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アダム・スミス『国富論』あらすじと感想~「見えざる手」で有名な古典経済論。資本主義の暴走はこの本のせい?

目次

アダム・スミス『国富論』~「見えざる手」で有名な古典経済論

今回ご紹介するのはアダム・スミスによって1776年に発表された『国富論』です。

私が読んだのは日本経済新聞出版社より2007年に発行された山岡洋一訳の『国富論』です

早速この本について見ていきましょう。

市場とは、労働とは、豊かさとは―。経済と社会のしくみ、本質を、わかりやすい例と平易な言葉で解き明かした政治経済学の金字塔。画期的新訳で甦る不朽の名著。(上巻)

グローバリゼーションに潜む問題を見抜いていた洞察力、国の役割の本質に迫る慧眼。現代社会が抱える課題とその答えがここにある。現代を読み解く「知の遺産」。(下巻)

Amazon商品紹介ページより

『国富論』については以前紹介した堂目卓生『アダム・スミス』の記事でもお話ししましたが、アダム・スミスの『国富論』は『道徳感情論』とセットで読むことでその意味するところが明らかになるというのが重要な点です。

もちろん、『国富論』単体でも非常に明快でわかりやすいのですが、有名な「見えざる手」が「経済は規制の必要はなく、手放しで市場原理に任せることで自然とうまくいく」という極端な自由主義的経済を推進する根拠として利用されたというのも事実。

このことについて堂目卓生の『アダム・スミス』では次のように述べられています。

これまで、「見えざる手」は、利己心にもとづいた個人の利益追求行動を社会全体の経済的利益につなげるメカニズム、すなわち市場の価格調整メカニズムとして理解されてきた。そして、『国富論』の主要なメッセージは、政府による市場の規制を撤廃し、競争を促進することによって、高い成長を実現し、豊かで強い国を作るべきだということだと考えられてきた。

しかしながら、このような解釈によって作られるスミスのイメージ―自由放任主義者のイメージ―は本物だといえるだろうか。すなわち、はたしてスミスは、個人の利益追求行動が社会全体の利益を無条件にもたらすと考えていたのだろうか。スミスは急進的な規制緩和論者であったのだろうか。市場を競争の場と見なしていたのだろうか。経済成長の目的は一国全体を豊かにすることだと考えていたのだろうか。さらに根本に立ち返ってみれば、そもそも『国富論』は豊かで強い国を作るための手引書として書かれたのだろうか。

央公論新社、堂目卓生『アダム・スミス』Pⅰーⅱ

よく『国富論』の代表的な主張として引用される次の文章はまさしくその典型です。

われわれが食事ができるのは、肉屋や酒屋やパン屋の主人が博愛心を発揮するからではなく、自分の利益を追求するからである。人は相手の善意に訴えるのではなく利己心に訴えるのであり、自分が何を必要としているのかではなく、相手にとって何が利益になるのかを説明するのだ。

日本経済新聞出版社、アダム・スミス、山岡洋一訳『国富論』(上巻)P32

「人間は自分の利益を追求する存在であり、それが市場を作る。だからそれに委ねればいい」

ここだけ読めばそういう風に思ってしまうのですが『国富論』全体の論旨から言うとそれは必ずしも正確ではありません。こうしたこともアダム・スミスの著作をじっくりと読んでいけば感じることができます。

そしてこの本を読んでいて一番驚いたのは、この本の中で商品の「使用価値」や「交換価値」について、また「労働量が富の価値」であるというような解説が何度も出てくることでした。こういう言葉というのはマルクスの『資本論』を連想してしまいます。

この本が書かれたのはマルクスが『資本論』を書くおよそ90年前です。マルクスは当然アダム・スミスの著作も読んでいます。マルクスといえば資本における独自な理論や「剰余価値」などの有名な言葉を生み出したというイメージがありましたが、それらは彼が突然「歴史上誰も考えたこともない新説」を思いついたわけではなく、こうした経済学の歴史の流れで彼が到達した考えなのだなということを知ることができました。

また、『国富論』というタイトル通り、この本では国における富とは何なのかということを考えていきます。

国にただ金や銀などの財があるだけではその国が豊かであるとは言えない。

そもそもお金、貨幣とは何なのか。

国が繁栄し、国民が豊かな生活をするためには市場がどのような状況にあればいいのか。

そうしたことをこの本で見ていくことになります。

普通、国に大量の金や銀、貨幣があればその国は豊かであると思ってしまいますよね。また、輸出超過で黒字がたくさんあればその国は豊かになると考えてしまいます。ですがアダム・スミスによれば単にそれだけでは不十分で国民ひとりひとりが豊かになることはできないと述べます。

この本を読んで、そもそもお金って何なのか、市場、国際貿易って何なのかということを考えさせられました。普段当たり前のようにお金を使い、国内外市場の恩恵を受けて生活していますが、それがそもそもいかなるものなのかはあまり考えたこともありませんでした。そうした「当たり前」を改めて考え直す機会をこの本は与えてくれます。

『道徳感情論』もそうでしたが、『国富論』もかなり読みやすいです。古典経済学の名著というと、厳めしくて難解なイメージがあるかもしれませんが驚くほど読みやすかったです。他の版は読んでいないので何とも言えませんが、少なくとも私が読んだ日本経済新聞出版社の山岡洋一訳版に関してはとてもおすすめです。

以上、「アダム・スミス『国富論』概要と感想~「見えざる手」で有名な古典経済論。資本主義の暴走はこの本のせい?」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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