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ヘミングウェイ『老人と海』あらすじ解説と感想~ノーベル文学賞を受賞した名作!キューバといえばこの作品
今回ご紹介するのは1952年にヘミングウェイによって発表された『老人と海』です。私が読んだのは2020年に新潮社より発行された高見浩訳の『老人と海』2021年第9刷版です。
早速この本について見ていきましょう。
人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない
ノーベル文学賞とピューリッツァー賞を著者にもたらした
ベストセラーにして世界文学の金字塔
文庫累計500万部突破の名作、50年ぶりの新訳刊行。
八十四日間の不漁に見舞われた老漁師は、自らを慕う少年に見送られ、ひとり小舟で海へ出た。やがてその釣綱に、大物の手応えが。見たこともない巨大カジキとの死闘を繰り広げた老人に、海はさらなる試練を課すのだが――。自然の脅威と峻厳さに翻弄されながらも、決して屈することのない人間の精神を円熟の筆で描き切る。著者にノーベル文学賞をもたらした文学的到達点にして、永遠の傑作。
『老人と海』をより深く知るためのサブテキストも充実!
○解説
執筆時のヘミングウェイの恋、ノーベル文学賞&ピューリッツァー賞受賞、そして晩年までを追う、詳細な作品解説
○翻訳ノート
野球にまつわるエピソード、少年の年齢をめぐる議論……作品の機微を読み解く翻訳メモ
○年譜 −ヘミングウェイの生涯とその時代–
歴史的出来事と同時代の文学や映画作品を通して知る、その時代の息遣い
Amazon商品紹介ページより
『老人と海』はヘミングウェイがピューリッツァー賞やノーベル文学賞を受賞することになった代表作で、キューバを愛したヘミングウェイの最高傑作として知られています。
私がこの作品を初めて読んだのは2019年にキューバを訪れる直前のことでした。
キューバに行くならばぜひ有名な『老人と海』を読んでみたい。そんな思いで手に取ったのがこの作品だったのですが、その時読んだのは福田恆存訳版の『老人と海』でした。
ではなぜ今回福田恆存訳版ではなく高見浩訳の新版をご紹介したのかといいますと、実は表紙のイラストに一目惚れしてしまったのがきっかけでした。
やはり見た目は大事ですね。すでにお気に入りの福田恆存訳がありながらも新たに衝動買いしてしまうほどの破壊力でした。
そして新版のありがたいところは上の商品解説にもありましたように、解説が非常に充実していて初学者にも非常に優しい1冊となっている点です。
福田恆存訳版にも解説はついてはいるのですが、正直かなり難しいです。
それに対し高見浩訳はこの作品の成り立ちや、その魅力、読みどころなどもわかりやすく解説してくれます。これは非常にありがたい点だなと思います。普段古典を読まない方でもすっと入っていけるようなものすごく親切な解説です。
せっかくですのでその解説の一部を見ていきましょう。少し長くなりますがこの作品の魅力をぎゅぎゅっと凝縮した素晴らしい解説ですのでじっくり見ていきます。
一読して、だれもがまず打たれるのは、次々に迫りくる困難に直面しながら、体カと知力の限りを尽くして老人が渡り合うその姿ではないだろうか。
人間は叩きつぶされることはあっても、負けやせん。
その思いを胸に、サンチアゴは執拗に襲いかかるサメの群れと闘いつづける。
その姿はまさしくへミングウェイが一貫して希求してきた行動規範いわゆる〝grace under pressure(困難に直面してもたじろがずに立ち向かう)〟の具現とも言えるだろう。大海原をただ一人飄然とゆく老人の孤影に、へミングウェイは原初的な人間の尊厳を刻みたかったのではなかろうか。
老人の闘志の裏にはまた、海と、そこに生きるものに寄せる深い親愛の情が脈打っていることも見逃してはなるまい。邪険なもの、貪欲なものをひっくるめて、老人は海に生きるものすべてを在るがままに受け容れている。無邪気な生き物を見れば、愛情がストレートにほとばしる。大魚を追う途中、二匹のイルカに出会うと、〝憎めんやつらだ。楽しげにじゃれて、惚れ合ってるんだからな〟と思い、洋上を飛んできた小鳥が釣り綱にとまれば、〝なあ、チビ、たっぷり休んでいけ〟と声をかける。
ついに大魚とめぐり合って一対一の闘いが始まると、最初闘志を燃やした相手に対する思いも、しだいに変わってゆく。悠揚迫らぬ巨大な魚への賛嘆の情から、共に海に生きるものとしての共感へ、そのあげく、〝こうなったら、どっちがどっちを殺そうと同じこった〟と、ほとんど大魚と一体化するまでに思いは高まってゆくのだ。老人にとっては、闘うこともまた愛情の発露なのである。そして最後に、海の化身である大魚に銛を打ち込んで、〝おれはやつの心臓にさわったんだ〟と思えたとき、それは老人が海そのものと完全に融け合った瞬間でもあったのだろう。
老人の頭の中で、海は一貫してスペイン語の女性形、〝ラ・マール〟であり、優しくも険しくもある海を、人間の女性のように、亡き妻のように、愛している。してみればこの物語は、老人と海の壮大なラヴ・ストーリー、大きな意味での自然賛歌とも言えるのではなかろうか。
独り海に漕ぎ出して以来、老人は、自分を慕うマノーリン少年がここにいてくれたなら、という思いを何度も噛みしめてはロにする。そこには若さを失った自覚と詠嘆に加えて、漁の本領、海の奥深さを少年にも伝えたいという願望もこめられていたはずだ。マノーリンのほうも、苦闘の末に生還した老人に向かって、〝また一緒に漁に出ようよ。もっともっと、教えてもらいたいんだ〟とせがんでいる。海を、自然を愛する心は、次の世代にも確実に受け継がれていくことを予感させる幕切れと言えよう。
新潮社、ヘミングウェイ、高見浩訳『老人と海』2021年第9刷版P142-144
いかがでしょうか、非常にわかりやすい解説ですよね。この本では他にも手厚く解説がなされますので、初学者でも気軽に読むことができますので非常におすすめです。
また、肝心要の翻訳の読みやすさですが、これも抜群です。さすが新訳ということで2022年を生きる私たちにも親しみやすい文体です。作品自体も130ページ弱ということで一気に読むことができます。そしてそもそもヘミングウェイ自体が易しい英語でこの作品を書いているという面もあって文章が非常にすっきりしています。
古典といえばややこしくて難しい言葉が並んでいるイメージがあるかもしれませんが、この作品においてはびっくりするほどの読みやすさです。高見訳はぜひともおすすめしたい逸品となっています。
ただ、個人的な好みから言いますと、私は福田恆存訳版も捨てがたいというのも正直なところです。
初めて読んだのが福田訳というのもありますし、何より私はシェイクスピア翻訳ですっかり福田恆存のファンとなっています。
その中でも、『ハムレット』の翻訳にはもう痺れました!出てくる言葉がとにかくカッコいい!テンポよく読みやすい文体ながら何か重みといいますか、格調高さのようなものが感じられるのです。
今作『老人と海』もそんな福田節を楽しむことができます。
高見浩訳もとても読みやすくて私も大満足だったのですが、個人的な好みとしては福田恆存訳もぜひおすすめしたいと思います。あくまで好みの問題なので読みやすさにはほぼ差はありません。どちらも自信を持っておすすめできます。
解説の充実度、読みやすさ、表紙デザインなどの総合力で見るなら高見浩訳、シェイクスピアファンであるならばぜひ福田恆存訳版をおすすめしたいです。
以上、「ヘミングウェイ『老人と海』あらすじ解説と感想~ノーベル文学賞を受賞した名作!キューバといえばこの作品」でした。
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