佐々木閑『仏教の誕生』概要と感想~初学者にもおすすめの仏教入門書!
佐々木閑『仏教の誕生』概要と感想~初学者にもおすすめの仏教入門書!
今回ご紹介するのは2020年に河出書房新社より発行された佐々木閑著『仏教の誕生』です。
早速この本について見ていきましょう。
二千五百年もの間、「生きることがつらい」と感じる人たちを救い続けている組織がある。仏教である。仏教はなぜ生まれ、私たちになにを伝えようとしているのか?仏教誕生の地・インドの基礎知識からお釈迦さまが目指した世界、その修行方法や出家社会の規律や暮らし、そして仏教の定義までを解説。仏教の世界観はこんなにユニークで新しい!厄災多き時代に贈る、最高にわかりやすい仏教連続講義、開幕です。
Amazon商品紹介ページより
今作『仏教の誕生』は仏教入門にぜひぜひおすすめしたい参考書です。仏教に興味があるけど何を読んだらよいですか?と聞かれたら最近はこの本を私はおすすめしています。それほどわかりやすく、読みやすいです。しかも仏教が私達の生活とどのように関わってくるかということも考えていけるので非常に実践的です。単なる知識で終わるのではなく、生きる智慧としての仏教を本書で知ることができます。
本書の「はじめに」で著者は次のように述べています。
私がこの講義でお伝えしたいと思っているのは、私たち一人ひとりの生き方の方向付けです。
我々は誰でも、人間という生物種が集まって作る「一般社会」の中へ生まれ落ちてきます。そして、その中で「一般社会の価値観」を受け取りながら、悪くいえば刷り込まれながら、人生を送っていきます。もちろん順調に、寿命が尽きるまで何のトラブルもなく人生が終われば問題ありません。しかし考えてみると、人生八十年、九十年、百年というようなこの時代、同じ価値観を保ちながら何の過不足もなく幸福に生きていくというような状況はまずありません。世の中は常に変容しますし、たとえ世の中が平穏であったとしても、「老」と「病」と「死」という避けられない定めは、私たちの人生を必ず右肩下がりの、滅びの道へとひっぱっていきます。その宿命の中で私たちは俗世の価値観、つまり「努力してより良い生活を手に入れよう、努力して欲しいものを手に入れよう。それが人生の正しい道だ」という一般の通念と二人三脚で歩いていくのです。
若いときならそれでいいのです。欲求が満たされるということ自体が幸せだと思えるなら、それを目指して頑張るのは当然のことです。ここで言っている欲求というのはお金に対するものだけじゃありません。よい仕事に就き、幸せな家族を作って、穏やかな老後を過ごすというような、社会で一般的に正しいとされている価値観で生きていくということです。
しかし長い人生を歩むうちに、次第にその価値観が実現できない、右肩下がりの状態を実感するようになります。そのとき大切なことは何かというと、生まれ落ちてから二人三脚でやってきた「一般社会の価値観」とは別の生き方があるということを知ることです。
たとえばここに、一般社会という大きな海があって、その海に私たちはポチャンと生まれ落ちるとします。生まれたときから海に囲まれているわけです。だから私たちは、世の中はその海だけでできていると思う。全世界は、自分が知っているこの価値観の中で動いているのであって、それ以外の選択肢はないと思い込んで生きているのです。そういった人がこの講義を通じて仏教に触れ、それが、「一般社会の価値観」を拒否したところに本当の幸福を見出そうとする独特の教えなのだということを知ったとしたら、それまで自分のまわりには海しかないと思っていた人が別世界としての島や大陸があると知るように、まったく新しい生き方を知ることになるのです。
ただしだからといって、私は別にそこへ行きなさいと言っているわけではありません。「仏教の世界へお入りなさい、仏教徒におなりなさい、そうすれば今よりずっと幸せになれますよ」、などと言うつもりはありません。大切なのは、選択できる「生きがいの道」は複数あるということ、この世にはまったく異なる幸福への道がたくさんあるということを知ってもらうことです。
とはいっても、その道はそのへんに普通に転がっているわけではありません。歩いていれば自然にぶつかるというものではない。それは「探せばある」ということを知っていただきたい。言い換えれば、探さなければ見つからないのです。
私がこの講義で伝えたいのは、仏教という、一般社会とは違う生き方もあるということです。ですから、一般社会の生き方も合わないし、私の講義を聞いて、仏教という、社会常識とはまったく違う教えがあることも分かったけれども、しかしそれも自分の考え方とは違う、という方がいてもちっとも構いません。その人はぜひまた、別の道を探していただきたい。ひょっとしたら、その人には仏教よりキリスト教の方がよほど幸せへの道として役に立つかもしれません。それでいいのです。大事なのは、この世の様々な場所に、一般社会の価値観を離れて暮らすための道が存在していて、それは、探し求めれば必ず見つかるという確信です。
いまあるこの状態にもしも満足できない人がいた場合、たった一人孤独の中で落ち込む必要はないのであって、まったく別の生き方をしている人が世の中にはいっぱいいるということを知ってください。その一例が仏教なのです。
厄災多き時代になり、これまでの「一般的な価値観」が揺らいできています。みんなで集まって元気に力を出してエネルギッシュに仕事をしていくと、いつかいい世界が手に入るのだという通念が、ぐらついてきている。そのような中で迷ったとき、実は二千五百年も前からそういう迷いの中で道を見つけていった人たちがたくさんいたということを知ってください。
いろいろな生き方を模索し、探していくと、そこには必ずそれぞれの人に合った価値観の場所が見つかるはずです。この講義がそのための一助となれば、なによりの喜びです。
河出書房新社、佐々木閑『仏教の誕生』P5-9
いかがでしょうか。とても読みやすくて、何か心にすっと入ってくるような優しい語りですよね。
本編に入ってもその語りのまま仏教のエッセンスや当時の時代背景などを解説してくれます。全く仏教の知識のない方にも楽しんで読めるよう本書は書かれているので初学者の方にも安心です。また、仏教のことをある程度知っている方にとっても「ほお!そういう考え方があるのか!」という新たな発見があると思います。仏教における戒を信号機に例えたお話には私もポンと膝を叩きました。
これまで当ブログでは様々な仏教書を紹介してきましたが、入門書としてはこの本がピカイチです。ぜひ私もおすすめしたいです。本書を読んだ後は中村元『古代インド』や馬場紀寿『初期仏教 ブッダの思想をたどる』、辛島昇・奈良康明『生活の世界歴史5 インドの顔』もおすすめです。
ぜひこれらの本も手に取ってみてはいかがでしょうか。
また、佐々木閑先生はYouTubeでも仏教の講座を公開されております。実は本書はこの講義が基になって構成されたものになります。映像で仏教を学ぶ機会というのはなかなかないと思いますのでこれはとても貴重です。ぜひこちらの動画もご活用頂ければと思います。
以上、「佐々木閑『仏教の誕生』~初学者にもおすすめの仏教入門書!」でした。
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