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シドニー・W・ミンツ『甘さと権力 砂糖が語る近代史』あらすじと感想~砂糖はいかにして世界を変えたのかを問う名著!

甘さと権力
目次

シドニー・W・ミンツ『甘さと権力 砂糖が語る近代史』概要と感想~砂糖はいかにして世界を変えたのかを問う名著!

今回ご紹介するのは2021年に筑摩書房より発行されたシドニー・W・ミンツ著、川北稔、和田光弘訳の『甘さと権力 砂糖が語る近代史』です。

早速この本について見ていきましょう。

われわれが生きている社会や文化は、どのようにして形成されてきたのだろうか。その問いに砂糖を素材にして明確に答えたのが本書だ。世界中の人々にとってなくてはならないものとなった砂糖は、世界最初期の工場生産物として生産され、その収益が産業革命を引き起こす大きな要因となり、かつまた労働者の栄養源ともなって工業化を支えた。それと同時に人々の嗜好はこの甘さによって大きく変わり、社会も劇的に変わっていく。しかしその一方で砂糖生産国は、世界商品となった砂糖に隷従する道を運命づけられることになる。モノを通して世界史を語る先駆けとなった世界的名著を、ついに文庫化。

Amazon商品紹介ページより
インドのサトウキビプランテーション Wikipediaより

これまで当ブログでは鈴木睦子『スリランカ 紅茶のふる里』や角山栄『茶の世界史』など、インド・スリランカの紅茶についての本を紹介しましたが、紅茶といえばやはり砂糖もセットです。せっかくイギリスと紅茶についての歴史を学んだならばぜひ砂糖についても学んでみたい、そんな思いで手に取ったのが本書『甘さと権力 砂糖が語る近代史』になります。

本書の特徴は上の商品紹介にもありましたように「砂糖」という物質を手がかりに世界史を見ていく点にあります。著者は「はじめに」でこのことについて次のように述べています。

砂糖を通じてより広い世界の動向を明らかにすること、これが本書の狙いである。すなわち、砂糖の歴史に随伴して起こった、人間・社会・物質それぞれの相互関係の長期にわたる変化、それを扱いたいのである。

筑摩書房、シドニー・W・ミンツ著、川北稔、和田光弘訳『甘さと権力 砂糖が語る近代史』P33

砂糖もはじめから今のように人々の間で消費されていたわけではありません。

ヨーロッパで流通しはじめた頃には香料や薬として使用され、王族などの圧倒的な権力を持つ極一部の人しか所有することができませんでした。

そこから1750年頃になると贅沢品として広く親しまれるようになり、さらに1850年にはほぼ全ての人々の必需品にまで変化していきました。

しかもこの変化には明らかに資本主義社会への変化が関わってきます。単に砂糖が甘くて美味しいから広がったという話ではないのです。労働環境、社会情勢の変化、そしてイギリス特有の食糧、飲料事情など様々な要因が絡んできます。

砂糖といえば私達は甘みをもたらす甘味料というイメージを浮かべてしまいますが、この本ではそれだけにとどまらない様々な砂糖の姿を知ることになります。また、砂糖という物質がいかにして社会に影響を与えていたかというメカニズムも知ることができます。

ただ、この本自体は入門書としては少し厳しい印象を受けました。内容も専門的ですので気軽に読むという雰囲気ではありません。ですがこの本で書かれていることは私達の思考を大いに刺激してくれます。商品紹介に「モノを通して世界史を語る先駆けとなった世界的名著」と紹介されていたのも大いに納得です。

私達の身近に当たり前のように存在している砂糖を通して世界の成り立ちを考える非常に刺激的な作品です。砂糖が当たり前の存在になるにはとてつもない変遷があったのでした。私達の当たり前を問う素晴らしい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「シドニー・W・ミンツ『甘さと権力 砂糖が語る近代史』~砂糖はいかにして世界を変えたのかを問う名著!」でした。

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甘さと権力: 砂糖が語る近代史

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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