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松村昌家編『『パンチ』素描集 19世紀のロンドン』あらすじと感想~風刺絵で見る産業革命のロンドン!マルクス・エンゲルスは何を見た?

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松村昌家編『『パンチ』素描集 19世紀のロンドン』概要と感想~風刺絵で見る産業革命のロンドン!マルクス・エンゲルスは何を見た?

今回ご紹介するのは1994年に岩波書店より発行された松村昌家編『『パンチ』素描集 19世紀のロンドン』です。

早速この本について見ていきましょう。

一八四一年に創刊され,一九九二年まで刊行をつづけた諷刺週刊誌『パンチ』は,イギリスの政治・社会の諸現象を鋭く描きだし,イギリスのユーモアの典型として広く愛読されてきた.本書には,創刊から三○年間の『パンチ』から,ロンドン万博,女性のファッション,テムズ川の汚染等に関する諷刺画を収録,激動の時代相をつたえる.

Amazon商品紹介ページより

この作品は19世紀、産業革命下のロンドンの姿を知るのにうってつけの作品です。

リチャード・ドイルによる『パンチ』表紙(1867年)Wikipediaより

この作品の特徴は何と言っても多数の風刺画を見ていける点にあります。

『パンチ』誌は当時のイギリスの生活を鋭く風刺し、社会批評をしていきます。

この作品について編著者の松村氏は「はじめに」で次のように述べています。

『パンチ』創刊時から一八六〇年代の終わりまでの三〇年間は、ヴィクトリア朝の中でも最も動きの激しい時期であった。この変動期に対する、若くて血気さかんな『パンチ』の反応ぶりも、また激烈であった。そして活気に満ちた、多彩な活動が展開されたのである。本書のねらいはまさに、このような多彩な『パンチ』の内容から、ヴィクトリア朝激動期の動きを巧みにとらえた、あるいはそれらに関して証言となるような記念碑的風刺画や記事を探り出すことである。

概括的にいうと、ここにいう三〇年間は、飢餓の一八四〇年代、世界最初の万国博覧会開催によって繁栄のアドバルーンがあげられた一八五〇年代、そして物質的繁栄と政治的調和が謳歌されるなかで、中流階級が余暇と流行を享受するようになる一八六〇年代ということになる。が、世界にさきがけて工系化の時代をつくり出したイギリスの社会は、そういった表層からはとうてい見えない深い暗部を抱え、進歩に伴うさまざまな矛盾や難問に直面していた。

それらの暗部や矛盾、難問こそ、『パンチ』の狙いどころだったのである。『パンチ』は常に深い関心と鋭い批評眼とをもって、国政から社会の裏面、服装の流行の変遷に至るまで、あらゆる時事問題の核心をとらえ、それらのディテールを的確に、真実味豊かに描き出すのを得意とした。『パンチ』が一介のジャーナリズムの域を超えて普遍性をもち、ヴィクトリア朝の政治的・社会的情報に関する生きた百科全書的役割を果たしているといわれるのは、そのためである。また『パンチ』がヴィクトリア朝随一の知的マルティメディアとして、当時の中流階級を中心とした読者層の共感をひきつけることができたのも、その風刺が真実を衝いた迫力のあるものであったからこそである。

岩波書店、松村昌家編『『パンチ』素描集 19世紀のロンドン』P7-8
テムズ川の主に名刺を渡すファラデー(1855年7月21日のパンチ誌の風刺画)Wikipediaより

上の画像は汚染されたテムズ川を描いた有名な風刺画ですが、上で語られたようにイギリスの社会問題をこうした風刺画に寄せて語っていくのが『パンチ』誌の大きな特徴です。

そしてこの記事のタイトルに「マルクス・エンゲルスは何を見た?」と書きましたように、この『パンチ』誌は彼らがイギリスにいた時期とまさに重なります。マルクスがロンドンに滞在し始めたのは1849年のこと。上の風刺画は1855年のものです。ということはこのような汚染されたテムズ川をマルクスはまさに見ていたわけです。

そう考えると、マルクス・エンゲルスの思想を考えていく上でも『パンチ』誌で語られることは大きな意味を持っていることになります。

当ブログではこれまでマルクス・エンゲルスについても学んできましたが、彼らのイギリス生活や思想背景を知る上でもこの作品はありがたいものがありました。

この本では風刺画がたくさん掲載され、それに合わせて記事や解説が説かれていきますので非常に読みやすいです。

ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「松村昌家編『『パンチ』素描集 19世紀のロンドン』~風刺絵で見る産業革命のロンドン!マルクス・エンゲルスは何を見た?」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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