜひご参照ください。

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さて、ニーチェはこの作品でデビューすることになったのですが、他の学者達から猛反発をくらい、ニーチェの学者としてのキャリアは消滅してしまったのでした。孤高の哲学者ニーチェは自ら進んでなったのではなく、この作品の発表によって学者達から締め出しを食らってしまったからなのでした。

ではニーチェの何が他の学者にとって我慢ならないものだったのでしょうか。

西尾幹二の『ニーチェ 第二部』では次のように述べられています。

文献学者が言葉の中に明証を求め、文献に書かれてないことはいっさい論じないという厳格な知的態度を守っているのに対し、ニーチェが『悲劇の誕生』において、古代の文献に存在しないこと、すなわち論証できないことを平然と言ってのけている事実である。これがヴィラモーヴィッツをはじめとする文献学者たちを憤激させた主原因だった。

例えば半人半獣神サテュロスコーラスが悲劇の母胎だというようなニーチェの主張がその一つである(第八節)。こういう主張はなんら文献的に証明できない空想である。

サテュロス劇はわずか一作だけエウリピデスに残っているが、しかしそこでもサテュロスがコーラスであったという論拠はどこにもない。文献学者なら誰でも知っているといわれる事実をニーチェが知らなかったはずはないだろう。いやそもそも『悲劇の誕生』の根本テーマ、ギリシア悲劇の起源をディオニュソス神と関係づけている叙述の中心をなす主題も、じつはギリシア悲劇の本文からはどうやっても出てこないのである。

ニーチェは明らかに承知で空想を語っているといえる。否、空想を語っているという言い方は正確ではない。文献には出ていないが、文献の奥に、より根源的なものが存在するとの確信があってはじめて、表面の言葉を理解することが出来るという考え方なのであろう。言葉で表現し得ないなにかにぶつかって、初めて言葉は真の言葉となる。言葉で伝達しえないなにかが表面の言葉を支えている、と二ーチェは考える。彼にとってはそのなにか、、、の方が、言葉よりもはるかに大切だった。

中央公論社、西尾幹二『ニーチェ 第二部』P188

この解説はデビュー作にしてすでにニーチェの特徴がいかんなく発揮されていることを示しているように思えます。

本来文献学者としては文献に書かれていないことを述べるのはタブーです。

それをニーチェは突き破り、自らの思想、哲学を述べていきます。

文献学者が守るべき掟を破ったニーチェが学者達から激しい批判を浴びるのはやむなしでした。

結果的にニーチェはこれにより教授としての未来を失います。

ただ、ニーチェはすでにして「言葉で表現し得ないなにかにぶつかって、初めて言葉は真の言葉となる。言葉で伝達しえないなにかが表面の言葉を支えている、と二ーチェは考える。彼にとってはそのなにか、、、の方が、言葉よりもはるかに大切だった。」という境地に達しています。

文献学者という枠には収まりきらない、哲学者ニーチェの歩みがここから本格的に始まっていくのでした。

そうしたニーチェ哲学の始まりを知る上でもこの作品は非常に重要なものとなっています。

しかも私の個人的な感想ですが、『ツァラトゥストラ』をはじめ後半の作品群と比べても文章がわかりやすいような気がします。ニーチェ作品の中では読みやすい部類に入ると私は思います。

ニーチェを学ぶ上で非常におすすめな作品です。

以上、「ニーチェのデビュー作『悲劇の誕生』~哲学者ニーチェの特徴を知るのにおすすめ」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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