ダーウィン『種の起源』概要と感想~世界の思想・世界観を一変させた「進化論」。マルクスとの関係も
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ダーウィン『種の起源』あらすじと感想~世界の思想・世界観を一変させた「進化論」
今回ご紹介するのは1859年にチャールズ・ダーウィンによって発表された『種の起源』です。
私が読んだのは朝倉書店、堀伸夫、堀大才訳『種の起源(原書第六版)』です。
早速この本について見ていきましょう。
ダーウィンによる『種の起原』の発表はその後の世界にきわめて大きな影響を与え、本書は長い人類の歴史の中でも最も重要な著作の一つに数えられている。しかしこれほど有名な書物でありながら、その内容を十分に理解している人はきわめて少ないのが実情である。
ダーウィンの種の起原に対する考えは「自然淘汰あるいは適者生存による生物の漸次的変化」を基本とするものであるが、一八五九年の初版発行以来、ダーウィンに寄せられた様々な批判や反論は彼を大いに苦しませた。しかし一方では、これらの反論は彼の考えを、必ずしも自然淘汰説のみでなく、他の進化要因も認めた幅の広い一層深みのあるものにさせたのである。そして何度かの改訂作業の後に大幅な改訂を行って発表したのが本書である。ダーウィンはその後も幾つかの著作を発表しているが、種の起原に関してはこれが最後の出版となった。故に第六版はダーウィンの種の起原に関する最終的な考え方を表明したものとなっており、さらに公平でしかも固定した観念にとらわれない彼のきわめて柔軟な思考方法をよく表した内容となっている。もちろん、ダーウィンの考えは現在の科学水準から見れば多くの誤りがあり、言葉の使い方からは、その当時の欧州で普通であった南米やアフリカの住民に対する偏見もうかがえるが、これらの点を差し引いても本書を読む価値はきわめて高いと断言できる。
朝倉書店、チャールズ・ダーウィン、堀伸夫、堀大才訳『種の起源(原書第六版)』P487
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ダーウィンの『種の起源』はあまりに有名な作品ではありますが、いざ実際に読んだことがある人というのはかなり少ないのではないでしょうか。
私自身もこれまで読もう読もうと思いつつも、手が伸びなかった作品でした。
ですが前回紹介したジャック・バーザンの著作『ダーウィン,マルクス,ヴァーグナー 知的遺産の批判』を読んで、これはやはり読んでおいた方がいいなと改めて思い、いよいよ読み始めたのでありました。
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正直、もしジャック・バーザンの本を読まないで『種の起源』を読み始めていたら私はきっと挫折していたと思います。
というのも、読んでいてすぐに気づいたのですが、この本は事実や理論、観察の詳細をひたすら淡々と羅列していくという、かなり読みにくい作品だったのです・・・これは厳しい。
科学的な本なので当然と言えば当然なのですが、物語的な、読者を惹き込むような語りはほとんどありません。とにかく淡々と言葉が並べられていくのみです。
ですがジャック・バーザンの解説によれば、この淡々とした読みにくさこそ『種の起源』が世界を席巻した大きな理由だと言うのです。
バーザン自身も『種の起源』は決してわかりやすく書かれた本ではなく、あいまいな点も多い作品だと指摘します。さらに難解でかつ膨大な分量の作品であるため、多くの人はすべてを理解することはできず、そもそも読むことすら困難だったと述べています。
ですがこうした淡々とした難解な文章の中に時折現れる「自然淘汰」「闘争」「進化」「自然選択」という強力な言葉たち。
これらの言葉たちがこの膨大で難解な書物の「要約」として独り歩きしていくことになります。
バーザンはこう語ります。
十九世紀とわたしたちの世紀が科学的著作に与えた一般的な信頼という点からみて、不明瞭さよりも悪い欠点は、ダーウィンが言を左右し自家撞着していることだ。というのも、そのために無節操な読者は『種の起源』なり『人間の由来』なりから、まるで聖書から選び出すかのように、やすやすと自分の目的にかなう語句を選び出して勝手なことがいえたからである。しかし、聖書はさまざまな時代にさまざまな人たちが書いたものを収録した図書館のごときものであるに反して、ダーウィンの書物はいちおう始めから終わりまで一貫したものである。
たとえば、戦争という主題について、戦争が民族の利益になることを証明するにも、また、その逆を証明するにも、ダーウィンは等しくうまく利用できる。しかも戦争は利益にもなれば不利益にもなるという相矛盾する性質があることは、これっぽっちも示唆することなしにだ。
法政大学出版局、ジャック・バーザン、野島秀勝訳『ダーウィン,マルクス,ヴァーグナー 知的遺産の批判』P112-113
※一部改行しました
ダーウィンの『進化論』という水戸黄門の印籠があれば自説を無条件に主張できる。こんな便利なものはありません。
その最たるものが上でお話した「自然淘汰」「闘争」「進化」「自然選択」などの言葉でした。
キリスト教的世界観、価値観がぐらついている中で、これらの概念を用いた科学的な世界観がどんどん語られるようになっていった。
もはや『種の起源』をすべて読み、理解する必要はない。『種の起源』という聖書が存在してくれるだけで充分だ。この存在があるだけで自由に自説を語ることができる。これぞ『種の起源』が難解で膨大なものであるが故の最大のメリットなのでした。そしてお気づきの方もおられると思いますが、これは『資本論』にも共通する事柄です。
バーザンの著書ではこのように『種の起源』を見ていきます。こうした解説を読んだ後に『種の起源』を読んでいくと、「なるほど!そういうことか!」という箇所がいくつも出てきます。
私にとって、この本が世界を席巻した理由に思いを馳せながら読んでいくのは非常に興味深い体験となりました。
読み物としては『種の起源』は厳しいものがありますが、ひとつの時代を生み出した「歴史的な書物」として読んでいくのはとても刺激的です。
おすすめ本として紹介できるかは悩ましいところですが、マルクスの思想や宗教とは何かという観点からは非常に重要な作品であると思います。マルクスに関心のある方にはあえてこの作品をおすすめしたいと思います。
以上、「ダーウィン『種の起源』を読んでの感想~世界の思想・世界観を一変させた「進化論」」でした。
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