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ブエナビスタ・ソシアル・クラブのライブ体験とガイドさんに聞くキューバ人の陽気さ キューバ編⑩

キューバ
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ブエナビスタ・ソシアル・クラブのライブ体験とガイドさんに聞くキューバ人の陽気さ 僧侶上田隆弘の世界一周記―キューバ編⑩

キューバといえば陽気なラテンの人々。

これまでお話ししてきたようにキューバ革命の指導者カストロも底抜けの楽観主義者だったそうだ。

キューバ人はとにかく陽気で、歌い、踊り、生きることを楽しむ。

様々な本でキューバ人の気質はそのように述べられていた。

しかし、ぼくは正直心の中でこう思った。

「本当にそうなのだろうか?さすがにみんながみんなそうではあるまいさ。それは外国人が作った誇張されたイメージなのでは?」

と、いうわけでハバナ散策の際に同行して下さった現地ガイドのダニエルさんに思い切ってそのことを質問してみたのだった。

ダニエルさんはハバナ大学出身で日本にも留学経験のあるガイドさんだ。

そのため日本語もペラペラ。

そのダニエルさんはぼくにこう答えたのだった。

「キューバ人は本当に陽気な人たちですよ。それは誇張ではありません。

キューバ人はたくさん笑います。

キューバ人は人生を楽しもうと言う感性と、家族や友人を大切にするという傾向がありますね。」

―キューバ人は陽気だというのは外国人が作ったイメージではなく、本当にそうなんですね。

「そうです。それについてこんなお話があります。

キューバはカリブ海にある島国ですが、ここはよくハリケーンに襲われます。

近年はその勢力も増し、その被害も甚大なものになっています。

ある時、ハリケーンによってたくさんの家が倒壊してしまいました。

ですがその翌日、彼らは倒壊した家の前で家族や友人たちとドミノゲームをして楽しんでいました。

キューバ人はそういう人たちなのです。

これはDNAです。

泣いて悲しんでも何も解決しません。

もちろん、悲しみは私たちにもあります。

ですがそれでも前向きに笑うのです。楽しむのです。」

家が壊れても「なんとかなるさ」と陽気に楽しむキューバ人・・・

これは日本ではなかなか考えられない思考回路だ。

ただでさえ日本は自殺者も多く、うつ病などの精神の病に苦しむ人が多い国だ。

病気までいかなくてもぎりぎりのところでなんとか生活している人もいれるとしたら一体どれだけ多くの人が心の問題で苦しんでいることだろう。

なぜキューバ人はそんなにも人生を楽しむことができるのだろうか。

「キューバ人は昔からものが足りないという生活をしてきました。

ものがない中で互いに貸し借りをしたり助け合って生きてきました。

それが他者とのつながりと家族間の結びつきを強め、共同体への信頼感が自然と芽生えていったのではないかと思います。」

ものがないからこそ培われた支え合いの精神。

もので溢れてしまった日本にその精神は今残されているのだろうか・・・

「また、キューバ人は他国のことを知りません。比べる相手のことを知らないのです。

山の中で孤立していた村のようなものです。

外部のことはまったく知りませんが、逆に言えば村のみんなのことは知っていますし、小さい時からずっと住み続けています。

これもキューバ人の気質を育んだひとつの要因かもしれませんね。」

―だとしたら、インターネットが入り込んで皆が情報にアクセスできるようになったらこの国の姿は変わってしまうのではないのですか?

「いえ、現在でもここキューバはネットを見れる人はほとんどいません。

ネットは私たちにとってはあまりに高額です。

ネットを1時間使うのに1ドルかかります。

私たちの給料が月およそ30ドルです。これではネットなどなかなか使えたものではありません。

それにネットを見れるような境遇の人はそもそもネットを見て変わるようなことはありません。

そういう人はそもそもすべてわかった上でここに暮らしているのですから。」

なるほど・・・人と人との結びつき、そして他と比べないあり方。

キューバ人の陽気さはどうも本物らしいということがよくわかったガイドさんとのお話だった。

そしてその夜、ぼくはとある場所へと向かっていた。

ぼくのお目当ては名門ホテル「ナショナル・デ・クーバ」で開催される「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ」のライブだ。

前の記事「陽気な音楽が流れるキューバの首都ハバナと旧き良き時代 キューバ編⑨」でも少し紹介したがキューバ伝説のバンド「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ」のメンバーが今でもここでライブを行っているのだ。

フルメンバーではないものの当時の大御所が毎回参加し、そのバックをキューバ音楽界の実力者が務めるライブは非常に評価の高いものとなっている。

キューバに行くなら必ずこれを聴きに行けと勧められるほどのものだ。

モヒートを片手に聴く絶品のキューバミュージック。

自然と体が動き出すような軽やかでリズミカルな音。

そしてボーカルの味のある声がなんともすばらしい。

そして何より驚いたのがライブ中に登場したサルサダンサーのステップだった。

黒いハットを被り、少しゆったりとしたスーツを着こなす黒人ダンサーと、ダイヤモンドのようにびかびか光るショートドレスを着た黒人女性ダンサー。

特に男性ダンサーのステップはまるで宙に浮いているかのような軽やかさだった。

そのあまりの美しさ、力強さにぼくは釘付けになってしまった。

ライブは大盛り上がりで終了。

さすがブエナビスタ・ソシアル・クラブ。

前評判通りの演奏だった。本場キューバの音楽をじっくり堪能することができた夜だった。

だが、この体験がこの後ぼくのキューバ滞在に大きな影響を及ぼすことになるとはこの時はまったく予想だにもしていなかったのである。

続く

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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