山崎元一『古代インドの文明と社会〈世界の歴史3〉』あらすじと感想~インドの思想・宗教が生まれてくる時代背景を学ぶのにおすすめ!
山崎元一『古代インドの文明と社会〈世界の歴史3〉』概要と感想~インドの思想・宗教が生まれてくる時代背景を学ぶのにおすすめ!
今回ご紹介するのは1997年に中央公論社より発行された山崎元一著『古代インドの文明と社会〈世界の歴史3〉』です。
早速この本について見ていきましょう。
出版社内容情報
ヒンドゥー教とカースト制度を重要な要素とするインド亜大陸。多様性と一貫性を内包した、インド文化圏の成り立ちを詳説する。内容説明
多様性のなかに一貫性を育み、ヒンドゥー教とカースト制度を重要な要素とするインド文化圏。その起源をインダス文明にたどり、史書無き歴史を鮮やかに活写する。スリランカなど周辺地域についても詳説。目次
紀伊國屋書店商品紹介ページより
インド亜大陸
インダス文明の謎
アーリヤ人と先住民
農耕社会の成立
古代王国の成立
非正統派思想の興起
古代インドの統一帝国
外来民族と土着勢力
流動期の亜大陸
古典文化の繁栄
有力国家の分立と抗争
転換期の社会と宗教
インド文化の伝播―スリランカ、中央アジア、チベット
この本は古代インドの歴史や文化を詳しく知ることができるおすすめの解説書です。
「詳しく知ることできる」というと、難しくて読みにくい本というイメージが湧いてくるかもしれませんがこの本は全く違います。ものすごく読みやすく、わかりやすいです。
そして私がこの本を手にったのは仏教が生まれてくる時代背景を知りたかったからでした。なぜ仏教が人々に受け入れられたのかを知るには、思想面だけではなくそれが受け入れられた土壌も知らねばなりません。当時の人々がどんな社会に生き、どんな生活をしていたのか、それを私は知りたかったのです。
この本はそんな私の疑問に答えてくれた素晴らしい作品でした。
この本の冒頭で著者はこの本について次のように述べています。
古代インドへのアプローチ
もう三〇年近く前のことになるが、西洋史の研究者である友人が一年間のヨーロッパ留学にでかけるとき、帰国のさいぜひインドに寄るようすすめた。この友人は律儀にも、そのすすめに従ってデリー、アグラ、バナーラス(ベナレス)を訪れ、強烈なカルチャー・ショックを受けて帰ってきた。
かれの語るところによれば、ヨーロッパ滞在中の生活は日本の暮らしとほとんど違和感がなかったのであるが、インドでは見るもの聞くものすべてが「異国」に属したという。そして、街角で外国人目当ての物乞いにつきまとわれ、牛糞の匂いのする砂ぼこりを浴び、香辛料と線香の匂いのたちこめる狭い通りで人波にもまれる、といった数日を送るうちに、すっかり神経をすり減らしてしまったらしい。
「インド旅行で受けたショックから立ち直るのに、かなりの日数を要したよ」と恨み言をいわれた。もっとも、同行した奥さんは「異国」の旅行を大いに楽しまれたようであるが。
私も三〇年前の初めてのインド旅行のさいに、これと似たような体験をした。古代インドの文明に憧れてインド研究を志したのであるが、旅行中に見たインド人の生活の営みは、仏典を読みながら想像していたものとはかけ離れていた。
ニカ月の一人旅は緊張の連続であり、インド研究者としての自信をすっかり失ってしまった。私の知っているインドが存在したのは、サーンチー、ブッダガヤー、サールナートといった仏教遺跡の静寂の中だけであった。
それ以来、私の関心はインドの社会にも向けられるようになった。そして、インド旅行のさいに驚かされた貧富の差、上下の身分差の根底にあるカースト制度とはいかなるものか、またそれはどのように生まれ、発達してきたのか、といった問題を研究テーマの一つとすることにした。またカースト制度を宗教的に支えてきたヒンドゥー教と、寺院や沐浴場で見た敬虔なヒンドゥー教徒の姿が、どこで結びつくかについても関心をもった。
こうした関心を抱きつつ仏教やヒンドゥー教の古典を読みなおしてみると、そのなかに今日のインド社会につながる記載が意外に多いことがわかってきた。また、インド訪問をくり返すうち、古文献の語るインドと現代のインドとの間の落差も、しだいに小さくなってきた。古代インドを現代インドの源流として眺めることが、少しずつできるようになったからである。
本書では、仏教、ヒンドゥー教に代表される古代インドの文明と、それを生み出した政治的、経済的、社会的な背景が扱われる。対象は広範囲におよぶが、今日のインド社会にもつながるカース卜制度の歴史を、全体を貫く一つの柱とすることにした。
中央公論社、山崎元一『古代インドの文明と社会〈世界の歴史3〉』P9-11
「私も三〇年前の初めてのインド旅行のさいに、これと似たような体験をした。古代インドの文明に憧れてインド研究を志したのであるが、旅行中に見たインド人の生活の営みは、仏典を読みながら想像していたものとはかけ離れていた。」
著者のこの言葉は非常に重要な意味を持っているように私には思えます。
私達は仏教やインド宗教について本などで様々な情報を得ることができます。ですがそこで語られる哲学や思想だけでは掴み切れないものがインドにはあります。哲学や思想も人々の生活を離れてはありえません。これはインドに限らずあらゆる場所でもそうなのではないでしょうか。
この本ではそんなインドの時代背景、人々の生活を知ることができます。
仏教が多くの人に支持された社会事情を知れたのはものすごく興味深かったです。ブッダの教えや生き様の素晴らしさは言うまでもありませんが、当時の社会変動が大きな要因になっていたというのは見逃せません。思想だけでなく時代背景を学ぶことの大切さを痛感する作品です。
ぜひぜひおすすめしたい作品です。
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