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ローテル『無名の巡礼者 あるロシア人巡礼の手記』あらすじと感想~ドストエフスキーに大きな影響を与えた巡礼の精神を知るのにおすすめの作品

目次

ローテル『無名の巡礼者 あるロシア人巡礼の手記』概要と感想~ドストエフスキーに大きな影響を与えた巡礼の精神を知るのにおすすめの作品

今回ご紹介するのは1967年にエンデルレ書店より発行されたA・ローテル訳『無名の巡礼者 あるロシア人巡礼の手記』です。

早速この本について見ていきましょう。

内容(「BOOK」データベースより)

本書は十九世紀のロシヤの無名の順礼者であった一介の農夫を主人公とした物語で、「絶えず祈るにはどうしたらいいのか」と、彼がたゆまず取り組んでいた問題について語っている。長短いくつもの旅を通じ、また彼の霊的指導者である司祭の導きのもとで、この農夫は徐々にではありますが、神の御命令についての理解を益々深めて行く。

内容(「MARC」データベースより)

「絶えざる祈り」を得るにはどうすればいいのか。その答を求めて旅に出たロシアの一農夫の物語。その探索の旅で見つけた素晴らしい宝物は、何世紀にも亘り東方正教会に秘密裡に継承されてきたイエスへの祈りだった。67年刊の増補。

Amazon商品紹介ページより(私が読んだのは67年の旧版ですがこの解説は新版より引用しました)

この本はドストエフスキーやトルストイにも大きな影響を与えた「ロシアの巡礼」について知るためにうってつけの作品となっています。この本が初めて出たのはドストエフスキーが亡くなった1881年より数年後ですので直接彼がこれを読んでいたわけではありませんが、当時ロシアにいた巡礼者がどのような教えの下生きていたのかということを知ることができます。

この本について訳者のローテルは次のように述べています。少し長くなりますがこの本の成立過程やその内容についてわかりやすくまとめられていますのでじっくり読んでいきます。

この本はもう百年近く前から口シアで非常に好評な得、ほとんど「イミタチオ・クリスチ」にも准ずるものとして、多くの信者たちから広く愛読された名作です。著者は名もないロシアの一信者で、この人は十年以上にわたってロシアじゅうをまわり、遠くシベリアまでも足をのばして順礼の旅を続けたあと、その体験を指導司祭に語りました。指導司祭はかれの語るところをそのままに、漏れなく書きとめました。その手記の原文は、今でも、ロシアのカザン市にある聖ミカエル修道院に残っています。

エンデルレ書店、A・ローテル訳『無名の巡礼者 あるロシア人巡礼の手記』P1

最初に出てくる「イミタチオ・クリスチ」はトマス・ア・ケンピスの『キリストにならいて』のことです。

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ヨーロッパキリスト教修道士の精神的土壌となったこの本は、聖書についで最もよく読まれた作品としても知られています。その『キリストにならいて』に准ずるものとして愛読されていたとすれば、これは相当な作品だということになるでしょう。では引き続き読んでいきます。

そのあと何十年かたって、有名なギリシャのアトス山大修道院のある隠修士が、その手記を書き写しました。その筆写が人々の手から手に伝えられ、次第に愛読者を増しているうちに、多くの人の間から、この手記を印刷物にしたいという望みが起りましたが、それはちょうど、トルストイやドストエフスキーの活躍していた時代でした。

一九二五年になって、この本はドイツ語に翻訳され、一年後にはフランス語の翻訳もできました。―最近ドイツのへルデル出版社は、この本のポケット版を出しましたが、信者たちはふたたび感銘を新たにし、広い範囲にわたって深い感動をまき起こしました。そこで、へルデル社の日本代表者であられるエンデルレ氏は、どうかして、この巡礼物語を日本の信者にもお知らせしたいと思われ、その日本語訳の出版を企てられたわけであります。

革命以前、今から百年前のロシア人の信心生活とまたふつうの日常生活状態をも知りたいかたは、どうぞこの本をごらんください。ここに記録されている物語は、ほかのどんな本にもまさって、そのころの聖なるロシアの真の姿を、いきいきと伝えています。

元来、ロシア民族は非常に信仰心の深い、信心に熱心な人たちです。ロシア人は歴史のどの年代においても、キリスト教の信仰を忠実に守り伝えてきました。四十年余りに渡る共産主義政府の執拗な迫害や弾圧、強制、圧迫にもかかわらず、ロシアの民の信仰を撲滅することはできなかったのです。この民は、言葉では言い現せぬほど深く、信仰に愛着しています。

彼らはその信仰を実践するために、いろいろの方法を用いてきました。その方法の一つが「順礼生活」であり順礼は昔からロシアで実に盛んに行なわれていました。昔のロシアでは、順礼として生活していた人はおびただしい数にのぼり、まさに一つの階級を造るくらいになっていたほどです。トルストイやドストエフスキーそのほかロシアの大文豪の作品にも、こういう順礼たちについて深い関心を寄せている所がみられます。

元来、順礼というものは、来世における永遠の生命の世界を、自分の真の故郷と確信するところから、この世における自分を一種の旅びと、他国をさすらう人と考え、そのために定住の安楽さや住みよい家の快適さを捨てて順礼生活を選び、その旅の生活にともなう無数の不自由や艱難辛苦に耐え忍びながら、まっすぐに天国に向っての努力を続ける人たちです。かれらは旅の間を、まず何よりも熱心な祈りや霊的読書そのほかの霊的修業にあてるようにつとめました。そして、至る所の教会、修道院、有名な順礼地を訪問することをならわしとしていました。

この本はそういう順礼の一人の体験をそのままにしるしたもので、四章に分けられています。ここにしるされた物語は、さまざまなよい教訓や体験談に満ちていますが、特に「絶えざる祈り」とその実践法については、くわしい教訓が含まれています。こういう理由で、わたしたちはこの本を、有益な霊的指導書としても用いることができます。わたしは翻訳者として、この内容豊かなすばらしい本が、日本の熱心な信者がたの間に、一人でも多く読まれることを心から願っています。
※一部改行しました

エンデルレ書店、A・ローテル訳『無名の巡礼者 あるロシア人巡礼の手記』P1-3

私はこの作品を読んで何度も驚かされました。

この本で語られる祈りや瞑想の方法が仏教で説かれることとそっくりな部分がいくつもあったのです。

ロシア正教には東洋的な瞑想の要素と似ている部分があるというのはこれまでも読んだことがありましたがまさにそれを証明するかのような祈りの方法がこの本で書かれていたのでありました。

そしてこの作品の語り手である無名の巡礼者の祈りへの渇望や真摯な信仰心には胸打たれるものがありました。なぜ彼が巡礼者となったのかという経緯もすさまじいものがあります。

仏教徒としてもこの本は大きな意味がある作品だと私は思います。

なかなか手に入れにくい作品ではありますが、信仰と祈りについて学ぶのに素晴らしい作品です。ぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「ローテル『無名の巡礼者 あるロシア人巡礼の手記』~ドストエフスキーに大きな影響を与えた巡礼の精神を知るのにおすすめの作品」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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