シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』あらすじと感想~あのフォルスタッフを手玉に!機知に富んだ奥様たちの大活躍!

名作の宝庫・シェイクスピア

シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』あらすじと感想~あのフォルスタッフを手玉に!機知に富んだ奥様たちの大活躍!

今回ご紹介するのは1596年から98年頃にシェイクスピアによって書かれたとされる『ウィンザーの陽気な女房たち』です。私が読んだのは筑摩書房の松岡和子訳です。

早速この本について見ていきましょう。

シェイクスピア作品の中で唯一、同時代のエリザベス朝のイングランドを扱った市民劇。無類の酒好き、女好き、太っちょの悪党フォルスタッフ。素寒貧になった怪騎士が思いついたのは、金持ちの人妻に言い寄って、金も恋も思いのままにという企み。ところが陽気な女房たちの仕掛けに逆にはまってしまって大騒ぎ。ウィンザーの多彩な面々に懲らしめられるドタバタ喜劇。

Amazon商品紹介ページより
フォルスタッフ Wikipediaより

この作品は『ヘンリー四世』で大活躍したフォルスタッフが時を越えて再登場した物語です。「時を越えて」というのはどういうことかと言いますと、『ヘンリー四世』の時代は1400年代初頭なのに対し、『ウィンザーの陽気な女房』は1500年代後半のエリザベス朝時代になります。

上の本紹介にありましたように今作はシェイクスピアが唯一同時代を描いた作品です。この不思議な作品に対し、次のような伝説も語られるほどです。巻末解説より引用します。

『へンリー四世』のフォルスタッフをエリザベス女王が気に入り、「恋をするフォルスタッフが見たい」と仰せになったため、シェイクスピアは一気に十四日間で『ウィンザーの陽気な女房たち』を書いた、というのだ。このエピソードもあくまでも伝説の域を出るものではないが、このような伝説が生まれるのも、宮廷初演の事実が、少しずつ脚色され、話を変えながら、伝えられていったからかもしれない。

筑摩書房、シェイクスピア、松岡和子訳『ウィンザーの陽気な女房たち』P208

伝説は伝説ということで事実とは言い切れないものがありますが、ロマンがありますよね。

フォルスタッフの人気から様々な方面から彼の再登場を望む声が多かったというのはありえるのではないでしょうか。シェイクスピア自身もフォルスタッフに大いに手応えがあったのかもしれません。

この作品でもフォルスタッフの活躍ぶりは相変わらずです。ですが今作では『ヘンリー四世』と違ってあくまで受け身です。機知に富んだ2人の奥様に見事にからかわれるフォルスタッフ。元はと言えばフォルスタッフがこの二人に恋文を届けて不倫しようとしたのがきっかけですが、それにしても奥様方のいたずらが冴えわたっています。

夫の目から逃がすために洗濯籠からテムズ川に投げ込まれるフォルスタッフは傑作です。そこから逃げ帰ってきたフォルスタッフのセリフもまたいいんですよね。ぜひ紹介したいです。

俺がこれまで生きてきたのは、肉屋のくず肉みてえに籠にぎゅう詰めにされて、テムズ川に放り込まれるためだったのか?くそ、あと一度でもこんなふうにハメられてみろ、この脳味噌つかみ出し、バターでもつけて犬に食わせてやらあ、お年玉がわりによ。べらぼうめ、あの下男ども、まだ目も開かねえ犬の仔ひと腹十五匹、まとめて溺れさすみてえに、鼻歌まじりに俺を川に投げ込みやがった。なにしろご覧のとおりの図体だ、沈没となりゃあ迅速この上なし。川底が地獄なみに深かろうが、一気にご到着だ。あそこがなだらかな浅瀬でなけりゃ、溺れて一巻の終わりだった。そんな死に方、虫唾が走らぁ。なんせ溺れ死にゃ水ぶくれになる。俺がこれ以上ふくれたら、どんな代物になるってんだ?山そのものみてえな死体だ!

筑摩書房、シェイクスピア、松岡和子訳『ウィンザーの陽気な女房たち』P125

「なにしろご覧のとおりの図体だ、沈没となりゃあ迅速この上なし。川底が地獄なみに深かろうが、一気にご到着だ。」

フォルスタッフ節全開ですね!

この作品では最後までフォルスタッフのこうした抜群の返しが炸裂します。

そしてこの作品を読んでいて感じたのは、気楽さです。何も考えずに楽しめる安心感があります。重苦しい戦争、政治、陰謀、哲学、悲劇とは無縁の軽やかさがあります。

これはもしかするとエリザベス朝時代を舞台にしていることも影響しているかもしれません。シェイクスピアの生きた時代は非常に厳しい検閲がありました。政治的な発言はまさに命とりです。だからこそシェイクスピアは過去の歴史劇は書いても現代劇は書きませんでした。歴史劇ならば「これは過去の話で別の場所の話だからです」と言えるからです。しかもそれでもなおシェイクスピアはかなり気を遣って作品を書いています。『ヘンリー八世』はその典型だと言えるでしょう。主人公のヘンリー八世は何と言ってもエリザベス女王の父です。彼を悪く言ってしまったら完全にアウトです。その辺りの緊張感を感じながら読んだ『ヘンリー八世』は非常に興味深かったことを覚えています。

そう考えるとエリザベス朝というまさに今を描いた作品において、政治や思想について何の緊張も感じることなく読めるというのは意図的なものだったのかなと思ってしまいました。

フォルスタッフを手玉に取る奥様たちの活躍もこの作品の見どころです。これは相手がフォルスタッフでなかったらちょっとかわいそうに思ってしまうかもしれないほどなかなか痛快です。フォルスタッフは自分だけでなく相手も面白くするキャラクターですね。彼あってこそのこの作品だと思います。

この作品はとにかく読後感が軽いです。本当に肩肘張らずにリラックスして読める喜劇です。『ヘンリー四世』『ヘンリー五世』、『ウィンザーの陽気な女房たち』と連続して読んできましたが、前半二作品が戦争と政治の物語でしたのでそのギャップを特に強く感じました。私にとっていいクールダウンになりました(笑)

フォルスタッフの人気ぶりを感じられる愉快な作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』あらすじと感想~あのフォルスタッフを手玉に!機知に富んだ奥様たちの大活躍!」でした。

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