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ひのまどか『ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ 嵐の時代をのりこえた「力強い仲間」』あらすじと感想~19世紀ロシア音楽界を知るのにおすすめ!

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ひのまどか『ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ 嵐の時代をのりこえた「力強い仲間」』あらすじと感想~19世紀ロシア音楽界を知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは1992年にリブリオ出版より発行されたひのまどか著『ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ 嵐の時代をのりこえた「力強い仲間」』です。私が読んだのは2001年第2刷版です。

この作品は「作曲家の物語シリーズ」のひとつで、このシリーズと出会ったのはチェコの偉大な作曲家スメタナの生涯を知るために手に取ったひのまどか著『スメタナ』がきっかけでした。

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クラシック音楽には疎かった私ですがこの伝記があまりに面白く、「こんなに面白い伝記が読めるなら当時の時代背景を知るためにももっとこのシリーズを読んでみたい」と思い、こうして 「作曲家の物語シリーズ」 を手に取ることにしたのでありました。

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この「作曲家の物語シリーズ」については巻末に以下のように述べられています。

現役の音楽家が、現地での綿密な取材をして、それぞれの大作曲家の生涯を鮮やかに浮き彫りにする。児童書では初めての試みとなったこのシリーズは、各方面から賞賛を受け、最高の評価を受けています。紹介される写真点数も各巻平均百枚。中には非常に貴重でめずらしい写真も含まれ、作曲家たちの人柄をよりいっそう具体的に伝えています。すべての巻がなんらかの推薦・選定図書に選ばれるという快挙も達成し続けているこのシリーズ。次回作も楽しみにして下さい。

リブリオ出版、ひのまどか著『ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ 嵐の時代をのりこえた「力強い仲間」』

一応は児童書としてこの本は書かれているそうですが、これは大人が読んでも感動する読み応え抜群の作品です。上の解説にもありますように「子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています」というのも納得です。

ほとんど知識のない人でも作曲家の人生や当時の時代背景を学べる素晴らしいシリーズとなっています。まさしく入門書として最高の作品がずらりと並んでいます。

さて、今作の主人公はロシアの音楽家ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ です。これまでの伝記と違い複数人が物語の中心に据えられたのには理由があります。

日本ではロシアの「五人組」として有名な彼らですが、正確には「力強い仲間」という名称で、19世紀のロシア音楽の発展に力を尽くした音楽家たちの物語をこの伝記では見ていくことになります。

ムソルグスキーの代表曲には『展覧会の絵』があります。恥ずかしながらこの本を読むまでムソルグスキーも『展覧会の絵』も全く知らなかったのですが、上の動画で聴いて一発でわかりました。この曲はムソルグスキーの作曲だったのかとものすごく驚きました。

この伝記では19世紀中頃から後半にかけてのロシアの音楽事情を知ることができます。あのチャイコフスキーも同時代人です。

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チャイコフスキーは彼ら「力強い仲間」とは違う立場でロシア音楽の興隆に力を尽くしていましたが、その根源的な志は一緒です。ヨーロッパに呑み込まれているロシア音楽界において、「ロシア独自の音楽」を生み出すこと。

「力強い仲間」はサンクトペテルブルクで、チャイコフスキーはモスクワで、彼らは場所や立場は違えどそれぞれ必死に戦っていたのでありました。

チャイコフスキーの記事でもお話ししましたが、当時のロシアはヨーロッパからすれば「遅れた国」という立ち位置でした。そんな中でロシア人は進んだヨーロッパの文化をどんどん取り入れようとする「西欧派」とヨーロッパにも誇れるロシア固有の文化を作り上げようとする「スラブ派」という2つの陣営に分かれることになりました。

このことについては以前当ブログでも紹介しました。

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私は元々ドストエフスキーを知るためにロシア文学やヨーロッパ史、文学を学び始めたのですが、ここで音楽家の世界においてもこうした「西欧派」「スラブ派」の戦いがあったことを知り非常に興味深いものがありました。

その国独自の文化を作り上げる。ヨーロッパに、世界に誇れる自分たちの文化を作り上げる。

この熱意はやはり胸にくるものがあります。私達日本人にもそうした心がきっと今でもあるのではないでしょうか。

そしてこの本で一番驚いたのは、実は著者によるあとがきでした。そのあとがきをここで紹介します。

私は中学・高校の頃、トルストイ、ドストエフスキー、チェーホフ、ゴーゴリなどのロシア文学を読みあさっていた。

ロシア文学は総じて楽しいとかおもしろいとかいうのではなく、重苦しく、民衆の生活が真剣に描かれており「カラマーゾフの兄弟」などは衝撃が強すぎて、幾度も読むのを中断したおぼえがある。

それでも作家たちの独特の文体や、それらを通してロシア社会のさまざまな面を知ることはこたえられないおもしろさで、読後の印象もフランスやイギリス文学よりずっと強く長く残った。


リブリオ出版、ひのまどか著『ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ 嵐の時代をのりこえた「力強い仲間」』 P232

この箇所を読んで私は思わず「うわっ!!」と声を上げてしまいました!

そういうことだったのかと!

私はひのまどかさんの本を初めて読んだ瞬間からその語り口の大ファンになってしまい、こうして伝記シリーズを読んできました。そしてその思いは読めば読むほど強まるばかりでした。

「なぜ私はこんなにもひのまどかさんの語りに引き込まれるのだろう」

その答えがこの箇所にあったのです。そうかと!ひのまどかさんは中学高校の時からロシア文学に親しんでいた文学人だったというのです!これを知って私はたまらなく嬉しくなりました!私もドストエフスキーをはじめ、ロシア文学が大好きです。憧れのひのまどかさんがこうしてロシア文学を愛していたというのは私にとって驚きでありましたが、同時にストンと腑に落ちるものもありました。やはり文体、語り口にはそうしたものが現れるのかもしれません。私はそうしたものに惹かれてひのまどかさんの語りに惚れ込んだのかもしれません。

このあとがきには本当に驚かされましたし、心から嬉しくなりました。

では引き続きあとがきを見ていきましょう。

文学に対して音楽の面では、私はロシアに関して長いことチャイコフスキーしか知らなかった。音楽大学に進んでからはもちろんロシア・ソビエトのすぐれた作曲家たちの作品や、舌をかみそうな彼らの名前を知り、かなりの数の曲を演奏もしたが、やはりロシアといえば圧倒的にチャイコフスキーだった。

この印象が一変したのが、一九八九年のボリショイ劇場の来日公演に接した時だった。その時の演目はボリショイ劇場の十八番、チャイコフスキーの《エフゲニー・オネーギン》とムソルグスキーの《ボリス・ゴドゥノフ》、そしてぺレストロイカ後ようやく上演できるようになったリムスキー=コルサコフの《金鶏》の三つだった。

《オネーギン》の詩情あふれる音楽と舞台の美しさは今も心に焼きついている。

しかし私にとって未知の音楽であるがゆえに、より感動的だったのはほかの二作だった。

《ボリス・ゴドゥノフ》では、幕が開くと同時に舞台から「古いロシア」が匂ってきた。それは装置や衣装がしまわれていたボリショイ劇場の倉庫の匂いだったのかもしれないが、眼前に見るクレムリンや修道院とムソルグスキーの音楽との相乗作用で、古い苔むした城の匂いや、農奴である民衆の匂いはかくや、と思わせた。主役ボリスを含めて何人ものバス歌手が大活躍するこのオぺラに、私は運命に耐え忍びながら抵抗するロシアの国民性を強く感じた。

《金鶏》では、私は始めから終わりまで魅了されつづけた。リムスキー=コルサコフのこのオぺラに関しては何の知識もなく、いわば「後学のために」といった意識で出向いていただけに、思いもよらないすばらしいものを観た、という気持ちで一杯だった。舞台の幻想美と、シェマハの女王の官能美と音楽の美しさに、私は完全に悩殺された。

そして「ハッ」と目ざめた。「ロシア音楽はチャイコフスキーだけではない!」と。

以来私はロシア・ソビエト物のコンサートやオぺラには欠かさず通うようにして、その底知れず深い音楽文化の存在を知った。

まったくもったいないことに、ボロディンやムソルグスキーやリムスキー=コルサコフの作品は、日本ではごく一部しか紹介されていない。

紹介されれば確実に好まれ、愛され、大すきな音楽となるだろうに、これは時を待たなくてはならないのかもしれない。

しかし私はロシアにはこんなにも大きな音楽の宝の山があることを声を大にして言いたかったので、情熱を傾けてこの物語を書いた。

取材の時期のロシアは、ソビエト連邦と共産党崩壊後の混乱の極みにあり、物資は欠乏して人々の生活は悲惨なものだった。

その中で、ロシア人の作曲家によるロシアのオぺラやバレエや器楽曲は、毎夜幾つもの劇場やホールで上演され演奏され、子どものためのそうした啓蒙活動もさかんで、文化に関しては日本よりもずっとぜいたくな状態にあった。

若者たちの目も死んでいなかった。

我々は「衣食足りて人礼節を知る」と思っているが、本当は、「文化足りて人礼節を知る」のではないかと、以来ずっと考えている。


リブリオ出版、ひのまどか著『ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ 嵐の時代をのりこえた「力強い仲間」』 P233-234

この伝記では私たち日本人があまり知らない19世紀ロシアの音楽事情を知ることができます。そしてここでひのまどかさんが述べるように、その音楽は日本人にも確実に好かれるであろうものばかりだそうです。

そして最後の『我々は「衣食足りて人礼節を知る」と思っているが、本当は、「文化足りて人礼節を知る」のではないかと、以来ずっと考えている。 』という言葉も重いですよね。

「ロシアの若者の目は死んでいなかった。」

では日本の若者の目はどうなっているのでしょうか。私も31歳という若者と言っていいのかどうかわからない年齢ですが、死んだ目にならないよういつまでも志を持ちつづけていようと思ったのでありました。

この伝記も非常におすすめです。ロシア文学好きには特におすすめしたい作品です。ロシア文学をより深く知る上でもこの本は非常に有益なものになると思います。

以上、「19世紀ロシア音楽界を知るのにおすすめ!ひのまどか『ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ 嵐の時代をのりこえた「力強い仲間」』」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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