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衝撃!ラホール・アムリトサルの国境フラッグセレモニー~インド女性のパワーに度肝を抜かれる

目次

【インド・スリランカ仏跡紀行】(98)
衝撃!ラホール・アムリトサルの国境フラッグセレモニー~インド女性のパワーに度肝を抜かれる

2日間のラホールでの日程を終えた私は再びインド・パキスタン国境へとやってきた。

パキスタン側での出国手続きは予想よりもスムーズであった。

パキスタンに入った時と同じ道を帰っていく。

さて、国境ゲートに到着だ。

「(96)ガンダーラの最高傑作「断食仏像」に会いにパキスタンのラホール博物館へ!あのブッダの目が忘れられない!」の記事でもお話ししたように、ここインド・パキスタン国境では毎日フラッグセレモニーというものが行われている。

インドとパキスタンといえばインド独立後に分離し、その後何度も戦争となったほど仲が悪い。そんな両国であるがこの国境においては共同で毎日国境閉鎖のセレモニーが行われているのである。まずはその映像をご紹介しよう。

私もこれからこのセレモニーを見学する。

インドへ再入国した私は17時のセレモニー開始に合わせて会場へと向かった。

インド側に入国してからガイドのグプタさんと合流し、再び国境ゲートのスタジアムへと向かう。

スタジアム前は出店も並んでいてまるでお祭りのような雰囲気だった。

出入国で通った道を再び歩く。ちなみに柵の向こう側が出入国者が歩く道で、こちら側はセレモニー参加者のみ歩くようになっている。

こちらがセレモニー用のスタジアム。やはり巨大。

開始1時間前には会場入りしたのであるがすでに席はかなり埋まっている。向かい側の席はがらがらであるがVIPや予約者のための席だそう。

ちなみにこの写真は出入国の時にゲート近くから撮ったものだ。このスタジアムが超満員になるほどこのセレモニーは人気なのだそうだ。

16時半頃、長身の男前の軍人がマイクを手に話し始めた。何を言っているかはわからないがライブの前説のように会場を盛り上げる。

その後、中央の通路に女性たちが一列に並び始めた。一体何が始まろうというのか。

大音量で音楽が流れ始めた。そして女性たちにインドの国旗が渡され、その国旗を振りながらひとりひとり行進を始めたのである。

観客達もそれを見て大盛り上がり。

恐るべき国威発揚ぶりだ。日本ではありえない。

体ほどもある国旗を振って観衆の中を歩くためにこんなに人が並ぶわけがない。そもそも国旗を振るほどの愛国心が日本人にはあるだろうか。

そしてさらに驚いたのは旗の行進が終わった後も女性たちがそこに残っていたことであった。

なぜ自分の席に戻らない?まだ何かやることがあるのだろうか?

あったのである。しかもとびっきりの出番が待っていたのだ。

なんと、ここから音楽が流れるので踊りたい人はそこで踊ってもよいということらしい。

え?まさかそんな・・・噓でしょ?

嘘じゃなかった。

そのまま彼女達はじりじり進み、音楽が始まるとその重低音のビートに合わせて飛び跳ね踊り始めたのである。信じられない光景だった。

真っ黒い髪と極彩色のサリー、インドの帽子が上下に揺れるその様は一体の巨大な怪物のように見えた。

そしてそれがそのままパキスタンへの威圧となっているのである。

ガイドのグプタさんによれば「あなた達の力を見せてくれ」とあの軍人さんはマイクで煽っているらしい。

対照的にパキスタン側はインド側と比べれば明らかにスピーカーも少なく、観客もおとなしい。パキスタン側のパフォーマンスといえば民族舞踊のような回転運動のみ。

大音量の音楽で踊りまくるインド女性と静かに座り続けるパキスタンのコントラストには驚くしかない。

この演出を考えたインドの参謀は凄まじい手腕の持ち主だ。ここまで国威発揚をイベントごとにしてしまうとは。

一般論として、イスラーム文化圏では女性の外での活動があまり好まれていない。もちろん、現代ではそうした風習は変わってきているが、インド的なオープンさには馴染めないものがあるというのは事実である。前回の記事「(97)ラホールの象徴バードシャヒー・モスクと世界遺産シャーラマール庭園!ムガル帝国の傑作を訪ねて」でもお話ししたように、パキスタン人はシャイだ。公の場で女性たちが踊りだすというのは想像もできない。

そういうおとなしいパキスタン人にとってインド女性のあの踊りっぷりは脅威でしかないだろう。

そしてそれをわかった上でインドはこうしたパフォーマンスをするのである。これほどパキスタンにダメージを与える攻撃はないのではないだろうか。

パキスタンとインドは違いすぎる・・・。

17時、時間通りにセレモニーは開始。

勇壮な音楽とともにド派手な帽子を被った軍人たちが行進してきた。会場はすさまじい熱気に包まれる。

しかし中盤に入って盛り上がる頃になると国境ゲート近くの人達が立ち上がってしまったため入場口側に座っている私達はほとんど何も見えなくなってしまった。

私が撮影できた最後の写真がこれである。この後にこの写真に写っている辺りの人達が立ち上がり視界は無と化した。

勇気ある数人がはるか彼方の前方席に向かって歩き出し説得を試みるのだがその効果は一時的。説得後の一瞬は座るものの、誰か一人が立ってしまえば視界は塞がってしまう。自分が見るためには立たねばならない。その連鎖であっという間に全員が立つことになってしまう。会場側でも規制してくれたらよいのだがそこはインド。何もない。基本的にこの国は何をするにも自己責任なのである。視界を確保できなかったのも自己責任。もし本気で見たかったら一番乗りで来て最前列に座ればよいのである。あるいは説得を成功させるかだ。

私はというと、もう埒が明かないので少しでも見える位置へと動くことにした。かなり後方になってしまったが全く見えないよりはましである。

以下の映像は私が撮影したものだ。

ちなみに、この動画は以下のような流れとなっている。女性達がじりじり進んでいく瞬間に思わず私は声を出してしまったが、それほど衝撃的なシーンだった。
0:00~0:44 国旗を持った女性達の行進
0:45~1:31 女性達の踊り
1:32~1:42 パキスタン側のパフォーマンス
1:43~2:43 インド軍によるセレモニー

これまでお話ししてきた内容がまさにこの映像には詰まっている。

正直、私はこの国境セレモニーそのものより、あのインド女性達のダンスに強烈な印象を受けた。

私の国境セレモニーはあの女性達にすべて集約されるように思う。インド的なナショナリズムをあのような形で爆発させるというのは天才的な発想だと思う。

しかもインド政府はこのセレモニーをSNSで積極的にアピールしている。ここに来た人達に動画や画像を拡散するよう呼び掛けていたのだ。

観客達も「ワンデイ!マトラム!(母なるインド万歳!)」という掛け声を大声で唱和し楽しんでいる。「バラト・マタキー・ジャイ!(インド万歳!)」という掛け声もよく聞いた。この訳はガイドさんによる意訳なので正式な意味とは違うかもしれないが、インド国民としては非常にポピュラーな掛け声なのだそう。これらは小学校でインドの歌と一緒に必ず習い、記念日などでは必ず起立して唱和するのだそうだ。

首相に就任するモディ(写真右) Wikipediaより

インドでは現在モディ首相によるヒンドゥー・ナショナリズムが強い力を持っている。

2024年の選挙でその勢いは若干弱まった可能性もあるが、モディ政権を支えているのはこの強力なヒンドゥー・ナショナリズムである。ヒンドゥー教徒の信仰熱を高め、イスラームを敵対視するその在り方は今後のインドにおいて危険な火種となりかねない。

インドの人口において10パーセントを占めるイスラム教徒。10パーセントといっても14億人を超える人口の10パーセントである。これはすでに日本の人口よりも多いのである。

インドの今後がどうなるかは非常に危ういものがあると私は考えている。スリランカでも宗教とナショナリズムが結びついた結果内戦へと突き進んでしまったという歴史がある。インドがそうならないことを祈るしかない。宗教とナショナリズムの癒着はある一点を超えると誰にも制御できなくなる危険な代物だ。スリランカの歴史を学び、実際にその地を訪れた私はそのことを強く思うのである。

いずれにせよ、この国境セレモニーに私はとてつもないインパクトを受けた。最後の最後でやはりインドは強烈なものを見せてくれたのである。

主な参考図書はこちら↓

モディが変えるインド :台頭するアジア巨大国家の「静かな革命」

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【インド・スリランカ仏跡紀行】の目次・おすすめ記事一覧ページはこちら↓

※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。

「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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