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C・ウォルマー『世界鉄道史 血と鉄と金の世界変革』あらすじと感想~鉄道が戦争をもたらした?世界規模で鉄道の歴史を学べるおすすめの参考書

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クリスティアン・ウォルマー『世界鉄道史 血と鉄と金の世界変革』概要と感想~鉄道が戦争をもたらした?世界規模で鉄道の歴史を学べるおすすめの参考書

今回ご紹介するのは2012年に河出書房新社より発行されたクリスティアン・ウォルマー著、安原和見、須川綾子訳の『世界鉄道史 血と鉄と金の世界変革』です。

早速この本について見ていきましょう。

1830年に英国で開業した鉄道が、現在に至るまでに地球規模で及ぼした壮大な影響 つまり鉄道がいかに世界を変えたかを理解するための最適な名著。世界全体を視野に建設から文化まで詳しく解説。

Amazon商品紹介ページより

前回紹介したW・シヴェルブシュの『鉄道旅行の歴史―19世紀における空間と時間の工業化』は主に「ヨーロッパにおける鉄道の歴史と、それによる人々の感性の変化」に特化して書かれた本でした。

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それに対して今回ご紹介する『世界鉄道史 血と鉄と金の世界変革』はタイトル通り、ヨーロッパだけではなく、世界中にまで範囲を広げて鉄道の歴史を見ていきます。当然アメリカも出てきますし、日本や中国、アフリカまで出てきます。この本はグローバルな視点から鉄道の歴史を見ていけるので、世界史の流れを学ぶ上でも非常に参考になる作品です。

この本について著者はまえがきで次のように述べています。少し長くなりますがこの本の特徴が示されている箇所なのでじっくり読んでいきます。

主題はあくまでも、鉄道がいかに人々の生きかたを根底から変化させ、ありとあらゆる変化の触媒になっていったか、ということである。鉄道の及ぼした影響は、誇張しようとしてもしきれるものではない。鉄道がどれほど世界を変えたかを理解するには、巨大な機械など見たこともなく、早駆けする馬より速い乗物など乗ったことも見たこともない人の立場に立ってみなくてはならない。そんな人々の世界はさぞかし狭かっただろう。そこへ鉄の道がやって来て、なにもかもがらりと変わってしまったのだ。

「世界の鉄道」とか「世界各国の線路」とかいうタイトルの本はどっさりあるが、ほとんどは列車の技術を絶賛するだけか、社会的な影響については上っ面をなでているだけだ。私が書きたかったのは、鉄道というものが、私たちの生きているこの世界を作り出すのにいかに大きな影響を与えたか、そして事実上すべての国で、いかに発達と変化をうながしてきたかということだ。途方もない大仕事だったが、少なくとも鉄の道の重要性を多少は味わってもらえるのではないか、そしてまた、ニ〇世紀後半には完全に時代後れになっていた発明が、いま目を見張る復活をとげていることを感じてもらえるのではないかと期待している。

先にも述べたように、鉄道のなし遂げたことを説明するより、鉄道によって変化しなかったことを数えあげるほうが簡単なほどだ。ごく簡単に言ってしまうと、一九世紀の最初の四半期から最後の四半期までに、鉄道は世界を完全に変容させた。

それまでは、ほとんどの人が村の外へ出ることはめったになく、出ても最寄りの市場町へ行くのがせいぜいだった。それが、数カ月どころか数日しかかからずに、大陸を横断できるようになってしまったのだ。鉄道の発達によって巨大な製造業が生まれ、産業革命はそのおかげで、この地球上の事実上すべての人々の生活に影響を及ぼすようになった。休日から郊外の住宅地まで、新鮮な牛乳から通信販売まで、ありとあらゆるものが鉄道の到来によって可能になったのだ。

しかも、これは全地球的規模で起こっている。〈リヴァプール&マンチェスター鉄道〉の開業した一ハ三〇年から世紀の変わり目までのあいだに、一〇〇万キロの鉄道が建設され、ごく短距離でも線路の敷設されていない国はほとんどなくなった。

それどころか、本書で見ていくとおり、鉄道はできて当然の場所をはるかに越え、高みに達し、まさかと思うような世界の辺境にまで伸び広がった。そして、そんなあっと驚く鉄道が建設された場所にはかならず、障害を克服するために闘った超人的な男たちの集団が存在する。本書で見ていくそのような大計画は、〈ケープーカイロ線〉を除けばほぼすべてが完成を見ているのである。
※一部改行しました


河出書房新社、クリスティアン・ウォルマー、安原和見、須川綾子訳『世界鉄道史 血と鉄と金の世界変革』 P8-9
リバプール・アンド・マンチェスター鉄道の開業記念列車 Wikipediaより

世界が鉄道によってどれだけ変わってしまったかを広い視野で歴史の展開を追いながら見ていくのがこの本の大きな特徴です。

この本も紹介したいことが山ほどあるのですが、今回はその中でも特に印象に残った箇所をここで紹介したいと思います。

大陸ヨーロッパで鉄道建設の動機になったのは、明らかな経済的利益だけではなく、鉄道は国の統合の手段だという認識だった。鉄道はふつう首都を中心として、そこから例外なく放射状に伸び広がるものだからだ。また多くの政府は、首都と地方を短時間で結ぶ輸送手段があれば、暴動や反乱が起きてもすぐに対応できるとちゃんと気づいてもいた。鉄道網を発達させる利点は、あまりに歴然としているように思われた。鉄道が国じゅうでたらめに伸び広がっていくのに、それをのんきに傍観していた英国のやりかたこそ、標準どころか例外もいいところだったのだ。


河出書房新社、クリスティアン・ウォルマー、安原和見、須川綾子訳『世界鉄道史 血と鉄と金の世界変革』 P 48

産業革命発祥の地であるイギリスでは国主導ではなく、資本家や産業界が中心となって鉄道が広まっていたのに対し、他のほとんどの国では国家事業として鉄道建設が進められていました。これは日本もそうですが、その背景には暴動や反乱の鎮圧という軍事的な目的が大きくあったと著者は述べます。

これは言われてみればなるほどと思いました。ですがこれは言われるまではあまり気付かない視点なのではないでしょうか。

著者は最終章にもこのことについて言及しています。

鉄道はこの世界によいことばかりもたらしたと言うことができれば、どんなに気持ちが安らぐことだろう。第二千年紀で最も重要な発明が鉄道なのはまちがいない。鉄道は、産業革命を数少ない中心地から世界の広い範囲に輸出した。また民主化を進める原動力ともなった。

かつて行けなかった場所へ行けるようになり、文字どおりにも比喩的にも、人々の目は世界に向かって開かれた。鉄道は退屈な重労働の多くから人々を解放し、いたるところに経済発展をもたらした。

だがすでに見たように、よいことばかりではなかった。世界の多くの地域で、鉄道は環境破壊を促進した。今日ではロマンティックに見えるとしても、線路はそれまで手つかずの自然のままだった風景を破壊してきたのだ。

とくに重大なのは軍事的に利用されたことだ。政府は反乱を抑えるためにも、また戦争をするためにも鉄道を悪用してきた。ジョン・ウエストウッドが言ったように、「近代の戦争で、大規模軍隊・多国参戦が可能だったのは鉄道輸送があったからだ。全面戦争は鉄道時代の産物であり、鉄道がなければ不可能だっただろう。

また鉄道がなかったら、ニ〇世紀最悪の犯罪、何百万もの人々を流れ作業的に殺戮するホロコーストも、やはり起こりえなかっただろう。しかしすべて考えあわせてみると、鉄道の誕生は掛け値なしに喜ばしいことだった。それはまちがいない。鉄道は世界じゅうに文明を広め、かつては不可能だった成長のチャンスを生み出した。鉄道がなかったら、経済的な豊かさや産業発展の面では、世界は一〇〇年も遅れていたかもしれない。
※一部改行しました


河出書房新社、クリスティアン・ウォルマー、安原和見、須川綾子訳『世界鉄道史 血と鉄と金の世界変革』P478

鉄道はよくも悪くも計り知れない影響を世界中に与えることになりました。

著者はこの本において鉄道に対してポジティブな見解を持っています。しかしその反面、鉄道が悲惨な事態を巻き起こしていたこともしっかりと言及しています。いや、むしろそうした負の側面こそこの本で丁寧に追って行ったとも言えるでしょう。私たちにとって身近な鉄道がいかにして世界に広まっていったのか。鉄道発祥の地イギリスを超えて世界全体からその歴史を追っていける本書は非常に貴重です。

これはありがたい本でした。産業革命の歴史を追う上でも非常に参考になります。

前回紹介した W・シヴェルブシュの『鉄道旅行の歴史―19世紀における空間と時間の工業化』 と合わせてぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「C・ウォルマー『世界鉄道史 血と鉄と金の世界変革』世界規模で鉄道の歴史を学べるおすすめの参考書」でした。

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世界鉄道史---血と鉄と金の世界変革

世界鉄道史—血と鉄と金の世界変革

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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