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吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』あらすじと感想~スピノザの生涯や時代背景も知れるおすすめ入門書!

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吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』概要と感想~スピノザの生涯や時代背景も知れるおすすめ入門書!

今回ご紹介するのは2022年に講談社より発行された吉田量彦著『スピノザ 人間の自由の哲学』です。

早速この本について見ていきましょう。


「本当に存在するのは神のみであり、人間を含め、その他のものはすべて神の<様態>に過ぎない」――一見、もっとも「自由」からはほど遠いように見えるスピノザ哲学が、自由こそは人間の「本性」と考えるのはなぜなのか? 政治的閉塞に被われた現代社会に風穴を開ける、もっともラディカルな思想の魅力を平易な文体で綴る。まったく新しいスピノザ哲学の入門書。

Amazon商品紹介ページより
スピノザ(1632-1677)Wikipediaより

スピノザのおすすめの入門書については以前当ブログでも國分功一郎著『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』を紹介しました。

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國分功一郎氏のスピノザ入門書と本書は何が違うのか、著者の吉田氏は次のように述べています。

これで講談社現代新書には、上野修さんの『スピノザの世界』、國分功一郎さんの『はじめてのスピノザ』とあわせて、スピノザに関する入門書・概説書的な著作が三冊並ぶことになりました。先ほど述べたことと一部重なりますが、先行する二冊と比べた場合、本書の特徴は二点挙げられると思います。一つは、スピノザの思想だけでなく、彼の生涯と生きた時代について、かなり立ち入って解説していることです。そしてもう一つは、他の二冊が『エチカ』で展開された哲学・倫理思想を中心に取り上げているのに対し、本書はそれに負けないくらい、『神学・政治論』『政治論』で展開された宗教・政治思想にも目配りを試みていることです(ただし、その分『エチカ』の扱いが他の二冊と比べて分量的に「薄く」なっているかもしれません)

上野さんや國分さんの本を読まれた方も、「三冊目はもういいや」などとつれないことはおっしゃらず、どうぞ本書を手に取って読み比べてみてください。恐らく三冊それぞれから、ちょっとずつ重なっていてちょっとずつ異なるスピノザの姿が浮かび上がってくるはずです。

講談社、吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』P400

今回ご紹介している吉田量彦著『スピノザ 人間の自由の哲学』の特徴はここで述べられるように、スピノザの生涯や時代背景がかなり詳しく語られている点にあります。しかもそれが非常にわかりやすいのです。

私は2022年の8月にオランダ、ハーグを訪れました。

右から二番目の赤レンガの建物がスピノザが住んでいた家です。私はこの本を読んだことでスピノザの生涯により強い関心を持つようになり、そこでゆかりの地を訪ねることにしたのです。それほどこの本はスピノザの生涯を魅力たっぷりに語ってくれます。

そしてぜひ紹介したいのがこの本のまえがきです。これを読めばスピノザに興味が湧いてくること間違いなしです。

一人(とは限りませんが)の哲学者や一つの哲学的問題に張り付いてしまったら、自分の「哲学」も狭く小さくまとまってしまうのではないか。そうした研究を続けていけば、自分はたとえばアリストテレスやデカルトや一八世紀ドイツ哲学の専門家にはなれるかもしれないけど、独創的なオンリーワンの「哲学者」にはなれなくなってしまうのではないか。

そういう不安をもつ人は、とりわけ若い皆さんの中には、少なくないでしょう。その気持ちは、よく分かります。だれだって他人と置き換えの利かない人生、しかも一回限りの人生を生きているわけですから、過去の哲学者の劣化コピーみたいなものに収まりたくはないし、まして他人からそう見られたくはないですよね。

でも、ここは思い切って逆に考えてみたらどうでしよう。ホモ・サピエンスという同じ種の一員である以上、わたしたち人間の思考回路なんて、どの人も大筋では似たり寄ったりの作りかもしれません。つまり、いくら自分では独創的な思い付きに見えても、それは自分がそう思っているだけで、とっくの昔に他のだれかが思いついているかもしれないのです。

だとすると、最初から変に独創性を意識しても仕方ありません。自分の考えや生き方が独創的かどうかなんて、「他のだれか」がどう考え、どう生きたか知らないうちは、いくら気にしても分からないからです。

自分らしさとか個性とか独自性とかオリジナリティとか、わたしたちの自尊心を変に刺激する語彙は他にもいろいろありますが、まずはそういう言葉を気にするのは止めて、本当に独創的な(少なくとも、そういう定評のある)哲学者にあえて関心を絞り込み、その考え方や生き方をじっくり観測してみませんか。

もちろん、不毛な観測で終わることも考えられます。観測対象が、観測者にとってとことん共感できないタイプの個性の持ち主だった場合です(わたしも昔、そういうのに当たってしまって悩んだ経験があります)。

しかしよほど運が悪くない限り、定点観測によってつかんだ他の哲学者の考え方や生き方は、必ずしも納得できない部分もふくめて、観測者自身の考え方や生き方にその人なりの個性を育むための糧になってくれます。そしてこうした観測を、観測対象や範囲をちょっとずつ変えて積み重ねていくうちに、いつしかその人は個性を「育む」という窮屈な考えからも解放され、より自由に哲学できるようになっていることでしょう。

わたしたちがこれから定点観測する哲学者は、一七世紀のオランダを生きたスピノザ(一六三ニ-一六七七)という人です。今でこそ西洋哲学史上、一七世紀を代表する哲学者の一人という評判が定着していますが、その生涯は(だれかの悪意によって命を落とすことこそありませんでしたが)意外と波乱万丈で、その思想も生前にさまざまな非難罵倒を浴びただけなく、彼が亡くなってからも長いこと評価が定まりませんでした。

スピノザが書いた本の中で、生前に彼自身の名前で出せたものはたった一冊しかありません。あとはみな匿名で、あるいは没後に初めて、刊行されることになりました。にもかかわらず、それどころか本を書き始める以前から、スピノザは同時代のオランダ社会では結構な有名人だったようです。

これには彼の生い立ちが大きく関わっています。迫害を逃れてアムステルダムにやって来たポルトガル系ユダヤ人の二世として生まれ育ったスピノザは、やがてそのユダヤ人の共同体からも「破門」を受けて放逐されます。ユダヤ教からはじかれて、ではキリスト教に改宗するかと思えばしません。彼はあらゆる宗教から慎重に距離を取って生きるという、ヨーロッパ社会の当時の一般常識からすると考えられないほど危険で珍しい生き方を、しかも自ら進んで選び取ったようなのです。したがって、いわば珍しいもの見たさから、ほとんど面識のない人さえ、一時はこぞってスピノザに会いに来たとされています。

そういう生き方をしていたら、宗教に過剰に入れ込んでいる人には殺したいほど憎まれても仕方なく思われますし、実際スピノザを口汚くののしる人は少なくありませんでした。

とはいえ、それはあくまで遠くからの話です。スピノザとの距離が近くなればなるほど、不思議と敵よりも味方が目立つようになるのです。スピノザの味方をした友人たちは、ほぼ全員が曲がりなりにも(オランダ国内では非主流派の)キリスト教徒でありながら、この珍しく得がたい友人をその生前も死後も大切に守り続けました。

彼が基本的につつましく暮らしながらも、特に貧困に苦しんだ様子もなく生涯を(短いながらも)まっとうできたのは、恐らくこうした友人たちの精神的・経済的な支えもあってのことだったのでしょう。

また、友人たちの中に出版業を営むものがいたことは、生前も死後もスピノザにとって特別な支えになったと思われます。世間の情勢から結果的に刊行できなくなることはあるにせよ、生前は少なくとも業者の出版拒否や(なお悪いですが)密告を恐れないで済んだわけですし、死後もその原稿は散逸することなく無事刊行され、今日のわたしたちにまで伝わることになったからです。

一七世紀のヨーロッパは、今日のわたしたちが大局的には自明のものとして認めているさまざまな考え方が、まだ自明でも何でもなかった時代です。そうした時代の窮屈な制約を踏み越えて、自分の思考の首尾一貫性だけを頼りに、考えて考えて考え抜くといったい(哲学的にも世間の扱い的にも)どうなってしまうのか。

スピノザを定点観測すると、いろいろなことが分かってきます。そしてそうした「いろいろなこと」は、どうやらスピノザから数百年隔たった時代を生きているわたしたちにとっても、必ずしもとっくに決着済みの「どうでもよいこと」とは言えないようなのです。

わたしがスピノザを観測し始めたのは、大学院で修士論文を準備していたニニ歳の頃です。その後、観測対象は他にもいろいろできましたが、スピノザに対する観測網はずっと張り続けていて、気がつくとスピノザはわたしにとって、観測歴の一番長い哲学者になっていました。しかも不思議なことに、これだけ長いこと観測を続けていても、そしてスピノザの考え方や生き方にそれなりの親近感が芽生えてきても、スピノザはわたしの期待をいつもいい意味で裏切り続けてくれます。それが面白くて、今も観測を止められずにいるのです。

それでは、しばらくの間お付き合いください。
※一部改行しました

講談社、吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』P7-11

いかがでしょうか。なんだか、スピノザに興味が湧いてきませんか?

著者の吉田氏の語り口は非常にわかりやすく、親しみやすいです。読んでいて、面白い授業を聴いているかのような雰囲気です。

スピノザというと難しいイメージがあるかもしれませんが、この本ではそこまでややこしいことは説かれません。彼の生涯や時代背景を通して彼が何を言わんとしていたのか、彼は何と戦っていたのかがわかりやすく解説されます。

これはぜひぜひおすすめしたい名著です。私もこの本にはとても助けられました。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』~スピノザの生涯や時代背景も知れるおすすめ入門書!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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