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スティグリッツ『フリーフォール』あらすじと感想~新自由主義を厳しく批判したノーベル経済学者の提言!

フリーフォール
目次

スティグリッツ『フリーフォール』概要と感想~新自由主義を厳しく批判したノーベル経済学者の提言!

今回ご紹介するのは2010年に徳間書店より発行されたジョセフ・E・スティグリッツ著、楡井浩一、峯村利哉訳の『フリーフォール』です。

早速この本について見ていきましょう。

内容(「BOOK」データベースより)

強欲をエンジンとしたアメリカの金融資本主義は、二〇〇八年ついに破綻し、その衝撃は地球全土に広がった。グローバル経済は急降下(フリーフォール)した。なぜ誰も、この危機の到来を予測できず、その悪化も防げなかったのか。果たしてわれわれはこの危機から、いつ、いかなる方策によって回復し、再び繁栄への道を歩むことができるのか?ノーベル賞経済学者スティグリッツが、経済再生の処方箋と、新しい資本主義秩序を提示する。

著者について

コロンビア大学教授。国連の「公的金融機関のあり方を研究する専門作業部会」座長。クリントン政権下の大統領経済諮問委員会委員長、世界銀行副総裁を経て、2001年「情報の経済学」を築き上げた貢献によりノーベル経済学賞受賞。行動する経済学者として世界を巡る一方、現オバマ政権にも積極的な提言をおこなう立場にあり、「21世紀のケインズ」と呼ばれている。

Amazon商品紹介ページより
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)Wikipediaより

著者のスティグリッツは2008年のリーマンショックを引き起こしたアメリカの新自由主義を批判したノーベル経済学者です。

私がこの本を手に取ったのはマルクスを学んだのがもともとのきっかけでした。資本主義を批判したマルクス。そして現代もマルクス主義者は資本主義を批判しますが、何もマルクス主義だけが行き過ぎた資本主義を批判しているわけではありません。

前回の記事「佐々木実『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』~日本を代表する経済学者のおすすめ伝記!」でお話ししましたように、日本の誇る経済学者、宇野弘文もアメリカ的な資本主義に強い警鐘を鳴らしていたのでありました。

しかもなんと、今作の著者ノーベル経済学者スティグリッツは若き頃この宇沢弘文の指導を受けていたというのです。これには私も驚きました。

というわけでぜひ宇沢弘文の薫陶を受けたスティグリッツの本も読んでみたい、そんな思いでこの本を手に取ったのでありました。

この本では2008年のリーマンショックはなぜ起こってしまったのかの分析と今後どのような方策を取るべきかという提言がなされていきます。

スティグリッツは序章でこの本について次のように述べています。

本書ではおもに、さまざまな経済観と、それが政策に及ぼす影響を掘り下げていくが、今回の危機とその経済観のつながりを把握するには、実際に起こったことを読み解かなくてはならない。これは犯人捜しの本ではないが、良質のミステリーにも似た物語の要素をそなえている。世界最大のアメリ力経済がなぜ急降下するに至ったのか?どの政策、どの出来事が、ニ〇〇八年大不況の引き金になったのか?これらの問いに対して、合意できるような答えが見出せなかったら、危機を抜け出すために、あるいは次の危機を未然に防ぐために、何をなすべきかという合意は得られない。銀行の悪質なふるまい、規制担当者の失策、FRBの無規律な低金利政策などの果たした相対的な役割を分析するのはたやすいことではないが、わたしがなぜ、金融市場や金融機関に責任の重荷を負わせるのかを、本書ではくわしく解説していきたい。

徳間書店、ジョセフ・E・スティグリッツ著、楡井浩一、峯村利哉訳『フリーフォール』P13-14

ここでスティグリッツがこの本を「良質のミステリーにも似た物語」というのはまさにその通りで、この作品ではまるでドキュメンタリーを観ているかのように話が展開していきます。堅苦しい専門的な経済学の本ではなく、一般の読者でもわかりやすく読めるよう配慮されているのがよくわかります。

それにしてもこの作品で批判されるアメリカ型新自由主義の経済システムの強欲さ、悪質さには頭を抱えたくなります。これを「すばらしい資本主義」として日本にも積極的に導入してきたのが今の日本でもあるわけです。絶望せずにはいられません・・・

そしてスティグリッツは同じく序章で次のような興味深い言葉も述べています。

何がニ〇〇八年の危機をもたらしたかを理解できれば、将来の危機を起こりにくくし、起こった場合でも、終息を早く、被害を少なくすることができるだろう。近年の、負債を土台にしたはかない成長ではなく、堅固な基盤を持つ力強い成長への道をひらくこともできるかもしれない。そして、成長の実りが世界の多くの人に行きわたるようにすることさえできるかもしれない。

記憶というものは短命であり、三〇年もすれば、過去の問題の発生過程を知らない新しい世代が出現する。人間の創意には限りがなく、わたしたちがどんなシステムを構築しようと、わたしたちを守るために設けられた制度や規則を、巧みにすり抜ける人間が必ず出てくるだろう。

徳間書店、ジョセフ・E・スティグリッツ著、楡井浩一、峯村利哉訳『フリーフォール』P23-24

「記憶というものは短命であり、三〇年もすれば、過去の問題の発生過程を知らない新しい世代が出現する」

この本が出た2010年からすでに10年以上時は過ぎましたが、今からおよそ30年前といえば1990年頃。まさに私が生まれた年になります。

たしかに私は戦後の冷戦も、ソ連崩壊も日本のバブルも目の当たりにしていません。

もし私がドストエフスキーの研究をきっかけにソ連の歴史を学ぼうとしていなかったらこれらの歴史も全く知らなかったことでしょう。ましてや「過去の問題の発生過程」など到底知る由もなかったと思います。

スティグリッツの言うように、私達は何も知らない「新しい世代」なのです。だからこそ恐ろしい。先人たちが目の当たりにし悪戦苦闘してきた歴史を私達は知らないのです。だから同じ過ちを繰り返す・・・

歴史を学ぶことの意味はまさにここにあると思います。

1990年頃、ソ連は崩壊し、資本主義が独り勝ちするかと思われたが実際はそうはならなかった。それはなぜなのか。

そしてその頃にはまだマルクス主義の負の遺産やその失敗の原因を生々しく皆が記憶していた。

ですが私達の世代にはマルクス主義の失敗の原因がわからない。同時に資本主義が勝利に沸いたかに見えたあの瞬間もわからない。そして新自由主義がはびこったその原因もわからない。

スティグリッツの「記憶というものは短命であり、三〇年もすれば、過去の問題の発生過程を知らない新しい世代が出現する。人間の創意には限りがなく、わたしたちがどんなシステムを構築しようと、わたしたちを守るために設けられた制度や規則を、巧みにすり抜ける人間が必ず出てくるだろう。」という言葉が不気味に響きます。

私はこうした現実に強い恐怖感を抱いています。

歴史を学ぶことの大切さも再確認した読書となりました。この本もぜひぜひおすすめしたい1冊です。

以上、「スティグリッツ『フリーフォール』~新自由主義を厳しく批判したノーベル経済学者の提言!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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