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秋島百合子『蜷川幸雄とシェークスピア』あらすじと感想~蜷川演出のシェイクスピア舞台がまとめられたおすすめ本

目次

秋島百合子『蜷川幸雄とシェークスピア』概要と感想~蜷川演出のシェイクスピア舞台がまとめられたおすすめ本

今回ご紹介するのは2015にKADOKAWAより発行された秋島百合子著『蜷川幸雄とシェークスピア』です。

早速この本について見ていきましょう。

「藤原竜也ハムレット」「阿部寛ブルータス」……全く台詞を変えずに、文化と時代を超えたコラボを実現させた新生ニナガワ・シェークスピア劇。熱き半世紀の挑戦とエピソードをまとめた、26タイトル全舞台の記録。

「生きるべきか、死ぬべきか?」「おまえは何者?」文化と時代を超えて突きつける新生ニナガワ・シェークスピア劇。古典に新たな命を吹き込んだ、前代未聞、大胆不敵な演出の全記録。シェークスピアを現代に蘇らせ、世界で絶賛される蜷川幸雄。氏の専属通訳を務め、その活躍を間近で目撃してきたジャーナリストが再現する、熱き半世紀の挑戦とエピソード。演劇ファン必読の一冊!全26タイトルのあらすじ、公演データ、貴重な写真も掲載。

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この本は蜷川幸雄さんが演出したシェイクスピア作品を解説と共に見ていく作品です。舞台制作時のエピソードや蜷川さんの演出についてこの作品では知ることができます。

この本と蜷川さんの演出について著書は巻末で次のように述べています。

蜷川幸雄は一九八五年にエジンバラ国際フェスティバルで『NINAGAWAマクベス』を上演して以来、今年五月のロンドン公演である『ハムレット』と村上春樹原作の『海辺のカフカ』をもって「英国上演三十年」という節目を迎えた。シェイクスピアの外国語版は勿論、英語以外の芝居や映画に字幕をつけて観るのは、なんでも英語中心にものを見るイギリス人にとってはことさらハードルが高い。それを思えば、一人の日本語の演出家による舞台がこれほど持続するというのは驚異的なことだ。

芝居好きのイギリス人の間にニナガワ・シェークスピアが定着したのは、先ずは視覚に訴える美しさの中に物語を展開させ、台詞やアクションを音楽や効果音でバックアップする華麗な舞台作りがアッといわせたからだろう。特にエジンバラに始まる初期の頃は字幕自体が劇場に存在しなかったから、目で見るスぺクタクルの要素はなおさら重要だった。

しかしそれだけで、ここまで継続するわけはない。蜷川演出が成功した秘訣の一つに「枠作り」という、とっておきの魔法がある。幕開けに素顔の日本人が化粧する楽屋風景を描いて、これは日本人が演じる西洋芝居なんだよと知らせれば、リアリズムに縛られた西洋人も納得できる。偶然が重なってみんなが幸せになる荒唐無稽のロマンス劇も、物語の前後に、悲惨な戦場であえて人々が描く夢物語なのだと伝えれば、ありえないようなハッピー・エンドも幻想なのだと理解される。何よりも旋風を巻き起こした『NINAGAWAマクベス』では、仏壇の中に展開する戦国武将の残酷物語の両脇に、それを一部始終眺める二人の老婆、つまり生き証人を「外枠」として置いたことで、この悲劇が長い歴史の中に埋もれることなく、古今東西を問わず語り続けられることを知らしめた。

さらに全体的には、話をクリアに展開してわかりやすくする、というのも蜷川が大いに目指すところだ。シェークスピア劇は登場人物も多いし、話は複雑、母語で観ていても混乱するところはたくさんある。そこで蜷川は、敵対する両陣営を色分けしたり、善玉と悪玉を明らかな顔つきで対比させたり、大階段に階級制を投影したりして、バサッ、バサッと視覚面で切って筋書きをすっきりさせる。基本的な流れがすっと頭に入れば、観客は余裕をもって人間誰もが共有する様々な思いや状況に感情移入し、俳優の演技や舞台の展開を堪能することができるだろう。

観客が日本人でもイギリス人でも、どこの国の人でもそれは同じだ。世界に通じる蜷川演劇が生まれたのは、そのように誰にも通じる普遍的な舞台作りが理解されたからに他ならない。苦手な字幕を読んでも観てみようと、イギリス人が惹きつけられるゆえんである。

この本に作るにあたり、蜷川自身が自著や共著、新聞、雑誌、公演プログラム等で制作当時に話した言葉をできるだけ多く引用して、「蜷川シェークスピア論」とは何かを探ってみた。したがってこれは過去を振り返った回想録ではなく、あくまでも演出の真っ只中、つまりリアル・タイムの蜷川の理念や挑戦を再現することを目指している。

KADOKAWA、秋島百合子『蜷川幸雄とシェークスピア』P232-234

この引用を読んで頂ければわかりますように、この本では蜷川さんの演出の特徴が非常にわかりやすく解説されています。

蜷川さんの鋭い言葉をたくさん聞けるのも嬉しいです。

「芝居は目と耳から入ってくる情報がすべてです。戯曲を読んでいない人が観に来て、『ああ面白かった』と言って帰るものだと思う。芝居で歴史の勉強をするわけではないですから。演劇が文学と違うのは、読み返しができないことだと思っています。どんどん目の前を過ぎていくので、『あそこがわからなかったから前に戻ろう』とぺージをめくり返すわけにはいかない……だからぼくは、現場主義を貫き通そうと思っている。起きている出来事を俳優の言葉とビジュアルで丁寧に渡せるように、心を砕いています。観客にとってシェークスピアは、学習するものではありません」。

KADOKAWA、秋島百合子『蜷川幸雄とシェイクスピア』P70

最後の「観客にとってシェークスピアは、学習するものではありません」というのは特にぐっと来ました。シェイクスピアといえば何か難しそうなイメージがあるかもしれませんが、もっと気楽に楽しめばいいではないかというメッセージが伝わってきます。そしてそのような舞台を作ることを蜷川さんは大切にしているのだなと感じました。

これは以前当ブログでも紹介した中野好夫著『シェイクスピアの面白さ』とも繋がってきます。

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小難しいことはとりあえず置いておいてまずは気楽にシェイクスピアを楽しむ。シェイクスピアが生きていた当時の観客たちはそうやって気ままにげらげら笑って観劇していたのです。であるならば私たちもそのように気楽に楽しもうではありませんか。そして誰もが楽しめるシェイクスピア劇を目指したのが蜷川さんだったのでした。

そして作品ごとのエピソードもとても興味深く、実際にその舞台を観たくなってきます。演劇制作の奥深さやシェイクスピア作品の面白さをこの本では知ることができます。

私も今DVDで蜷川さん演出のシェイクスピアを少しずつ観ています。ものすごく面白いです。生で観てみたかったなあと心の底から思います。

そんな蜷川さんのシェイクスピアを概観できるありがたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「秋島百合子『蜷川幸雄とシェークスピア』~蜷川演出のシェイクスピア舞台がまとめられたおすすめ本」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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