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『シュメール神話集成』あらすじと感想~「人間の創造」や「洪水伝説」など世界宗教に影響を与えた神話を堪能できる1冊!

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『シュメール神話集成』概要と感想~「人間の創造」や「洪水伝説」「イナンナの冥界下り」など世界宗教に影響を与えた神話を堪能できる1冊!

今回ご紹介するのは2015年に筑摩書房より発行された杉勇、尾崎亨訳の『シュメール神話集成』です。私が読んだのは2021年第5刷版です。

早速この本について見ていきましょう。

世界四大文明のひとつであるメソポタミア文明。この「肥沃な三日月地帯」に栄えた文明の基礎を築いたのが、チグリス・ユーフラテス川の下流域に生活していたシュメール人であった。彼らは独特の楔形文字を使って粘土板に神話や叙事詩を刻み、その世界観は後世の周辺地域に絶大な影響を与えたと言われる。旧約聖書の「ノアの方舟」へと継承された「洪水伝説」のほか、「イナンナの冥界下り」「ウルの滅亡哀歌」など、神話を中心に16の文書を精選。他では読むことのできない重要な原典に、充実の注・解説を付したアンソロジー。

Amazon商品紹介ページより

前回の記事ではシュメール神話の代表作『ギルガメシュ叙事詩』を紹介しました。

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今回ご紹介する『シュメール神話集成』はその同時代に作られたその他のシュメール神話を堪能できる1冊となっています。

前回の記事と重複になりますが私がなぜシュメール神話を読むことになったのかをまずはお話しさせていただきます。

私がこの作品を読もうと思ったのは前々回の記事で紹介した森和朗著『乗っ取られた箱舟 アララト山をめぐるドラマ』がきっかけでした。

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この本の中で旧約聖書の有名なエピソード「ノアの箱舟」の起源がこの『ギルガメシュ叙事詩』にあったことを知り、私は大きな衝撃を受けたのでした。

アルメニアから見たアララト山、手前はトルコ国境付近にある修道院 (Khor Virap) Wikipediaより

「ノアの箱舟」が漂着したとされるアララト山は現在トルコ領にある聖地中の聖地です。

ですがその「ノアの箱舟」の物語が実は紀元前3000年から2600年頃に繁栄したメソポタミア文明のシュメール神話『ギルガメッシュ叙事詩』から着想を得ていたという驚きの事実がこの本では語られました。せっかくですのでその箇所を見ていきましょう。少し長くなりますが重要な問題ですのでじっくりと読んでいきます。

ノアの箱舟の大洪水の話は、キリスト教徒以外にもよく知られているが、私たちはそれをただの神話のようなものだと思っているのではないか。

しかし、キリスト教徒、とりわけアメリカ人には、それを歴史的な事実だと受け取っている人が多いようだ。聖書は神から聴いた言葉をそのまま記したものであるから、そこに架空の話が紛れ込んでくるはずがない。いや、ノアの箱舟はまだスケールの小さな方で、無限の宇宙そのものが神の創造によるものだと信じている人が、アメリカ人の半分以上もいるということだ。二〇一五年に世界中から投票を募るコンピューターのサイトが、「世界の創造は神によるものか、それとも、ビッグバンによるものか」というアンケートをしたところ、神による創造を支持する割合が、アメリカ人では突出して高くて、五八パーセントにものぼったという。

このように神が世界を創造したと信じるなら、その神は世界を滅亡させることもできると考えるのは、自然であろう。神が送り込んだ大洪水で人間が絶滅したとしても、ノアとその一族だけは箱舟に逃げ込んで助かったという旧約聖書の記述を、それほど心理的な抵抗感もなく読むことができるだろう。

それでは、聖書のなかでノアの箱舟と大洪水がどのように記されているか、見てみることにしよう。

「創世記」の六章にはこう書かれている。―「主は人の悪が地にはびこり、すべてその心に思いはかることが、いつも悪い事ばかりであるのを見られた。主は地の上に人を作ったのを悔やみ、心を痛め、『私が創造した人を地からぬぐい去ろう』と言われた。」

こう決意したものの、神にもいくらか気が咎めたのか、人間のなかでも例外的な善人であるノアだけにはそっと告げ口して、「自分は間もなく人類を滅ぼす大洪水を地球にもたらすが、お前は今すぐ箱舟を作って家族とともに乗り込め」という特別の忠告を与えた。ノアがそれを実行して、人間が滅亡した後も彼とその一族だけは生き残ったという話は、あまりにも有名であるから、くどくど書くまでもない。

ところが、神すらも予測することができなかった、青天の霹靂のようなことが起こった。神が禁じておいた知恵の木の実を人間がたらふく食べたために、知恵がつきすぎてしまって、十九世紀ともなれば、科学なるものが神を置き去りにして、どんどん独り歩きするようになってしまったのだ。

色々な科学が競い合うように発展していったが、そのなかにはのろま、、、の部類に属する考古学も加わっていた。地中深く埋まった遺跡を発掘したり、そこから見つかった粘土板や羊皮紙に書かれた文字を解き明かす技術が、急速に発達していったのだ。

そして、ついに来るべき時が来たのである。

時は一八七二年、ロンドンの大英博物館に勤めていて、粘土板に刻まれた楔形文字がかなり読めるようになったジョージ・スミスは、古代アッシリアの首都ニネヴェの王宮書庫から出上した粘土板文書を調べていて、あっと驚くような発見をした。後になって『ギルガメッシュ叙事詩』と呼ばれるようになったものの一一番目の書版のなかに、聖書のノアの箱舟の記述に細部までよく似たことが書かれていたからである。

スミスが自分の発見を聖書考古学協会で発表すると、当然のごとくセンセーションを呼び起こした。これまで聖書は神の言葉を書きとめたものだ信じ込んでいた、欧米のキリスト教徒たちは、聖書のなかの最も有名な挿話の一つに種本があると指摘されて、開いたロがふさがらなくなっただろう。

鳥影社、森和朗『乗っ取られた箱舟 アララト山をめぐるドラマ』P17-19

「聖書もかつての宗教から様々なモチーフを借用して書かれていた」。これは宗教とはそもそも何なのかを考える上で非常に重要な指摘です。

この本を読んでいて『ギルガメシュ叙事詩』やシュメール文化についてとても興味が湧いてきました。

というわけで前回の記事では『ギルガメシュ叙事詩』を紹介し、今回の記事ではその他の神話が収録された『シュメール神話集成』についてお話しすることになったのでした。

この目次を見て頂けましたらわかりますように、この本では様々なシュメール神話を読むことができます。

この中でもやはり気になるのは「人間の創造」、「洪水伝説」、「イナンナの冥界下り」です。

「人間の創造」はタイトル通り、人間がいかにして創造されたかという神話になりますが、この神話について巻末の解説では次のように説かれています。

人間の創造についてはどの民族も大きな関心を寄せてきたテーマである。そのなかでも年代的に古くかつもっとも広く知られている物語は、へブライ人のあいだに伝えられてきた「(旧約)聖書―創世記」であるが、しかしそれに先き立つものとしてバビロニア人やシュメール人のあいだに語り継がれてきた創造物語を無視することはできない。これらは「聖書」の物語に大きな影響を及ぼしたからである。(中略)

この短い物語の内容はかいつまんで紹介すると、次のようになる-まず、天地(つまり、宇宙)と女神たちが作られ、その天地のプランも定められ、農業に重要な灌漑渠などが完成したとき、アン、エンリル、ウトゥおよびエンキという大神(男性神)たちは、運命を定めるアヌンナキの神々に尋ねる。「おまえたちはこれから何を創るつもりなのか」と。彼らは、二人のラムガ神を殺してその血で人間を創造しよう、という。その目的は、運河の維持や農作業などの労働、神々の神殿を建立し、祭りを絶やさないこと等々を通じて神々に奉仕させることにある。この提案は受諾され、母神アルルによって人間が創られた。しかしながら、その具体的描写はない。シュメール人にとっては、神による人間創造の所作そのものよりはむしろ、人間というものは神々に奉仕するがためにこそこの世に生を受けているのだ、ということに関心があったからであろう。

ところで、「聖書」によれば人間は土で作られた。アダムである。アダムとは「土」を意味するへブライ語である。神は彼の肋骨から女をつくった。これがイヴである。しかし、バビロニア人は、人間は神の血からつくられたと考えた。荒ぶる神を二人殺して、神々は最初の人間アンウレガルラとアンネガルラ一それぞれの語頭に立つ「アン」は神格化のための記号と解することもできる一を創造した。ではその目的は何か。聖書では人間を動物の上位におくことであったが、バビロニアの物語では上述のように神々に代って仕事をして神々に奉仕することであった。

この物語では人間は神の血から創られたと考えられているが、他のシュメール説話は土からの人間創造を伝えている(「エンキとニンマフ」という標題が与えられている創造物語)。人間が土の中から萌え出てきたとしている話は他のシュメール語テキストにもしばしば見い出されるから、シュメール人は元来人間は土から創られたものと考えていたのかもしれない。そうであるならば、ここに訳出したアッシリア版「人間創造」物語は、そのシュメール語テキストといっても、本来の形からかなりバビロニア風に変えられてきた姿を反映しているものとなる。

筑摩書房、杉勇、尾崎亨訳『シュメール神話集成』2021年第5刷版P245-246

旧約聖書の天地創造は誰もが知る有名な物語ですよね。ですがそのはるか前にシュメール人たちはこうした神話を生み出していたのでありました。

人間はどこからやってきて、何のために生きるのか。

古代人も現代を生きる私たちと同じように悩み、考えていたのだなということをつくづく感じさせられます。

旧約聖書と比較しながらこの神話を読むのは非常に興味深いものがありました。

そしてそれは次の「洪水伝説」も同じです。前回紹介した『ギルガメシュ叙事詩』の中でも洪水伝説は語られていましたが、それとは別に独立して「洪水伝説」は成立していたのでした。

メソポタミア文明はチグリス川、ユーフラテス川に囲まれた土地に生まれた文明です。この地域は豊かな水源によって育まれた地でありながらも、突然襲われる洪水にも苦しむことになりました。「恵みと恐怖」、2つの顔を持つ圧倒的な自然現象があるからこそこうした洪水神話が生まれてきたのでしょう。宗教や神話に地理的条件が非常に大きな影響を与えていることを考えさせられます。

そして最後に「イナンナの冥界下り」です。この神話もかなり衝撃的でした。

というのも、ここで語られる物語が『古事記』のイザナギの黄泉めぐりを彷彿とさせるものだったのです。

「イナンナの冥界下り」はこの本に収録されている神話の中でもかなり分量の多い物語になっていて、そのストーリーはかなり盛りだくさんでここでざっくりとお話しするのが難しいくらいです。

ですのでここではお話しできませんが、今から5000年ほど前にすでに冥界という「あの世の世界」が明確に想定され、さらには神の力があればそれとも干渉することができるという発想がすでにあったということになります。これには驚きです。

『古事記』のイザナギ、イザナミの物語もなかなかショッキングですがその2000年以上も前に似たような神話がメソポタミアの地で語られていた・・・これをどう考えればいいものか・・・

人間が神話を生み出していく過程は世界共通なのか、それともシュメール文化が何らかの形で世界中に少しずつ伝わり、遠く離れた日本の地の文化にも影響を与えていたのか。

専門家ではない私には何とも言えませんが、人間において根源的なものは世界共通なものがあるのではないかという思いはより強くなりました。特に宗教や神話において、それぞれ違いはありつつも多くの共通点があるのは意味深いことなのではないでしょうか。様々な宗教を比較して見ていく大切さはこうしたところにもあるのではないかと思います。

以上、「『シュメール神話集成』~「人間の創造」や「洪水伝説」「イナンナの冥界下り」など世界宗教に影響を与えた神話を堪能できる1冊!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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