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平雅行『改訂 歴史のなかに見る親鸞』概要と感想~歴史学者から見た親鸞の生涯。時代背景も詳しく知れるおすすめ伝記
今回ご紹介するのは2021年に法藏館より発行された平雅行著『改訂 歴史のなかに見る親鸞』です。
早速この本について見ていきましょう。
慈円への入室、六角堂参籠、玉日姫との婚姻説、善鸞義絶事件―。
親鸞の伝記研究を進めるうえで、障害となるのは史料の乏しさにある。数少ない確実な史料を緻密に検証することで、歴史研究者として親鸞の事蹟の真偽を究明する一方、民衆の苦難と自らの思想信条とのはざまで悩み苦しむ親鸞の姿をも描きだす。歴史学者の視点で解明する、親鸞研究の決定版!
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親鸞(1173-1262)Wikipediaより
本書『改訂 歴史のなかに見る』は親鸞伝記の中でも異色の存在であり、同時におすすめの作品となっています。
なぜ私がここで異色の存在かと言いますと、この伝記は歴史学者による歴史的な親鸞像の探求に重きが置かれている点にあります。
著者はあとがきで次のように述べています。
親鸞の伝記研究を進めるうえで、障害となるのは史料の乏しさである。親鸞の著作は比較的よく残っているため、思想分析にさほど不自由はないが、親鸞の事跡となると、確実な手がかりが乏しく不明な点がはなはだ多い。そのため史料的価値の怪しげな文献に、研死者がつい手を出したくなる気持ちも分からないではない。しかし本書では、その誘惑には徹底して禁欲を貫いた。これは歴史学徒としての矜持である。
確実な史料からどこまでのことが究明でき、どこから先が分からないのか、そのギリギリの線を指し示すのが、歴史研究者の仕事だと私は考える。実証の可能性をできるだけ追及し、そのうえで、それでも分からない所は小説家に任せればよいのだし、読者の方一人ひとりの想像力に委ねればよい。史実と伝承を混濁させ、想像の世界にまで立ち入るのは、歴史家としての本分を忘れた借越な行為であると私は考える。
法藏館、平雅行『改訂 歴史のなかに見る親鸞』P287ー288
ここで述べられるように、著者の平雅行氏は強い信念の下この本を書き上げたことがうかがわれます。
そして私達にとって重要なのはそもそも親鸞の歴史的資料というのが実は少ないということです。浄土真宗の開祖たる親鸞聖人は日本で最も有名な宗教家のひとりでありますが、実はその歴史的な事実は依然として不明なままなのです。
「え?親鸞聖人の伝記や物語はたくさん出ているではないか」
そう思われた方も多いのではないでしょうか。
ですがこうした従来の親鸞像は本願寺による親鸞の伝記『御伝鈔』や各宗派の伝承などがその底本となっています。つまりこれらはあくまで真宗教団によって編まれた「伝説的な物語」という側面があるのも否定できないのです。
ただ、こうした「伝説的な物語、信仰的な物語」自体が悪いというわけではありません。むしろ親鸞がどのように信仰されてきたのかというのは信仰や文化の面で極めて重要です。このことは実証的な歴史学偏重の風潮に対する反省として最近見直されてきています。
とはいえ、やはり実際に親鸞はどのような人物で、どんな生涯を送ったのかというのは気になるところです。
ここで本書の目次をご紹介しましょう。
第一章 誕生から延暦寺時代
第二章 延暦寺からの出奔
第三章 建永の法難と親鸞
第四章 越後での流罪生活
第五章 東国の伝道
第六章 親鸞の思想構造
第七章 善鸞の義絶
第八章 親鸞思想の変容
あとがき
文庫のためのあとがき
法藏館、平雅行『改訂 歴史のなかに見る親鸞』
本書では親鸞の幼少期から晩年までを追っていくのですが、単に親鸞の生涯を見ていくだけでなくその周辺人物まで見ていく点にも私は注目したいです。
たとえば、第一章では親鸞の出生について語られるのですが親鸞の家族だけでなく、当時の貴族や仏教界事情や超有能だった叔父2人についても詳しく語られます。親鸞は中下級貴族の子として生まれましたが、この2人の叔父は元号を決めるほどの大学者と後白河法皇の最側近という特異な立場にいた存在でした(とはいえこの2人もものすごい苦労人でしたが・・・)。この2人の叔父が親鸞にどんな影響をもたらしたのか、このことは『御伝鈔』や従来の伝記などではほとんど語られませんので私にとって非常に刺激的でした。
他にも親鸞が妻恵信尼とどこで出会ったのか、「そもそも恵信尼とは誰なのか、出身はどこなのか」など親鸞の生涯において根本的な問題のひとつである妻帯についても鋭く切り込んでいきます。
また、東国での活動や晩年の長男善鸞の義絶事件など、親鸞の生涯で見過ごすことのできない問題も歴史学的な立場から論じられていきます。
本書のタイトル『歴史のなかに見る親鸞』の名にあるように、平安末期から鎌倉時代初期にかけての時代背景と絡めて親鸞聖人を見ていける本書は実にスリリングな一冊です。
ただ、1点注意したいのは本書で語られる「歴史的事実」とされるものにはまだ決着がついていないものがある点です。先ほども少しお話しした妻の恵信尼が何者であるか、善鸞義絶事件の真相はどうだったのかなどの問題は歴史学会において現在も議論が続いています。特に親鸞の東国研究を主とされている今井雅晴氏とは真っ向から見解が対立しています。次の記事でその今井雅晴氏による親鸞伝記を紹介しますが、この2人の見解の対立の是非については正直私には何とも言えません。
平氏があとがきで述べているように、親鸞についてはそもそも資料が少ないのです。そんな中歴史学者ではない私には判断のしようもありません。どちらが提示する論拠にもある程度の信憑性があり、どちらの説も「たしかにそうかもしれない」と思いたくなるものがあるのです。
こうなってくるとあとは自分が親鸞聖人をどう信仰するかの問題になってきます。
さらにいえば、「わからないことはわからないと認識した上でそれぞれの宗派の公式見解に則る」というのもひとつのあり方だと思います。ちなみに私はこの立場です。
これ以上は難しい問題に立ち入りますのでお話ししませんが、親鸞聖人の信仰を考える上で本書は貴重な示唆を与えてくれる名著です。私も現在『親鸞伝』を執筆しているのですが、特に参考にさせて頂いているのがこの本になります。他にも平氏の著作には大変お世話になっていますので、この後も当ブログでは平氏の著作を紹介していきたいと考えています。ぜひ皆さんも手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「平雅行『改訂 歴史のなかに見る親鸞』概要と感想~歴史学者から見た親鸞の生涯。時代背景も詳しく知れるおすすめ伝記」でした。
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歴史のなかに見る親鸞 改訂 (法蔵館文庫)
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