グラナダの世界遺産アルハンブラ宮殿とライオンの中庭へ~美しさの起源とは? スペイン編23
イスラーム建築の最高峰アルハンブラ宮殿とライオンの中庭~美しさの起源とは? 僧侶上田隆弘の世界一周記-スペイン編23
5月25日。
今日は朝からアルハンブラ宮殿見学。
アルハンブラ宮殿はイスラーム文化を代表する建築物。
グラナダの丘にそびえ立つアルハンブラ宮殿。
近年スペインは観光客の数が激増し、このアルハンブラ宮殿もあらかじめ予約をしないとなかなか見ることができない状態となっている。
希望日の2か月前ですらすでに予約枠が完売となっていることも多々ある。
それほどここは人気の場所なのだ。
ヌエボ広場から歩いてアルハンブラ宮殿へ。
急な坂を上っていく。
アルハンブラ宮殿の敷地の入り口にあたるのだろうか、門を通って進む。
中に入るとそこはちょっとした林間道。
深い緑が生い茂り、森の匂いがする。
道の途中にはアメリカの作家ワシントン・アーヴィング(1783~1859)の像があった。
アーヴィングは1829年にここグラナダに旅行し、アルハンブラ宮殿に滞在した作家だ。
その時に執筆された旅行記が『アルハンブラ物語』で、この本がきっかけで西欧社会にアルハンブラ宮殿が知られるようになったという。
もしアーヴィングがいなければ、アルハンブラ宮殿は世界に知られることもなく、もっと荒廃していた可能性もある。
ヨーロッパ世界にその素晴らしさが認知されたおかげで観光地としての人気が高まり、さらには文化財の保護という観点から修復や整備が進められたのだ。
いよいよ裁きの門に到着。ここからアルハンブラ宮殿へ。
10時にアルハンブラ宮殿のメインであるナスル宮の入場チケットを予約していたのだが、まだ時間に余裕があったので先にアルカサバへと向かう。
アルカサバとは宮殿内に作られた要塞のこと。
アルハンブラ宮殿はその名のごとく王の住む宮殿。
防備は最重要課題だ。
さすがは要塞。
敵の侵入を防ぐために見晴らしのよい場所にある。
眼下には世界遺産、アルバイシンの白い町並みが広がる。
白い壁とくすんだ茶色の屋根の家々。
イスラム教徒の支配が長く続いていたグラナダはイスラム文化が現在もこの街には根付いている。
びっしりと建てられた家々や迷路のようにうねった道は侵入者がグラナダの街に入った時に自分たちがどこにいるのかまったくわからなくさせるための手法だ。
その時の街並みがそっくりそのまま残されているため中世の歴史を感じられる街並みとなっている。それが世界遺産となった所以だ。
目を凝らすと昨日訪れたサンニコラス展望台も見ることができた。
昨日はそこからこちら側を眺めていたのだ。
さて、10時きっかり。
これからアルハンブラ宮殿のメイン、ナスル宮へ入場。
はじめに訪れるのはメスアールの間。
そしてメスアールの中庭と続く。
アラベスクという壁面の装飾がここの見どころだ。
イスラム教では偶像崇拝が禁じられているのでキリスト教のように絵画を残すことはない。
そのためイスラム教では直線や曲線、花や蔓を組み合わせた模様で壁面を装飾しているのだ。
そして、アルハンブラ宮殿と言えばやはりここ、アラヤネスのパティオだ。
イスラーム建築の特徴がいかんなく発揮されている。
縦長の泉とその水面に映る宮殿。
そして回廊を支えるアーチとそれを支える細い円柱。
スペイン南部のアンダルシアは炎天下の猛暑が続く地方。
そんな気候の中でも涼しさを感じさせる建築様式がここで生かされたのだろう。
そしていよいよぼくの最大のお目当て、ライオンの中庭へ。
ぼくがはるばるアンダルシアの地に来たのも、実はこのライオンの中庭を見たかったからなのだ。
このライオンの中庭はただの中庭ではない。
実は文化的に非常に興味深い秘密が隠されている世界屈指の建築なのだ。
そしてこれが有名なライオンの噴水。
違うアングルからも。
よく見てみるとライオン一体一体の顔が違う。
そしてライオンの上の泉と、ライオンは繋がっていない。
ぼくはてっきり泉の水をそのままライオンが口から吐き出しているのかと思い込んでいたのだがどうやらそうではないようだ。
さて、ぼくがこのライオンの中庭にどうしても来たかった理由、それはこれまでの記事にも何度も登場した霊長類学者フランス・ドゥ・ワールの言葉があったからだ。
彼はこう述べている。
私たちは自然を見て美しいと感じるし、太古の昔から芸術家は自然から霊感を受けてきた。(中略)私たちの感覚を作りあげ、受け取る印象に好き嫌いを生じさせたのは、祖先たちが暮らしていた環境のはずだ。
原書房 フランス・ドゥ・ワール著 西田利貞 藤井留美訳『サルとすし職人』p148
そう、ぼくはこの旅に出る前からずっと疑問に思っていたことがあった。
「なんで美しいものは美しいのだろう。」
「いや、よくよく考えてみたらそもそも美しいってどこから来た感覚なのだろう」
これはぼくにとってものすごく不思議なことだった。
きれいなものはきれいだし、美しいものは美しい。
当たり前のようにぼくたちはそういうものを好むし、それら素晴らしいものが身近にあることを望み、またそれらが身近にあるときにはそれを喜ぶ。
でも、よくよく考えていたらそれって何でだろうと急に不思議に感じられてきたのだ。
そしてその答えの一つが、ドゥ・ワールが述べるように、人類の祖先が自然の中で暮らしている内に本能に刻んでいったのだという説だった。
人類の生存に好ましい環境、あるいは生き残るために必要な想像力を刺激するような景色。
そういったものが美しいという感覚の元になったのではないか。
そしてそれを最も忠実に体現し、究極の建築美を完成させたのがこのライオンの中庭なのだ。
改めてこのライオンの中庭を眺めてみよう。
細い円柱の隙間から明るい中庭の泉が見える。
まるで自分が森の中を歩きながら木々の隙間から開けた場所を眺めているかのようだ。
その中心は生命の源である泉。
太古の人類が理想としていた景色がここにはあるのかもしれない。
そしてぼくは気づいた。
立ち止まってライオンの中庭を眺めるより、歩きながら円柱越しに見る方が圧倒的にこの中庭の美しさを感じられるということを。
視界を柱が横切り、そしてライオンの噴水が視野に飛び込んでくる。
不思議なことに目の前を横切る柱がぼくをなんとも心地よい気分にさせてくれる。
まるで自分が本当に太古の人類になって、森を歩いているかのような気分になってくる。
「動きがあるからこそ見るものがさらに美しく見えてくる。」
これは面白い発見だった。
現地に行って実際に体を使って見てみたからこそ感じることができたものだった。
これは本当に素晴らしい体験だった。
ぼくはライオンの中庭が大好きになった。
これを見るためにはるばるアンダルシアまでやってきた。
そしてそれは十分すぎるほど報われた。
ぼくは1時間以上ここにとどまり、様々な角度からこの中庭を鑑賞した。
本当に素晴らしい。
見れば見るほど惹き付けられる魅力がある。
実はこの後アルハンブラ宮殿、夜のライトアップの拝観も予約してある。
次の記事では夜のアルハンブラ宮殿をご紹介する。
続く
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