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シェイクスピア『十二夜』あらすじと感想~全員片想いの三角関係の行方はいかに!?シェイクスピア得意のトリック炸裂の恋愛喜劇

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シェイクスピア『十二夜』あらすじと感想~全員片想いの三角関係の行方はいかに!?シェイクスピア得意のトリック炸裂の恋愛喜劇

今回ご紹介するのは1600年頃にシェイクスピアによって書かれた『十二夜』です。私が読んだのは新潮社版、福田恆存訳です。

早速この本について見ていきましょう。

オリヴィアに片想い中のイリリア公爵オーシーノーは、サゼーリオーという小姓を雇ったが、実は彼はヴィオラという女性が男装した姿。ヴィオラは、公爵の想いを伝えるためにオリヴィアのもとえ遣わされたが、オリヴィアはヴィオラに一目ぼれしたからさあ大変。おまけにヴィオラは密かに公爵に想いを寄せ……シェイクスピアお得意の、ヒネリの利いた、恋にまつわる喜劇。

Amazon商品紹介ページより

この作品はこの商品紹介にありますように、全員片想いの三角関係が演じられる喜劇になります。

ただ、これら三人が平等に描かれるのではなく、その中心となるのはヴィオラという女性になります。彼女は侯爵に近づくためサゼーリオーという男になりすまし、召使として奉公します。

才気煥発のヴィオラは「サゼーリオー」として見事なはたらきを見せ、主人のオーシーノーの信頼を得ます。しかしそれがもとになってオリヴィアのもとに使者として送られることになったところ、困ったことにそのオリヴィアから惚れられてしまったのでした。

オリヴィアはオーシーノーの兄と結婚していました。しかしその兄が亡くなり、今は未亡人。その悲しみ故「今は人を好きになることなどない」とオーシーノーを頑なに拒み続けていたオリヴィアでしたが、いともあっさりサゼーリオーに一目惚れしてしまったのです。

この恋のスピード感もシェイクスピアらしさと言えるかもしれません。『ロミオとジュリエット』などもまさにそうですよね。

さて、サゼーリオー(ヴィオラ)はオーシーノー侯爵に、オーシーノー侯爵はオリヴィアに、オリヴィアはサゼーリオー(ヴィオラ)にという困った三角関係ができてしまいました。

しかもサゼーリオーは男装したヴィオラです。ですのでどうあがこうが成立しない恋になります。

さて、このこんがらがった恋をどう大団円に持って行くのか。まさにシェイクスピアの腕の見せ所であります。

そしてここでシェイクスピアが使ったのが見た目がそっくりの双子の兄の存在でした。

この作品の冒頭でも少し語られるのですがヴィオラは双子の兄と船の難破事故で生き別れになっていました。その後の消息も、生存すらわからなかったのです。

ですが、その二人が絶妙なタイミングで交差していきます。

この双子の存在によるドタバタ、大団円は以前紹介した『間違いの喜劇』のメインテーマでもありました。

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『間違いの喜劇』はシェイクスピアの初期の作品で、この時に用いた「双子が入れ替わるという手法」をこの『十二夜』に取り込んだのでした。

私が『十二夜』を読んで一番感じたのは、「シェイクスピア、めっちゃ洗練されてる・・・!」という思いでした。「何を世界の偉人に対して生意気な」と思われる方もおられるかもしれませんが、実際私はそう思わずにはいられませんでした。

と言いますのも、初期の作品である『間違いの喜劇』はデビュー後間もなく書かれた喜劇です。この作品は二組の双子がそれぞれ互いに気づかずに入れ替わってとんでもない大混乱になるというドタバタ劇なのですが、いわばもう、こてこての作品です。つまり「双子が入れ替わって大混乱」が主題の作品です。

ですが『十二夜』は決してそれが主題ではありません。あくまで物語を大団円に導くための道具として「双子のトリック」が使われたわけです。かつてはそれを笑いのメインとして用いたものを今度はさらっと物語の補強のために用いた。このさらっと使いこなした感じが私にはたまりませんでした。「シェイクスピアが進化している!」思わず私はそう思ってしまったのでありました。

このこてこてにやらない絶妙な感じが何とも爽快な大団円を迎えさせてくれているような気がします。

シェイクスピア翻訳者松岡和子氏も『すべての季節のシェイクスピア』でこの作品について次のように絶賛しています。

『十二夜』は、シェイクスピアの「幸福な喜劇」の最後の作品だが、その大団円は、あまたあるハッピー・エンドの中でもとりわけ魅力にあふれたものではないだろうか。そこに或る翳りが添えられているということも含めてー。

筑摩書房、松岡和子『すべての季節のシェイクスピア』Kindle版P137

『十二夜』は非常に軽やかな大団円を迎えます。『リア王』『マクベス』などの重厚な悲劇とは全く違った雰囲気です。

上の引用の最後で「そこに或る翳りが添えられているということも含めてー」とありますのも本作では見逃すことができないポイントです。たしかに軽やかな大団円の裏で明らかにかわいそうな人達が何人もいます。正直、私は彼らにかなり同情してしまいます。これは読めばわかりますのでぜひ作品を読んで頂けたらなと思います。

ヴィオラ演じるサゼーリオーの魅力と双子のトリックによる大団円、私にとってはこれらが大きな見どころだったなと思います。まさに爽快軽やかなストーリーです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「シェイクスピア『十二夜』あらすじと感想~全員片想いの三角関係の行方はいかに!?シェイクスピア得意のトリック炸裂の恋愛喜劇」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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