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武田尚子『チョコレートの世界史』あらすじと感想~近代から現代へのチョコの変遷やキットカットについての驚きの情報を知れるおすすめ解説書

チョコレートの世界史
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武田尚子『チョコレートの世界史』~近代から現代へのチョコの変遷やキットカットについての驚きの情報を知れるおすすめ解説書

今回ご紹介するのは2010年に中央公論新社より発行された武田尚子著『チョコレートの世界史』です。

早速この本について見ていきましょう。

カカオは原産地の中米では飲み物であると同時に薬品であり、貨幣にもなった。ヨーロッパに到来したときも、この珍貴な実の食用について激論が交わされたが、一九世紀にはココアパウダーや固形チョコレートが発明・改良され、爆発的に普及する。イギリスの小さな食料品店だったロウントリー家もまた、近代的なチョコレート工場を作り、キットカットを開発、世界に販路を拡大するが…。ヨーロッパ近代を支えたお菓子の通史。

Amazon商品紹介ページより

前回の記事で紹介した『チョコレートの歴史』はマヤ文明にまで遡り人類史的にチョコレートを見ていく壮大な作品でしたが、今作『チョコレートの世界史』は中米原産のチョコレートが近代ヨーロッパでどのような変遷を辿っていったかに特化した参考書になります。

本書について著者は「はじめに」で次のように述べています。少し長くなりますがチョコレートと近代ヨーロッパの関係についてもわかりやすくまとめられた箇所ですのでじっくり読んでいきます。

チョコレートと近代化

チョコレートから、人生のどのような記憶が蘇るだろうか。幼いころに、マーブル・チョコを一粒ずつつまんで大事に食べたことがあるかもしれない。中学生や高校生のとき、夕方の部活を終えて、友達とチョコを分けあった人もいるだろう。バレンタインデーは自分のチョコレート・カレンダーに、花火のようなきらめきやスリリングな一瞬を刻んでいるかもしれない。私たちは人生の折々に、さまざまな味わいのチョコレートを楽しむことができる時に生きている。しかし、チョコレートがこのような身近な存在になって、わずか一〇〇年余りにすぎない。

大きく分けると、チョコレートには二種類ある。工房で職人が手作りするチョコレートと工場で大量生産される規格品チョコレートである。工房で職人がていねいに作るチョコレートは味の深みを教えてくれるが、値段は高めで、売られている場所も限られている。

この一〇〇余年の間にチョコレートがどんなにおいしいものであるかを人々に教えていったのは、規格品チョコレートである。手ごろな価格で、誰にでも手が届く範囲にチョコレートが登場するようになった。規格品チョコレートが普及して、世界の人々はチョコレートの味を覚えていった。

ベルギーやフランスでは職人の手作りによる、クラフツマン的な味わいのチョコレートが作り続けられたが、規格品チョコレートの普及に貢献したのはイギリスである。産業革命の一番手の得意技を生かして、チョコレートの工場生産を早い段階で成功させていった。

チョコレートは溶けやすく、デリケートなスイーツである。形状を整えて量産するには、技術力が必要だった。技術改良が進み、工場で生産されるようになって、チョコレートは手ごろな価格になった。チョコレートの普及には、工場や鉄道網の整備など、産業基盤が近代化している必要もあった。

近代産業のしくみが整っていたイギリスでは、早い時期に工場で良質のチョコレートが作られるようになり、チョコレート加工菓子の生産が本格化した。キットカットなど現代でも人気のチョコレート菓子が生み出された。チョコレート・メーカーは、印象的なラッピングをデザインし。広告に工夫を凝らした。

ダブル・テイスト

チョコレートを大喜びで手にしたのは、労働者階級である。長時間働く労働者に、エネルギー補給は欠かせない。午後の適当な時間に「ブレイク」をとって、気合いを入れ直す。手ごろな価格のチョコレートは、短い休憩時間に、紅茶と一緒にお腹に流しこみ、血糖値を上げて、一気にパワーアップする、格好のエネルギー・サプリメントである。

チョコレートが普及する以前に、労働者のパワーアップに貢献していたのはアルコールである。ビールやエールの国であるイギリスでは、アルコールに手が出やすい。アルコール摂取量を抑え、節制のきいた飲酒、勤勉な労働の習慣を身につけさせるには、アルコールに代わる甘い誘惑が効果的だった。チョコレートも紅茶も労働者の家計でまかなえる価格になり、イギリス人はチョコレートの味を覚えていった。現代のイギリスには、至るところにチョコレートの自販機があり、チョコバーをかじりながら、大またで街を歩く人をよく見かける。イギリス人はチョコをロに放り込んで、蒸気機関車のようにエネルギッシュに動き回る。日本で飲料の自動販売機が至るところにあるように、イギリスではチョコ自販機が当たり前の光景になっている。チョコ自販機は国民的エネルギー補給装置なのである。

チョコレートのとろける甘さには、国ごとに異なる近代化の過程が溶け込んでいる。チョコレートやココアは、「社会的」なスイーツでもある。チョコレートをめぐる「甘い味わい」と「社会的な味わい」のダブル・テイストが、褐色のスイーツを味わう楽しみをさらに深めてくれることだろう。

中央公論新社、武田尚子『チョコレートの世界史』Pⅰーⅲ

私達にも身近なチョコレートは近代化の産物です。特にイギリスの産業革命によってチョコレートはそれまでとは大きく違った意味を持ち始めます。その流れを知れる本書は非常に刺激的です。

また、本記事のタイトルにも書きましたが私達もよく知るキットカットの歴史もこの本では知ることができます。

キットカット(アメリカ合衆国版) Wikipediaより

キットカットは私もよくお世話になっているのですが、このチョコ菓子の成り立ちがどのようなものだったのかというのは考えたこともありませんでした。しかもそもそも名前も違っていたなんて!

本書を読めばこうしたチョコ菓子が人気になっていくのもまさに近代化の影響だったということがよくわかります。

私達の身近な生活にも直結するチョコレートの成り立ちを知るのにこの本はとてもおすすめです。前回紹介した『チョコレートの歴史』とセットで読めばさらに理解が深まること間違いなしです。

ぜひおすすめしたい作品です。

以上、「武田尚子『チョコレートの世界史』~近代から現代へのチョコの変遷やキットカットについての驚きの情報を知れるおすすめ解説書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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